ーーNo.180 旧友の危機ーー































































ユーリ達は宿屋で役人の男が呼んでくるだろう二人を待っていた。
時間の流れがひどく長く感じる。
きっと聞かされる話は楽しい話ではないことぐらいは予想ができていた。
と、ようやく沈黙を守っていた扉が開かれた。
そして、苛立ちが滲む高い少年の声が響く。

「ようやく捕まえましたよ!どこほっつき歩いてたんですか!」

ウィチルに詰め寄られたユーリは肩を竦めて返す。
吠えるウィチルの後ろでは、いつもは突っかかるはずのソディアが気不味そうに視線を下げたままだった。

「ユーリ・・・ローウェル・・・」
「・・・」
「・・・ソディア?」

様子がおかしい副官にウィチルが振り返る。
しかし、ソディアは相変わらず何の反応も示さず、ユーリも言葉を発することはない。
そんな微妙な雰囲気を変えるように はウィチルに話を振った。

「で?一体何の用なの?
フレンに関係あることなんでしょ?」
「あ、はい・・・あの怪物が空を覆ってから、大勢この大陸から避難してるんです。
でもギルドの船団で帝国の護衛を拒否する者がいて、隊長はそれを放っておけなくて・・・
魔物に襲われた船団はヒピオニアに漂着、僕達は戦ったけど段々、追い詰められて・・・」
「・・・私達だけが救援を求めるため、脱出させられた・・・
でも、騎士団は各地に散っていて・・・」
「もう皆さんにお願いするしか方法はないんです」

悔し気に呟くウィチルに、そういうことか、と は状況を理解した。
目的地までできるだけ早い足を持っていて、実力があり、騎士団に協力してくれる者。
確かに自分達以外に適任がいるとは思えない。

「しかし・・・時が経ち過ぎた・・・隊長は、もう・・・」
「相変わらずつまんねえ事しか言えないヤツだな」
「な、なに!」

弾かれたように顔を上げたソディアはユーリを睨みつける。
が、睨まれた方の本人はソディアの視線を真正面から受け止める。

「諦めちまったのか?
お前、何のために今までやってきたんだよ?」
「私は!私はあの方・・・フレン隊長のために!あの時だって・・・」
「ふん。めそめそしててめえの覚悟忘れて諦めちまうヤツにフレンの為とか言わせねえ」
「覚悟・・・」
「リンゴ頭!ヒピオニアだったな」

突然自分に話を振られたウィチルは、驚きながらも返事を返す。

「え、ええ」
「そう言う訳だ。ちょっと行ってくるわ。
みんなはタルカロンに行く準備をーー」

歩きながらそう言ったユーリは部屋の扉に手をかけようとした。
が、

「え?わたし達も行きますよ?」
「そうだよ、悪いクセだよ、ユーリ」
「そう言うけどな、割とヤバそうな感じだぜ」

表情を引き締めたユーリはエステルとカロルに答える。
だが、さらに追い討ちとばかりに他の仲間も口を揃えた。

「なら、尚更あなた一人で行かせる訳にはいかないわね。
それにバウルが言う事聞かないと思うけど?」
「ひとりはギルドの為に、ギルドはひとりの為に、なんでしょ?」
「時間ないならちゃっちゃと行って片付けようじゃないの」
「そうそう、魔物を片付ける方があの塔の攻略より早いでしょうしね」

ジュディス、リタ、レイヴン、 の言葉にユーリは苦笑した。

「ったく付き合いいいな。そんじゃ行くか!」
「おー!凛々の明星ブレイブヴェスペリア出撃ぃ!」
「ワン!」

元気よく拳を振り上げたカロルに続いて皆が部屋を後にする。
その姿を見たウィチルとソディアが見送った。

「頼みましたよ!じゃあソディア、僕達は引き続き救援部隊の再編を!」
「あ、ああ・・・」

頷いた副官にウィチルはそのまま走り去ったが、ソディアは暫く立ち竦んだまま動こうとしなかった。
しかし、意を決したように拳を握りしめると扉を開け外へと飛び出した。
そこにはちょうど街を出ようとするユーリ達がおり、その中の一つの背中を呼び止める。

「・・・ユーリ・ローウェル」

その声に皆が足を止め、振り返る。
だが続きを言おうとしないソディアに、リタがさっさと言えとばかりに眉間に皺を寄せて言い放つ。

「何よ、まだ用事なワケ?」
「まぁまぁ、こっちは先に行ってましょ」

はユーリを残し、他の皆を急かしてバウルが待つフィエルティア号へと歩き出す。
の前を歩くカロルは、歩調を保ったまま肩越しに振り返った。

「ねえ、急がなきゃいけないんでしょ?」
「そうだけど・・・ま、あの副官がユーリに話があるみたいだったし、
私達がいたらかえってお邪魔でしょ」

肩を竦めた に、今度はレイヴンの探るような視線が刺さった。

「・・・ ってば、話の内容まで分かる口振りねぇ」
「そう?気のせいじゃない?」

船の前に到着した がしれっと返す。

「それより、フレンが心配です。
無事だといいんですが・・・」
「きっと大丈夫よ。
だってお友達があの人よ」

そう言って姿が見えないユーリがいる方向を見たジュディスにリタも頷いた。

「確かに・・・生命力だけは強そうよねえ」
「それにフレンなら無謀なことは進んでしないはずだわ。
ユーリと違ってね」

両手を組んだエステルに は笑みを向けた。
それに少しは安心したのか、エステルの表情も僅かに緩む。

(「ま、追い詰められた状況でなければ、が前提の話なんだけどね・・・」)

フィエルティア号に乗り込みながら は内心で呟く。
そして、不安を押し隠したまま、彼方の空を見つめた。













































































「・・・ユーリ・ローウェル!
何故だ!どうしてあの時のことをお前も彼女も咎めない!
私は・・・」

街の入口で対峙したソディアからの問いに、ユーリは目を細めた。

「水に流したつもりはねえ。
けどな、オレは諦めちまったヤツに構ってるほど暇じゃねえんだよ」

そう行ってソディアに背を向けたユーリに僅かに反論が返る。

「諦めてなどーー」
「なら何で一人ででもフレンを助けに行かない?
オレを消してでも守りたかったアイツの存在をどうして守りにいかねえ!」

浴びせられた言葉にソディアは息を呑み、何も言い返せず俯いてしまう。
そして、しばらくしてから弱々しく震える声が響いた。

「私、では・・・あの人を守れない・・・
・・・頼む、彼を・・・助けて・・・・・・お願い・・・」
「言われるまでもねえ」
「お願い・・・」

懇願する副官に肩越しに一瞥を送ったユーリは、視線を前に戻すと口を開いた。

「ああ、あんたの言うことで一つだけ同意できることがあるぜ」
「?」

その言葉に疑問符を浮かべたソディアが視線を上げる。
そこには空を見つめる黒髪が揺れていた。

「オレは罪人、いつ斬られてもおかしくはない。
そしてフレンは騎士の鑑、今後の帝国騎士を導いていく男。
・・・その隣に罪人は相応しくない」
「・・・」
「オレはさしずめ、あいつに相応しいヤツが現れるまでの・・・ま、代役ってヤツさ」
「ユーリ・・・」

苦笑した横顔を見せたユーリは、そのまま仲間の元へと歩きだした。



























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2008.9.22