ーーNo.182 招集に向けてーー





































































「ふぅ、とりあえず怪我人の手当はこれで終わりね・・・
エステル、あまり無理しちゃダメよ」
「はい、大丈夫です」

エステルの返事に頷いた は立ち上がり、周囲の様子に目を向けた。
すでに日は沈み、時刻は夜の刻限。
魔物の活動時間ではあったが、リタが作った装置、明星壱号(カロル命名)のおかげで魔物のほとんどは一掃していた。
群れの中心から戻った 自身も、怪我人を収容したり、魔物の残党を退治したりと忙しく動き回った。

「思った以上に重傷者が多いわ。
エステルのおかげでみんな命は取り留めたけど、すぐには動かさない方がいいわね」
「しばらくここで守り抜くしかないか」

別の怪我人の手当を終えたジュディスの言葉に、辺りを警戒していたフレンは考え込むように顎に手を当てた。
その時、

「それならここを砦にしてしまえばいいんじゃない?」

皆が声の方に向くと、幸福の市場の社長がこちらへ歩いてくるところだった。

「お久しぶりね、ユーリ君。凛々の明星ブレイブヴェスペリアの噂、聞いてるわよ。
手配してた傭兵では十分じゃなかったようね。
こちらの不手際で迷惑かけたわ」
「いえ、ギルドも今混乱しているでしょう。
ご助力感謝します」

後半を向けられたフレンは頭を下げ、そんな騎士団長代行にカウフマンは微笑を向けた。

「お詫びと言ってはなんだけど、ここの防御に協力するわ」
「あんたが戦うってのか?」
「まさか。私は商人よ。まぁ見てらっしゃいな」

ユーリに不敵に笑んだカウフマンが立ち去ろうとするのを見た は走り寄るとフレンと同じく会釈を返した。

「カウフマンさん!
ありがとうございました。船から傭兵まで工面してもらって」
「お互いビジネスだもの。それに今回はこっちに手落ちがあったし、完全ではなかったわ」

女社長の言葉に は首を振った。

「いえ、それでもですよ。
ユニオンがまとまらない中、助かりました」
「ふふふ、あなたらしいわね。
じゃ、これから忙しくなるからまた後でね」
「ええ。社長の手腕、期待してますから」

ひらひらと手を振って が見送ると、聞き覚えのある少年の声が響いた。

「フレン隊長!無事で良かった!」
「ウィチル!・・・何かあったのか」

緊張感が漂うウィチルの様子に、フレンは表情を引き締めた。

「はい・・・例のアスピオのそばに出現した塔ですが、
妙な術式を周囲に展開し始めました。
紋章から推測するに、何か力を吸収してるようです。
それにあわせてイリキア全土で住民が隊長に異変を感じだしています」

少年魔導士の報告に、 とユーリは予想していたことだが表情を曇らせた。

「・・・デューク」
「ついに始めたか・・・」
「吸引・・・体調・・・人間の生命力は純度の高いマナ・・・それを攻撃に使うつもり?」
の言った予測が、最悪の形で実現しそうだわね」

独白するリタの隣でレイヴンの言葉に は嘆息した。

「術式は段階的に拡大しています。
このままいくといずれ全世界に効力が及ぶ可能性が・・・」
「そんな・・・!」
(「シルフが言っていた全世界の人々の命と引き替えってこういうことだったのね・・・」)

ウィチルの報告にショックを受けたエステルが俯いた。
は内心の悲しみと焦りを隠したまま、デュークがいるだろうその方向を見つめた。

「ウダウダしてらんねえな」
「でも、思った通りこのままだと精霊の力が足りないわ」

天才魔導師の言葉にカロルは驚いた。

「ええ?あんなすごい威力なのに!?」
星喰ほしはみの大きさからすると、あれの何百倍ものが必要になるわね」
「何百倍!?そりゃまた・・・」

顔を引き攣らせたレイヴン。
ユーリは嘆息すると、

「・・・やっぱ魔核コアを精霊に変えるしかないか」
「でも、それはまだ解決してなかったわよね?」
「待ってくれ!僕らにも分かるように説明してくれないか」

ユーリ達だけで話が進められる中、全く話についていけないフレンが声を上げる。
話を中断したユーリ達は仲間と視線を交わすと、ユーリがフレンに向いた。

「そうだな。ちゃんと話そうと思ってたとこだ。
なあフレン。ヨーデル殿下やギルドの人間にも聞いてもらいたいんだ。
ここに呼べねえか?」

その発言に、その場の全員が唖然と固まった。
はスタスタとユーリに歩み寄り手を近づけると、無言で頬を引っ張った。

「いふぇふぇふぇ!あにすふんだ!!」
「寝ぼけたこと言ってるからおつむを起こしてあげようと思って。
でも、どうやら正気らしいわ、どうしましょう・・・」

は手はそのままに哀れむような視線をユーリに向ける。
やっとのことで の手を払ったユーリは、赤くなった頬をさすり半眼を向ける。

「痛ってえな・・・」
「フフ、ハハハハハ」
「も〜、ユーリ。
皇帝をこんなところに呼びつけようって言うの?」

最年少のカロルにまで言われたユーリ。
どうにか笑いが落ち着いたフレンは、明るい表情のままユーリを見る。

「君はホントに君のままだね」
「あぁ?なんだってんだよ?」

訳が分からないユーリは胡乱気にフレンを見つめる。
フレンは苦笑を零すと一つ頷いた。

「はは、分かった。何とかしてみるよ。
そうだ、 は僕と一緒に帝都に同行してくれないか」
「は?いきなりね、どうしたのよ?」

目を瞬かせた に、フレンは真面目な顔で呟いた。

「話があるんだ」
「?ここじゃ聞けないの?」

首を振るフレンに、 は眉根を寄せる。
すると、 の横からユーリが言った。

「行ってやれよ。
たまにはフレンのわがまま聞いてやらねえと、矯正できないくらいひねくれるかもしれないだろ」
「・・・ユーリ、それ私に対する仕返しと取るわよ」

にやりと笑うユーリに、半眼を向けていた だったがここで押し問答してても埒が明かないと、諦めたように息を吐いた。

「はぁ、分かったわよ。一緒に行ってあげるわ」
「ありがとう、
ユーリはユニオンや戦士の殿堂パレストラーレの人達に話をつけてくれ」
「分かった」
「なら、帝都を経由してダングレストとノードポリカね?」
「ああ。またひとっ飛び頼む」

ユーリ達はそれぞれの場所に向かうため、フィエルティア号へと向かった。



























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2008.9.23