ーーNo.169 ギルドとは 後ーー































































ユニオンを後にしダングレストの広場までユーリは足を進めていた。
その後ろから追いついてきたリタがユーリの前に立ちはだかると声を荒げた。

「待ちなさいよ!どうすんのよ、聖核アパティアは!」
「あんな連中に付き合ってる暇あったら、他の手考えた方がマシだ」
「他にって、そんな簡単なもんじゃないでしょうに・・・あ」

ぞんざいに言ってのけたユーリにリタは呆れ顔となった。
と、その時。
後ろからやってきた人物にリタが気が付くと他の皆も振り返った。
近付いてきたのは、変わらず難しい顔をしたままのハリーが歩いて来る所だった。

「・・・ほらよ」
「こいつは・・・くれんのか?」

ユーリに向け無造作に投げられたそれはベリウスの聖核アパティア蒼穹の水玉キュアノシエルだった。
驚くユーリの言葉にハリーは眉根を寄せ、さらに難しい顔で答える。

「馬鹿言え、こいつは盗まれるんだ」
「え?」
「こんの〜!いつの間にそんな粋なこと覚えたのよ♪」
「な、何しやがる!離れろよ!!」

いきなり に抱きつかれた事で、顔を染めたハリーは怒鳴り散らす。
もっとからかってやろうと思った だったが、聖核アパティアを返せと言われそうだったので素直に離れる。
だが、その顔は嬉しそうににこにこと笑みが抑えられないでいた。
手にした聖核アパティアを見つめていたユーリは、ハリーに向く。

「・・・恩に着るぜ」
「ふん、他の連中に気取られる前に、さっさと行っちまいな」

染まった顔を見られまいと、顔を背けたハリーは素っ気なく言い放つ。
そんなハリーにレイヴンは顎に手を当てたまま問うた。

「どういう風の吹き回しよ?」
「さぁな・・・けど、子供に説教されっぱなしってのもなんだか癪だからな」

そう言ってカロルに一瞥を送ったハリーは踵を返すと、ユニオンへと戻って行った。
その背中を見ていたレイヴンは苦笑したように呟く。

「あいつも、少しは変わったかねぇ」
「そうね・・・一歩前進ってとこかしら」

笑みを絶やさず も同意する。
ジュディスはユーリが手にした聖核アパティアからリタへと視線を移した。

「これで聖核アパティアも手に入ったわけだけど、次はどうするのかしら?」
「うん、ゾフェル氷刃海に行くわ。
活性化してないあそこのエアルクレーネを使うの」

その言葉にレイヴンは呻くような声を上げた。

「げ、氷刃海?
また寒いとこ行くの?おっさん、ここで待ってていい?」
「世界が滅ぶよりマシだろ。行こうぜ」

ユーリの言葉にがっくりと肩を落としたレイヴン。
皆が外へと向かおうと歩き出す中、エステルは先を歩こうとする の手を掴んだ。

「あ、 。ちょっと待って下さい」
「ん〜、どしたの?」

振り返った に答えず、エステルは治癒術を唱える。
するとそれまで を苛んでいた疼痛が治まり、重かった体が嘘のように軽くなった。

「えと・・・ありがと。
でも何で知ってたの?」
「え?そ、それは・・・」

しどろもどろになるエステルを遮るように、リタの胡乱気が に向けられる。

「何?あんた、怪我してたの?」
「そういえば、 もザウデではぐれたんだよね。
誰にダングレストまで連れて来てもらったの?」
「デュークから俺様が受け取ったのよ」

代わりにカロルに答えたレイヴンに、 も頷いた。

「うん、なんかそうみたいね」
「そうみたいって・・・覚えてないのかよ?」
「助けてもらった時、意識なかったんだからしょーがないでしょ」

ユーリに口を尖らせて答えた に、カロルにさらに問いを重ねる。

「ボクがダングレストに戻ってからもずっと休んでたし・・・
、どこでそんな大ケガしたの?」
「大ケガって、大袈裟だと思うんだけど・・・うーん・・・」

返答を渋る に、ジュディスの鋭い指摘が飛ぶ。

「言い難そうね」
「あ、いや、そういう訳じゃない・・・わけでもないか・・・
はぁ、魔核コアの破片が刺さったのよ。
避けきれなかった、なんてちょっと間抜けじゃない?」
「そうだったんです?
なら、ユーリと同じですね」
「え?」

エステルの言葉に は目を瞬かせるとユーリを見やる。
そんな当人から苦笑が返され、 は目を細めた。

「ふーん・・・じゃ、不本意だけど同類ってことで」
「おい・・・」
「はいはい、もうおしゃべりはいいでしょ。
早くゾフェルに行きましょ」

止まってしまった歩みを再開させるように、 は皆を街の外、バウルが待つ船へと背中を押した。
も歩き出すが、目の前を歩く紫の羽織をクイッと引っ張る。
肩越しに振り返ったレイヴンに を小声で呟いた。

(「ありがと」)

言い終えた は先を歩くエステル達の元へと走り出す。
の言葉を受けたレイヴンは再び立ち止まってしまうと、緩む口元を隠すようにその手で覆った。
と、

「だらしないぜおっさん。
口元くらい締めとけよ」
「何よぉ青年、嫉妬なんて醜いわよ」

緩んだ口元を引き締めるとレイヴンは低い声の方を向く。
だが、引き締まったのは口元だけで、他は緩んだままだった。
それに這うような声になったユーリの声が刺さる。

「誰がだよ。
さっさと来ないと追いてくぜ」
「む、酷いわねぇ。年長者は尊敬を持ってだーいじに扱わなきゃいけないのよ〜」
「エステルにもうちょいうまく頼めるようになったら考えてやるよ」

そう言って先に歩き出してしまったユーリ。
後を追うようにレイヴンも緩い歩みを早めた。





























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2008.9.6