ーーNo.178 世界の存続のためにーー
フィエルティア号に戻ると、バウルは蒼天の海へと泳ぎ出した。
甲板に集まったユーリ達は、当初の目的を達せた事でほっとしたような表情だった。
「ついに四属性の精霊がそろったね」
「ああ。あとは・・・」
「世界中の魔導器の魔核を精霊に転生させる、ですね」
カロルの言葉に頷いたユーリの続きをエステルが引き継ぐ。
「・・・そうね。四精霊の力だけで星喰みを抑えられればその必要はないんだけど」
「中途半端で挑める相手じゃないでしょーよ
万全を期すべきよね。失敗できねぇもの」
「分かってるけど・・・」
レイヴンに同意を示したリタだったが、未だに世界中の魔導器の魔核を精霊にするということには難色を示していた。
リタの思いを酌んだジュディスと腕を組んだ
も呟いた。
「精霊を生み出すというだけでもテルカ・リュミレースの在り方を変えてしまっている。
世界の為とはいえ、ね」
「確かにデュークの言葉通り、世界を作り替えている事に変わりはないわよね・・・
それに私達の独断で世界中の人々の暮らしや安全さえ脅かすことになることは、問題だと思うわ」
「そうかも、だね・・・」
尤もな二人の指摘にカロルは唸った。
その隣でユーリは思いを手繰るように空を見上げた。
「オレ達がやろうとしてることを理解してもらわなきゃ、
やってることはアレクセイと変わらねえのかもしれねえ。
けど、理解を求めてる時間もねえ」
「でも帝国騎士団やギルドのみんなにちゃんと話しておく事はできるんじゃないかな」
「それで私達のやり方を否定されてしまったら、私達はホントに人々に仇なす大悪等よ」
ジュディスの返答にカロルは反論できず押し黙ってしまう。
だがそれは他の皆も同じで、一行の間に重苦しい沈黙が流れる。
と、考え込んでいたユーリがそれを破った。
「・・・・・・オレはこのまま世界が破滅しちまうのは我慢できねえ。
デュークがやろうとしてる事で世界が救われても、普通に暮らしてる奴らが消えちまっちゃ意味がねえ。
だからオレは大悪党と言われても、魔導器を捨てて星喰みを倒したい。
みんな、どうする?降りるなら今だぜ?」
決然とした表情で皆を見回すユーリに、
は呆れたように腰に片手を当てて答えた。
「愚問だわ。今更聞く事でもないでしょ、最後まで行くわ」
「俺様もついていくぜ。
なんせ、俺様の命は凛々の明星のもんだしな」
「私も。フェロ―やベリウスが託してくれた気持ちがあるもの。
それに・・・中途半端は好きじゃないわ」
「やらないと後悔するってのを知っちゃったし、ここでやめても後悔するし」
「うん。ボクも後悔したくない」
「はい。自分で選択したことならどんな結果になっても受け入れられる。
この旅で学んだことです」
レイヴンジュディス、リタ、カロル、エステル・・・
皆が同じ思いだということに凛々の明星の首領は嬉しそうに言った。
「それに・・・世界のみんなも分かってくれる。
変わっていく世界を受け入れられないほど弱くないよ!」
「そうね、そう信じたいわ。
明日を笑って暮らすためにすることだもの」
「ワンワン!ワォン!」
力強く頷いた
にラピードも同意の一声が上がる。
「分かった。
みんな、最後まで一緒に行こう」
「じゃあ準備が全部できたら、ヨーデル殿下やユニオンの人達に話をしに行こう」
「んで、あと準備しなきゃいけないものって何なのよ?」
拳を突き上げたカロルの隣で、無精髭を擦ったレイヴンが首を捻る。
「あたしに任せて。
ちょっと色々要るからどっか適当な街に寄りたいんだけど」
「じゃ、ノール港はどう?
イリキアの端っこだし」
「エフミドの丘が通れなくなってからどうなったか気にもなるしな。
そうしよう」
カロルの提案にユーリは首肯した。
そしてバウルは次なる目的地に向け、進路を北に取った。
(「お願い、デューク・・・早まらないで。
貴方も私達もこの世界を守りたい気持ちは変わらないはずでしょ・・・
貴方の取ろうとしてる道をエルは望まない、だから・・・」)
甲板で風に吹かれながら、
は心の中で祈った。
仲間の談笑が背後で響く。
すると、近付く足音に気付いた
は考えを打ち切り、隣に立った黒髪の青年に顔を向けた。
「どうしたの?」
「いや、それはこっちのセリフなんだけどな」
その返答に
は首を傾げる。
そんな
にユーリは縁に背を預け、腕を組んだまま半眼を向けた。
「お前、レレウィーゼ行ってから・・・いや、デュークに会ってから、か。
やけに考え込んでいることが多いぜ」
「そんなことないわ。ユーリの考え過ぎよ」
即座に否定した
は再び眼前に広がる蒼に向いた。
その横顔からは考え込んでいるのは分かったが、何を思っているかはユーリには分からなかった。
「・・・ひとりで抱え込むんじゃねえぞ」
「そっくり返すわ。
人には言いたくないことの一つやふた・・・二十や三十ぐらいあるのは普通でしょ」
「多過ぎだろ・・・」
呆れて返したたユーリに
は視線を戻すと、片目を瞑った。
「ま、要は気にするなってこと。
仲間に迷惑かけることはしないわ。心配してくれてありがとね」
そう言った
は話を打ち切るようにその場を後にすると、エステル達の話の輪に加わる。
その後ろ姿を見送ったユーリは話の続きを胸中で呟いた。
(「
・・・何を考えてるんだ。
・・・まさかデュークの後を追う気なのか?
そのうちオレ達から離れてどっか行っちまうような気がする。
それこそ風のように・・・」)
堂々巡りな問いにユーリは諦めて首を振った。
杞憂だろうと、膨れ上がる不安を打ち消し続けた。
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2008.9.18