ーーNo.168 ギルドとは 前ーー































































の先導でユニオン本部に足を踏み入れたユーリ達。
本部のエントランスには、ユニオンに加盟する多くのギルド員達が顔を揃えていた。
ひそひそと話し込む声が室内を埋め尽くす異様な光景にユーリは眉根を寄せた。

「なんか妙な雰囲気だな」
「うん・・・ユニオンは今、バラバラだから・・・」

肩を落とすカロルに、 も困ったように息を吐いた。

「それぞれ自分勝手な意見ばっか飛び交っちゃってね。
対立が対立を生んでる泥沼なワケ。
ま、頭が決まれば話は早いんだけど・・・」
「誰もドンの後釜に座りたくない、ってワケよ。
なにせあのドンの後だからねぇ」

の後を引き継いで、遅れてやってきたレイヴンが答える。
その後ろからハリーとエステルもやって来ると、 は表情をしかめたままのハリーへ近付いた。

「なんて顔してるの。
ほーら、しゃんとしなさいよ」
「オレはじいさんを死に追いやった張本人だ。
そんな奴がドンみたいになれる訳ねぇだろ」
「誰もあのじいさんみたくなれなんて言ってねぇでしょうが。
跡目会議くらいちゃんと出とけって言ってんの」

ハリーの頑な態度は変わらず、 とレイヴンは視線を交わすと同時に息を吐いた。
その時、

「ねえあんた、ドンの聖核アパティアを譲って欲しいんだけど」

腰に両手を当てたまま、お願いと言うにはほど遠い態度でリタがハリーに言い放つ。
それに驚いたようにユーリ達には同じ言葉が浮かんでいた。
『このタイミングで聞くか?』
カロルは顔を引き攣らせ、リタに囁いた。

「リタ、この雰囲気でそんな直球・・・」
「・・・あれはドンの跡目継いだ奴のもんだ。
よそ者にはやれねぇよ」
「何よそれ。
それじゃいつその跡目が決まるのよ」
「知らねぇよ。オレに聞かないでくれ」

目を合わせる事なく言い捨てたハリー。
そんな対応にリタの目が細められる。
は慌ててリタへと向き直ると、その肩に両手を置いた。

「リタ、ごめんなさい!
それと詠唱はストップストップ。
後でよく言い聞かせとくから、今は堪えてちょうだい」

今にも魔術をぶっ放しそうなリタを は必死に宥める。
そんな を後目に、ハリーは腕を組んだまま壁に寄り掛かり、我関せずと顔を背けてしまった。
行き詰まってしまった状況に、ユーリは呆れたように声を上げた。

「ったく、しょうがねえな・・・
ユニオンがしっかりしなきゃ誰がこの街を守るってんだよ
「ああ?そりゃ俺達に決まってらぁな」

ユーリの声に一人のドラ声が響くと、それに触発されたように棘のある声が返る。

「俺達とはどの俺達だね。
あのザウデとやらに手下を送り込んだのも、君のギルド暁の雲オウラウビルだろう」
「ユニオンが帝国の風下に立ったことは一度もねぇんだ。
黙って見てられるか!」
「迂闊だったと言っているのだよ。
ユニオンの敵対行為と帝国に受け取られかねん」
「そん時ゃ、一戦やるまでだ」
「ふっ、それで誰が率いるんだね。
暁の雲オウラウビルの長である君か?ドンが聞いたら大笑いするだろうよ」
天を射る矢アルトスクのてめぇこそ、名乗りをあげたらどうなんだ。
きっと人望のなさがはっきりするだろうぜ」

暁の雲オウラウビル天を射る矢アルトスクの幹部同士が剣呑に口論を始める。
それを目にしたユーリは幾分声を強め、周囲に響くようにばっさりと切り捨てた。

「アホくさ。この世の終わりまでやってろ。
仲間内でやりあって自滅ってのはやめてくれよ。全っ然、笑えねえから」

その言葉に口論がピタリと止むと、周囲の目がユーリ達へと向けられる。
不穏な空気になる中、カロルが言い争っていた二人の前へ走り出した。

「仲間に助けてもらえばいい、仲間を守れば応えてくれる。
ドンが最後にボクに言ったんだ」
「カロル・・・」

その小さな背中にユーリは呟く。
話しの腰を折られた暁の雲オウラウビルの幹部は、難癖を着けるようにカロルに近付いた。

「なんだぁ?このガキ」

しかしカロルの後ろにユーリ達が立ちその男を凄むと、男は渋々と引き下がった。

「ボクはひとりじゃなんにもできないけど、仲間がいてくれる。
仲間が支えてくれるからなんだってできる。
今だってちゃんと支えてくれてる。
なんでユニオンがそれじゃダメなのさ!?」

懸命に周囲へと話しかけるカロルに、レイヴンが続いた。

「少年の言う通り。
ギルドってのは互いに助け合うのが身上だったよなぁ。
無理に偉大な頭を載かなくともやりようはあるんでないの?」
「それにこんな状況下で内輪揉めしてる場合じゃないのは、大人なら尚更分かっているはずよ。
変な意地張る前に協力すべきだと思うけど?
新米ギルドに言われなくても分かってるでしょうに・・・」
「これからはてめえらの足で歩けとドンは言った。
歩き方くらい分かんだろ?それこそガキじゃねえんだ」

、ユーリと続いた言葉に周囲は水を打ったように静かになった。
ようやく口を開いた天を射る矢アルトスクアルトスクの幹部は反論するように小さな声を上げる。

「簡単に言うが、しかし・・・」
「行こうぜ。これ以上、ここにいても何もねえ」
「え?あ、ちょっとあんた、ねえ!」

一人出口へ向かったユーリに、リタは引き止めようとする。
が、止まる事なく外へ出て行ってしまったユーリに倣うように、皆も扉へと向かった。
その背中をハリーは壁に寄り掛かったまま、先ほどの言葉を反芻していた。





























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2008.9.5