フィエルティア号に戻ったユーリ達は、バウルに始祖の隷長がいる場所について問うた。
当初、教える事を躊躇っていたバウルだったが、一方的に聖核を奪う真似はしない、
という約束を交わしユーリ達にその場所が教えられた。
ーーNo.173 輝ける森エレアルーミンーー
「ここが結晶化の中心みたいだな」
そこは取るビキア大陸の北東部、最近になって結晶化した大陸が生まれたという情報があった場所だった。
その大陸の中心、結晶化が周囲より顕著に表れている場所にユーリ達は降り立っていた。
水晶のように透明な輝きを見せる結晶が囲まれたそこに、仲間からそれぞれ声が上がる。
「綺麗・・・夢の中にいるみたいです」
「これ加工できる職人に頼めば、結構良い商品になるかも」
「低密度で結晶化したエアルか・・・むしろマナ?サンプルを採取しておかなきゃ」
エステルと
、リタの様子を両手を頭の後ろで組んでいたレイヴンが可笑しそうに眺めていた。
「なんでああも反応に差があるかねぇ」
「バリバリ砕けるよ、あはは面白い!」
足元の小さな結晶を踏んだカロルが、楽し気に足を踏みならす。
そんなカロルに結晶体から視線を向けたリタが呆れたように口を開く。
「のんきなもんね。これ、自然にできたんじゃないわよ?」
「え、どういうこと?」
「結晶化によって新たに生まれた地の中心・・・ここにそれを行った何者かがいる」
「それとエアルクレーネもね」
ジュディスが補足するようにリタが言う。
と、その時ラピードが何かに気付いたように一声鳴いた。
「ワン!」
「どうしたラピード、なんか見つけたか?」
ラピードにユーリが近付くと、頼もしい相棒は足元へと視線を向ける。
歩み寄った
もそこにある多くの足跡を認めると、表情を引き締めた。
「先客がいるようね。用心して進みましょ」
幻想的な景色の中をユーリ達は奥へ奥へと進んでいた。
道を阻むほどの結晶はソーサラーリングで壊し、襲ってくる魔物は斬り伏せていく。
緩やかな下り坂に差し掛かった時だった。
目の前の巨大な結晶体の影から、空を切る音が響くと先頭を歩いていたユーリにブーメラン型の武器が襲いかかった。
「ちっ!」
ーーガキーーーンッ!ーー
金属音が響き、弾かれた三日月は地面へと突き刺さる。
見覚えのあるそれに、ジュディスの眉がひそめられた。
「この武器・・・!」
「ナン!」
いち早くその武器の使用者の名をカロルは叫んだ。
すると下った道の先、不安定に立つ一人の少女がユーリ達に言い放った。
「・・・警告する。ここは魔狩りの剣が活動中だ。
すぐに立ちさーー」
ーードサッーー
「ナン!」
力なく倒れたナンに、カロルは慌てて駆け寄った。
その後にエステルも続くと、両目を伏せられた少女が負った傷に表情を曇らせた。
「ひどい怪我・・・」
すぐに治癒術が施され、表面の痛々しい傷が塞がれていく。
ナンの傍へと膝を付いたカロルは、少女へと声をかける。
「しっかり!ナン!」
「カロル・・・」
「一人でどうしたんだよ!首領やティソン達は?」
カロルの問いかけに上体を起こしたナンはゆっくりと話しだす。
「・・・師匠達は奥に・・・」
「え!?ナンを置いて!?
首領はともかく、ティソンがナンを連れてかないなんて・・・
いったい、何があったのさ!」
いつもの強気な態度は成りを潜め、ナンの声音は弱々しく俯いたまま答えが返った。
「・・・不意に標的とここで戦いになって、あたし、いつもみたいにできなくて・・・
・・・師匠が、迷いがあるからだって」
「迷い?」
「魔物は憎い。許せない。
その気持ちは変わらない、でも今はこんなとこにまで来て魔物を狩るよりも、
しなきゃいけないことがあるんじゃないかって・・・
それを話したら・・・」
それ以上の言葉を噤んだナンの後を引き継ぐようにレイヴンが呟く。
「置いていかれたってか」
「愚かね。この期に及んで生き方を見つめ直せないなんて」
冴え冴えとしたジュディスの言葉が響く。
「ひどいよ!ナンは間違ってないのに!」
「ま、落ち着け、カロル。
なぁ、魔狩りの剣の狙いは始祖の隷長だろ」
ユーリの問いかけに無言が返る。
それを肯定と受け取った
は、石柱林の奥へと視線を向けた。
「これは急いだ方が良いわね」
「ああ」
「さぁ、ナン。歩ける?」
「え?う、うん。けど・・・」
言い淀むナンにエステルが同じ視線の高さで促す。
「こんなところに人でいては危険です」
「一緒に行こう、ナン」
立ち上がったカロルから、座り込んだままのナンへ言葉が向けられる。
しばらくの迷いの後、少女は立ち上がった。
「カロル・・・うん」
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2008.9.9