ゾフェル氷刃海から急いでノードポリカに到着したユーリ達。
その目の前、結界魔導器シルトブラスティアの前に漂う複数の影をカロルが指した。

「見て!街に取り付いてる!」
「あの黒いの・・・前にコゴール砂漠で見たやつか!」

厳しい表情でそれを見据えたユーリに、ジュディスの訂正が入る。

「前のはフェロ―の幻だったけど今度のは本物よ。気をつけて」
「結界のエアルを食べようとしているみたいです!」

焦りを見せるエステルの言葉に、リタは考え込んだ。

星喰ほしはみはエアルに引き寄せられる・・・?」
「こいつはなかなかやばそうねぇ」
「話はあとよ、行きましょう!」

は話を打ち切ると、双剣を抜き黒い魔物へと走り出した。





































































ーーNo.172 抗える力ーー































































結界を破り、ノードポリカの街の中まで星喰ほしはみの眷属が侵入していた。
戦士の殿堂パレストラーレの多くが応戦していたが、全ての攻撃が効果がなく、防戦一方となっていた。
住民の避難は済んでいるようだが、このまま闘技場まで追い詰められれば最悪の状況になる。

前線で応戦していた一人の男が剣を構えていた。
だが攻撃が効かないことで及び腰になり、その足が徐々に下がっていった。
しかし、それを許さない叱責が飛ぶ。

「退くな!ここで食い止めるんだ!」

大剣を構えた隻眼の男、ナッツの声が響く。
が、魔物の凶刃が振り下ろされようとした。
その時、

ーースゴーーーンッ!ーー
ーーザシュッ!ーー
「おーおー、ものものしいねぇ」
「ナッツさん!大丈夫ですか!?」

ナッツの前にレイヴンと が走り寄り、魔物を手早く退けた。

「あ、貴女達は・・・!」

驚きを見せるナッツに、にこりと を笑みを向ける。

「話は後ほど。
まずはこいつらを片付けましょう」





































































全ての魔物を退けたユーリ達は、闘技場内、以前通された統領ドゥーチェの執務室へと通されていた。

「またあんた達に助けられたな」

自分達に頭を下げるナッツにカロルは首を振ると、同情するように言葉をかける。

「この街だけ襲われるなんてほんと運が悪いよね」
「運じゃないわ」

カロルの言葉を否定するリタの声が入口のドアが開いたと同時に部屋に響く。
後に続いて も部屋に入った。

「たっだいま〜」
「リタ、 、どこに行ってたんです?」
「ん?ここの結界魔導器シルトブラスティアまで案内してきたの」
「出力が上げられてたからあの化け物が引き寄せられたみたいね。
通常の出力に戻させてもらったわよ」

後半をナッツに向けてリタは言った。

「万が一に備えてたんだが・・・裏目に出てしまったんだな。
自分は住民の様子を見に行く。
あんた達は好きなだけゆっくりしてってくれ」
「そうしたいんですけど、こちらも急いでるので・・・
これで失礼します」
「そうか・・・あんた達ならいつでも歓迎する。また寄ってくれ」
「サンキュ」

挨拶を交わした後、ユーリ達はナッツと別れ執務室を後にした。






































































「ナッツさん、がんばってたね」
「ええ、ベリウスがいなくなってどうなることかと思ったけど・・・
ユニオンに比べれば上手くまとまってるみたいだしね」

カロルに頷いた が微笑を浮かべて応じると、街中へと目を向ける。
外では避難していた住民がいつも通りの日常の喧騒を潮風に乗せていた。
被害が大きくならずに済んで良かった、と はほっとしたようにそれを眺めていた。

「ウンディーネと会わせてあげたいです。
きっと喜びます」
「今は止めとけ。
けど、全部ケリがついたときには驚かせてやろうぜ」
「はい」

ユーリに頷いたエステルも笑みを浮かべて答える。
そんな中、レイヴンが思い出すように顎に手を当てると、

「にしても、あの化け物・・・
戦士の殿堂パレストラーレの手練が太刀打ちできなかったな。どうにも解せないねぇ」
「ボクらは倒せたのにね」
「何か違いがあるとしたら・・・」
「精霊、かしらね?」

