ーーNo.184 集まった首脳陣ーー
船でヒピオニア大陸へ航行していた
達。
まだまだ先は長いか、と
がまだ見えぬ島影に視線を向けていた時、船に影がおりた。
かと思うと、腹に響くほどの鳴き声が響き、空からバウルが迎えにやってきた。
ジュディスが迎えに来てくれたおかげで
、フレン、ヨーデルは予定よりも早く首脳陣が集まる場へと降り立つことができた。
フレンやヨーデルを警護する騎士と共に、
は進んでいた。
そして、先に到着していたらしいユーリ達の背中を見つけると、ようやく目的地に着いたと声を上げた。
「到着〜・・・って、ここ野原だったはずよね?」
周りの景色の変貌ぶりに、
の驚きが零れる。
数日前まではそこは魔物の大群がひしめく草原で、怪我人や避難民が身を寄せ合っていたはずだった。
しかし、今は違った。
目の間には丸太小屋が建ち並び、何軒かは作りかけだ。
さらに周囲には心許ないが丸太で囲まれた壁で囲まれ、しっかりと堀も作られている。
西の方にはきっと遠くまで見渡せるだろう高い見張り台まで作られていた。
「・・・すげえよな、もうこんなに・・・」
「短期間で街がここまで・・・信じられません」
と同じように、ユーリやエステルもすでに街と呼べるその景色に驚いていた。
「どうやら魔法じゃないみたいよ、ホレ」
「完徹で燃え尽き〜、って感じ」
レイヴンやリタの言う通り、その辺には地べたに座り込んだまま眠っているギルド員の姿があった。
さらにそこに騎士団の姿を認めた
は感心したように呟いた。
「騎士団も頑張って戦ってたみたいね」
「みんなで力を合わせたらこんなことさえできちゃうんだね」
嬉しそうに言ったカロル。
と、近付く足音が響いたことでユーリ達はその方向を向いた。
「どう?お気に召して?」
「正直、脱帽だ」
「天下の幸福の市場ここにあり、ですね」
足音の主、カウフマンにユーリと
が笑みを返す。
そこへ、ヨーデルを警護を担当する騎士の元へと送り届けたフレンがやってきた。
「ユーリ、どうだい?そっちの方は」
「ああ。話しつけてきた。
今、ジュディが迎えに行っている」
ユーリの言葉に頷いたフレンは、空を覆う災厄を見上げた。
「・・・もう時間は残されていない」
「ついに世界の首脳陣が集まるのですね」
「あとは分かってもらえるかどうかだね」
「ああ」
エステルとカロルに頷いたユーリは、フレンと同じ空を見つめ呟いた。
「精霊・・・星喰み・・・デューク・・・」
「世界中の魔核を精霊に変える・・・」
「・・・途方もない話ですね・・・」
その場に介したのは、戦士の殿堂統領代行ナッツ、五大ギルド幸福の市場社長カウフマン、帝国次期皇帝ヨーデル、天を射る矢代表、ハリー。
ユーリ達の話を聞いた現在の首脳陣は深刻な表情を浮かべていた。
「信じがたいだろうがな。
これが今オレ達のぶつかっている現実だ」
「魔導器がこの世からなくなる・・・結界もなくなる。
大混乱になるな」
「でなきゃデュークか星喰みにやられて一巻の終わり」
フレンに応じたレイヴンに、ハリーも頷いた。
「選択の余地はないが・・・果たして受け入れられるか?」
「誰も破滅の未来を望んでいないと思います。
辛くても生きていれば前に進めます」
「うん。だからボク達はやるんだ」
エステルとカロルの言葉に、それまで両目を伏せていたヨーデルはゆっくりと目を開けた。
「・・・人々の混乱を防ぎ、明日へ導くのは帝国の務め。
今こそ人々のための治世を敷く時なのですね」
「ええ。先導の舵取りはここにいる方々にしかできないことですから」
ヨーデルの視線を受けた
が頷いて返す。
そんな会話をしている間にも、腕を組んだカウフマンはこれから成すべきことを組み立て始めた。
「人々の生活基盤を整えて、魔導器に代わる産業を確立・・・燃えるわね」
「結界無しで魔物を退けるための方法も考えなければ」
「傭兵ギルドや魔狩りの剣だけじゃまかなえねぇしな」
ナッツの言葉にハリーが応じると、ヨーデルが提案を示す。
「騎士団の再編をギルドと合同で行うと言うのはどうでしょう?」
「面白い試みだけど、すんなりいくかしら?」
ヨーデルの提案にカウフマンが指摘すると、さらにそれへの返答が返る。
首脳陣に魔核を精霊化することに同意と同じ答えをもらったユーリ達は、視線を交わすと外へと歩きだした。
それに気付いたフレンも静かにその場を後にする。
「最後まで立ち会わないのかい。
それに
は・・・」
背後からかかった言葉に、
は手を上げて遮った。
「殿下と話はついてる。
それに立ち会う必要ないでしょ。ああいういのは私達の仕事じゃないしね」
「そうそう。お偉いさんがまとめれば良いんじゃない?」
「彼らが思うよりも人々は今の生活から離れられないと思うけど、
彼らはそれを整えるのが仕事。
私達の仕事は・・・」
「星喰みをぶっ潰して、デュークのヤツを止める事」
ジュディスの後を引き継ぎ、ユーリが空を見上げて答える。
「・・・そうか」
「すまねえな。面倒な事は全部お前に回しちまって」
苦笑するユーリにフレンは申し訳なさそうに首を振った。
「こっちの台詞だ。いつも一番辛いところを君達に任せてしまってすまない」
「さぁ、ボクらもがんばらなくちゃ!」
「でも世界中の魔核にアクセスする方法が・・・」
前向きなカロルとは反対に、リタの気落ちした声が響く。
と、
「それなんですけど・・・アレクセイやバルボスの残した研究成果の中に、魔導器間のネットワークを構築するみたいな記述がーー」
「本当!?それ今どこにあるの!?」
ウィチルの言葉にぱっと顔を輝かせたリタが詰め寄る。
「えっと、僕の私物と一緒に・・・って、ちょっと、ねえ!人の荷物勝手に見る気ですか!?」
「あ!わたしも行ってきます」
走り去った二人にエステルも続き、喧騒は一気に過ぎ去っていった。
呆気に取られたカロルはその方向を見て呟く。
「・・・行っちゃった」
「少し、望みが繋がったようね」
「ええ。あの子がああなったらきっと答えを見つけてくれるわ」
顎を撫でたレイヴンにジュディスも表情を明るくして答える。
「そうね。何しろアスピオの天才魔導士様だもの」
「だな。期待して待ってようぜ」
ユーリに一同が頷くと、世界の魔導器の件が解決するまで自由行動となった。
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2008.9.28