ゾフェル氷刃海に到着し、エアルクレーネに行くまでの道すがらリタからこれからやることについて説明を受けた。
エアルクレーネでエネルギー体で構成されたエアル変換器を作る事。
それには聖核と十分なエアル、そしてエステルの術式を組み替える力が必要であると言う事。
うまくいけば、エアルを効率よく物質化することができエアルの総量を減らすことができる、ということらしい。
「しかしエアル変換器ねぇ、よくまぁ思いついたもんだ。
さすが天才魔導士少女リタっちだ。うんうん」
パチパチと手を叩くレイヴンにリタはどうってことないという風に呟く。
「・・・手がかりがあったからよ」
「そういやザウデを調べたって言ってたよな。
手がかりってそこで見つけたのか?」
ユーリの問いに肯定が返る。
「あれ、あんだけの規模なのにエアルでは動いてなかった。
世界全体を守るための結界魔導器なのにね」
「結界魔導器!そっか、星喰みから守ってたんだ」
「アレクセイは兵器だと思ってみたいだけど、とんでもない間違いだった訳ね」
カロル、ジュディスの言葉に
は顎に手を当てた。
「星喰みはエアルの暴走が原因・・・だから結界もエアル以外の力でなければならなかった。
・・・!その力って、満月の子!?」
考え込んでいた
がまさか、とリタを見ると頷きが返された。
「そ、正確には彼らから分離した力ね。
あの巨大魔核の中で半永久術式としてザウデを動かし続けた。
多分、彼らの命と引き換えに・・・」
「『満月の子らは命燃え果つ』・・・」
「ミョルゾでの言い伝えはそういう意味だったのね」
エステルが暗唱した伝承に、ジュディスは空を見上げた。
「デュークの話じゃ、自発的にやったらしいぜ。世界を救う為に」
「そっか・・・長い間、ずっと守ってくれてたのね。
残された人、世界を守る為に祖先の多くが犠牲となって・・・」
も空を仰いだ。
不気味に蠢く空がそこにはあったが、まだその結界は辛うじて保たれている。
出来る手は尽くそう、とユーリ達はエアルクレーネへと足を急がせた。
ーーNo.170 再びの氷刃海ーー
エアルクレーネに到着すると、リタは早速準備を始めた。
これからどんな作業をするか分かっていたユーリ達だったが、不安要素がないわけではなかった。
その変換器を作るためにはエステルの抑制術式を解除しなければならない。
しかし、それなしに力を行使すれば、エアルの乱れがさらに進んでしまう恐れがあった。
だがそれ以外にエアルを抑える方法は見つからず、リタから『理論上間違いはない』と一蹴され、ユーリ達は賭けに近い作業に挑むことになった。
術式の準備を終えたリタが宙に聖核を浮かべると、エステルへ声をかけた。
「さ、準備できたわ。
エステル、こっち来て。今から制御術式を解除するわ。
そしたら、エステルに反応してエアルが放出される、
エステルはエアルの術式をよりマナに近い安定した術式に再構成してほしいの」
「え、と・・・よく分かりません・・・」
困ったように首を捻ったエステルに、リタを腕を組んだ。
「うーん、そうね・・・」
眉間に皺を寄せていたリタの視線が
に向いた。
それを受けた
は目を瞬かせたが、苦笑をこぼす。
「私に説明は無理。
感覚的に使ってるから、言葉で説明する自信は皆無だし」
「・・・・・・」
そんな
に呆れたような視線が刺さる。
再び考え込んだリタは背後にある海に視線を向けると、閃いたようにエステルに向き直った。
「なら、ここは水の属性が強いから流れる水をイメージしてエアルの流れに身を任せればいいわ。
エアル物質化の理論は魔術と同じようなものだから。
エステルがエアルをマナに近い形に再構成してくれれば、あたしでも蒼穹の水玉にエアルを導けるようになるはず」
その説明にエステルは納得したように頷く。
と、エステルの後ろにいたカロルから声が上がった。
「ボク達に何かできることない?」
「ないわ。寝てて」
「こんなところで寝たら凍死するっつーの」
「少しは静かになるから良いんじゃな〜い?」
しれっと言い捨てた
の言葉にレイヴンはショックを受けたように肩を落とした。
自分とエステルと
三人以外から距離を取らせようとしたリタに、ジュディスの冷静な言葉が響く。
「あるでしょう?ザウデで見つけた変換技術を使えば良いのよ」
その言葉にリタの呼吸が止まった。
そして、ジュディスの言う意味する事にリタの語気が強まった。
「あれは!命をエアルの代用にするものでしょ!
そんなの使えるわけないじゃない!」
「でも、失敗したら激流となったエアルに飲み込まれて私達は全滅。
そうでしょ?」
「命がけなのはみんな同じってことだ。
手伝わせろよ」
ユーリの言葉を受けてリタはためらいを見せた。
しかし、皆からの視線が外れないことで根負けしたリタは息を吐いた。
「分かった・・・あたしが蒼穹の水玉にエアルを導くのに、あんたらの生命力を使う。
そうすればエステルはあたしにエアルを干渉されないで流れを把握できると思うから」
皆が力強く頷くと、リタは再びエステルに向き直った。
「いい?エステル、いくわよ。
、さっきの説明で分かったわね?
あんたはエステルが再構成したエアルを聖核に導けるように道筋を作ってちょうだい」
「分かったわ」
「よし、みんなはこっち来て」
エアルクレーネの前でエステルと
、リタとユーリ達が聖核を挟んで向き直った。
エステルが祈るように両手を組み、エアルの術式を組み替えていく。
はその組み替えた術式を聖核へと導く。
そして、リタがユーリ達の生命力を道筋にエアルを聖核へと送り出す。
「あたしの術式に同調して。そう・・・いいわよ」
「うっぐ」
リタの言葉にエステルは徐々に力を強めていく。
比例して、ユーリ達は苦し気に呻き出す。
は組み替えたエアルが道筋を逸れぬよう、強まるエアルの勢いをどうにか聖核へと向けていた。
そうこうしている間に、聖核から光が発し始める。
「蒼穹の水玉にエアルが集まっている・・・術式はうまく働いてる。
力場も安定してる・・・いける!」
リタがそう言った時だった。
は今までとは違う違和感を感じた。
(「何?さっきまでと違う・・・力が、引き摺られ・・」)
その違和感は聖核から伝うように
からエステルへと伸びていく。
そして、
「!・・・くっ!?」
「ん・・・きゃあ!?」
小さな悲鳴が上がると、
とエステルが聖核に呼応するように一気に輝き出した。
「なんだ!」
「まさか、失敗なの?」
「違う!ちゃんと制御できてる、でもこれは・・・!?
聖核を形作る術式!?勝手に組み上がって再構成してる・・・?」
作業を中断したリタが、表示された術式を見て焦燥を募らせる。
しかしユーリ達は何も出来ないままみるみる状況は変わっていく。
輝いていた聖核は光を収めると、次に聖核を中心にエアルが渦巻き始めた。
は自身の中を大量の何かが通り過ぎ、聖核へ流れていくのを感じた。
直後、直視できない閃光が辺りを包んだ。
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2008.9.6