ジュディスの言葉に、考え込んだ は推測を口にする。

星喰ほしはみはエアルに近い存在なら、精霊の力が影響した可能性は考えられるわよね」
「それじゃあと三体そろえばもっと対抗できるってことか?」
「どうだろう・・・エアルを抑えるだけなら、属性そろえれば充分だろうけど相手はあの星喰ほしはみだから、何とも言えないわ」

ユーリが出した結論をリタは性急すぎる、と引き止める。
しかし、精霊を揃えれば手出しできなかった星喰ほしはみを倒せる可能性が出てきた。
光明が差してきたが、それに至るには一つの障害が残っていた。

「そうよねぇ、聖核アパティアだってそこら辺に転がってるもんじゃないしなぁ」
始祖の隷長エンテレケイアも、もう数少ないんですよね・・・」

レイヴンとエステルの言葉通り、精霊の核となる聖核アパティアがなければ精霊化を進める事はできない。
手詰まりか、と思われたその時、考え込んでいたユーリが皆に向いた。

「・・・なあ、世界に存在する魔導器ブラスティアって相当な数だよな」
「そうですね。魔導器ブラスティアはわたし達の生活に欠かせないものですから」
魔核コアって聖核アパティアのカケラでできてるってことだよな。
だったら、もし精霊四体で足りないんなら世界中の魔核コアを精霊に変えたらいいんじゃないか?」

その言葉に は唖然とユーリを見る。

「・・・すっごい突飛なこと言うわね。でも妙策かも・・・
ネックは世界中にあるってことね。星喰ほしはみが待ってくれる親切心があれば良いけど」
「どうにかしてくれるよな?専門家さん?」

からリタへと視線を向けたユーリが、リタを指すと指された本人は頭痛がする頭を押さえるように息を吐いた。

「・・・簡単に言わないでよね」
「・・・もしユーリの言った方法が実現したとして・・・そしたら魔導器ブラスティアは全部使えなくなっちゃわない?」
魔核コアがなくなるわけだから、そうなるわな」

カロルに頷いたレイヴンが肯定を返す。
まだあくまでも過程の話、だがそれが実現した世界となったら・・・
エステルは言い様のない不安から両手を組んだ。

「どんな世界中になってしまうんでしょう?」
「結界によって約束されていた安全はなくなり・・・」
魔導器ブラスティアにまかなわれていた生活に必要な機能が失われて、相当不便な生活になるでしょうね」
「それに武醒魔導器ブラスティアも使えなくなる。
魔物の脅威は街の安全だけでなく流通にも影響し、それは世界中に広がる・・・
進んで協力するとは思えないわね」

仲間からの言葉を黙って聞いていたユーリ。
しかし、時間の猶予が残されているとは思えない。
ザウデが停止し、星喰ほしはみの眷属がこの世界へと侵入を始め、その力をユーリ達は目の当たりにした。
ユーリは決意を固めたように空を見上げた。

「それでもやらなきゃ・・・世界はあいつのもんだ。
オレはやるべきだと思う。
たとえ仲間以外の誰にも理解されなかったとしても」

その言葉に今度は他の仲間が押し黙る番となった。
決意を胸にするユーリの背中に、軽い調子のレイヴンが話題を切り替えた。

「ま、とにかくまずは四属性の精霊を生み出そうぜ。
先の事はそれからまた考えようじゃないの」
「だな」

レイヴンの言葉に苦笑を見せたユーリが振り返る。
そして、ゾフェルで聞きそびれたウンディーネの言葉をカロルが言う。

「バウルが始祖の隷長エンテレケイアのいる場所を知ってるんだよね?」
「ああ、船に戻って聞いてみよう」

皆は頷くとノードポリカの出口に向かって歩き出した。




























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2008.9.7