「・・・なんだか、デジャヴを感じるのは私だけかしら?」
「えらく閑散としてるな」

街中の光景に半眼を向ける と眉根を寄せたユーリが呟いた。
到着したノール港は、以前訪れたような賑やかさも人の姿も無く港街は不気味に静まり返っていた。

「氷刃海を通って避難したんでしょうか?」
「隣のトルビキアじゃないかな。トリムとかさ」
「船がまた使えるようになったのかもしれないわね」

エステル、カロル、ジュディスが各々推論を口にするがどれが正解か答えられる者はいない。

「なんにしてもこんな空の下じゃ逃げ出したくもなるわな」

空を見上げたレイヴンが呟く。
そこには相変わらず星喰ほしはみの蠢きが天の所々に波打っていた。
そんな中、一行から数歩離れたリタが振り向くと、

「んじゃ、あたしは買い物してくる」
「わたしも行っていいです?」

走り寄ったエステルにそう言われたリタは顔を僅かに染めて頷いた。

「う、うん・・・
じゃ、あんたらは宿屋で待ってて」
「分かった」








































































ーーNo.179 蘇った古代の塔ーー































































宿屋でリタとエステルの帰りを待つユーリ達。
それまでの間、少ない住民から聞き込みを終えたカロルが話しだした。

「ティグルさんちも避難したらしいよ」
「無理もないわ・・・生活している頭上にあんな得体の知れないのがいたら
生きた心地しないでしょうしね」

腕を組んでそう答えた
と、部屋の扉が開くと待ち人が戻ってきた。

「こんな時でも港街はやっぱり物があるわね。
おかげでなんとかなりそうだわ」
「何買ってきたんだ?」

両手一杯に荷物を抱える二人にユーリが問うとエステルが答える。

「術式紋章ひと揃えと・・・筐体コンテナパーツです」
「何しようってのよ?」

首を傾げたレイヴンに、荷物を降ろしたリタが腰に両手を当て、得意気に答えた。

「精霊の力を収束するための装置を作るの。即席の宙の戒典デインノモスをね」
宙の戒典デインノモスか・・・デューク、今頃何してんだろうね」
「さあな・・・あいつ、相当思い詰めた感じだったが・・・」

不安気なカロルにユーリは顎に手を当て呟く。
同じように も物憂げに表情を沈ませた。

(「デューク・・・あなた、今どこーー!」)
ーーゴゴゴゴゴゴゴッ!!ーー
「うわあぁ!な、何!?」


突然、立っていられないほどの揺れが起こった。
何事かと外に飛び出すと、空を見上げるジュディスにユーリが訊ねた。

「ジュディ!何があった?」

しかし、返答は返らず見つめるその方向に皆が視線を向けると、リタの顔色が変わった。

「ちょっと!あっちってアスピオの方じゃない!」
「な、何が始まるの!?」

戸惑うばかりのユーリ達の話を断ち切るように、さらに轟音が響き渡る。
そして、それはゆっくりと重力に逆らい始めた。
初めは細い棒のようなものだった。
しかし、それは徐々に伸び始め、視界に映った全形は傘が開いたような形になった。
中央には天を突く尖鋭な突起が伸び、それは地表へも同じものが向いていた。
地面から生まれた暗色のそれは、星喰ほしはみと僅かな距離を残し浮上を停止した。

「あれじゃ、アスピオは・・・」
「あの馬鹿でかいのは何よ!?」

愕然とするリタの隣で、レイヴンも厳しい表情を浮かべてそれを見る。
と、全形が露になったそれを見た は、驚きを隠せず言葉が漏れる。

「あ、れは・・・!?まさか、本当にあったなんて・・・」
「どういうことだ?」

聞き咎めたユーリに、違う声がそれに答える。

「タル、カロン・・・
精霊達が言っています。あれはタルカロンの塔と」

馴染みのない名前に、胡乱気な視線を向けたユーリ。
すると、ようやく落ち着きを取り戻した がエステルの言葉を肯定するように話しだした。

「・・・あの塔は、古代ゲライオスの魔導器ブラスティア技術の粋を集められて建造されたもの。
別名、『血塗られた塔タルカロン』」
「な、なんでそんな名前なの・・・?」

さっと青ざめたカロルに は苦笑すると、かいつまんで説明をはじめる。

「うーん、かなり前に見せてもらった文献でうろ覚えなんだけど・・・
『かつてゲライオス文明を築いた古代人は優れた科学技術を手に入れ、繁栄の世を築き上げた。
だが、それと引き替えにこの世界、テルカ・リュミレースを脅かす魔導器ブラスティアを使い続けていった。
それに危機感を抱いた始祖の隷長エンテレケイアは、古代人に警告を発した。
しかし、古代人は始祖の隷長エンテレケイアを繁栄を脅かす邪魔者とし手にした魔導器ブラスティアの力を用い、始祖の隷長エンテレケイアのを排除しようと考えた』
そして、作られた兵器というのが・・・」
「あのタルカロンの塔って訳か」

合点がいったように の後を引き継いで、ユーリが答える。

「・・・きっとデュークだわ・・・
あれで星喰ほしはみを討とうとしているのよ。
でも、シルフが言っていた『世界中の人の命と引き替え』ってどういう・・・」
「その方法は分からないけど、黙って見てる訳にもいかないでしょう」

ジュディスの言葉に は頷いた。

「ええ。シルフとも約束したわ『彼を止める』って。それに・・・」
「なんです?」

続きを口にしない にエステルが首を傾げる。
考え込んだような は考えを打ち切るように頭を振ると、淡く笑んだ。

「昔、友達と・・・エルシフルと約束したの」
「それって とシルフが話してくれた人魔戦争で死んだ始祖の隷長エンテレケイアのことよね?」
「ええ。彼からこの世界とデュークを頼むって言われたわ。
きっとデュークは彼の言葉を忘れてる。
彼の言葉を思い出せばきっとーー」
「どいた、どいてくれ!」

の話は突如声を張り上げた男によって遮られた。
少ない住民の間を縫ってこちらに近付いてきた男は、帝都の役人の格好をしていた。

「黒くて長い髪のあんた、ちょっといいか!?」
「なんだよ」

騎士団と同じくらい毛嫌いしている役人に声をかけられたユーリは、容赦のない鋭い視線で睨みつける。
それにたじろいだ男は僅かに身を退いた。
その辺のチンピラよりよほど凄みがあるユーリだったが、
このままでは話が進まないと が脇を小突き男に声をかける。

「私達に何用ですか?」
「いや、実はあんたみたいな風貌の人を見かけたら教えて欲しいって騎士団の人に言われててな。
なんでも新しい騎士団長フレン殿について話たいことがあるとか」
「なんだと?」
「フレンが!?」

驚いた顔馴染みの三人が戸惑った視線を交わす。
その反応に男は安心したように息を吐くと、確認するように訊ねた。

「人違いじゃなさそうだな?」
「ああ。なぁ、オレを探してた奴って猫みたいな釣り目の姉さんとリンゴみたいな頭したガキか?」

ユーリに問われた男は、目を瞬かせると首肯した。

「あ?ああ、そうだが・・・」
「・・・」

男の答えにユーリは黙ったまま考え込む。
それを見た は役人の男に向き直ると再び問うた。

「宿で待ってればいいですか?」
「ああ。それでいい。呼んでくる」

そのまま走り去った男の後ろ姿をユーリ達は見送った。
宿に向かおうと歩き出した だったが、不安に揺れるエステルの視線とぶつかった。
しかし今は掴んでいる情報がない。
今は待つしかない、と首を振った はエステルを促すように宿へと足を向けた。



























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2008.9.19