ーーNo.160 決戦の朝ーー































































翌朝早く、 は城の正門前で街並を見下ろしていた。
つい昨日までエアルに溢れていた時とは打って変わり、辺りは静寂に満たされていた。
朝靄が立ち込めた街が朝日に照らされると、雲海の中の神殿にいるような錯覚を覚える。
小鳥のさえずりを気持ち良さそうに聞いていた は、背後の扉が開いたことで肩越しに振り返った。
顔馴染みであるその人物に は感心したように声をかける。

「随分早いのね。
帝都攻略作戦の激務で疲れてると思ったけど?」
「それは も変わらないじゃないか。
それに見回りは僕の仕事でもあるんだ。疎かにはできないよ」

その人物を表すような真面目な返答で返したフレンは、そのまま の隣に立ち同じように街を見下ろした。
その景色は先ほどと変わらず穏やかな様子を見せていた。

「フレンらしい考え方ね。
そういえば、評議会がヨーデル殿下に全権を委ねたみたいじゃない。
とりあえず評議会と騎士団が睨み合うってのは収まるみたいね」
「そうだね。事実上、殿下を次期皇帝に推挙したも同然だからね」

頷いたフレンに は半ば同情するような視線を向ける。

「これで気苦労が減ればいいわね・・・
そうだ、殿下から団長代行に任命されらしいわね。
おめでとう、目標に一歩前進ね」
「ありがとう。 はいつも情報を掴むのが早いね」
「まぁね〜、それがお仕事だからv
騒動が落ち着いたらみんなで盛大にお祝いしなくちゃね」

と、 は明るい声を上げる。
鼻歌が混じるほど楽し気な に、フレンは出し抜けに言葉を発した。

、すまなかった」
「?」
「それとありがとう」
「どうしたのよ急に」

首を傾げた に、幾分低い目線に向き直ったフレンが再び口を開く。

「・・・あの時、君が怒ってくれなければ僕はここにはいなかった。
いや、もしかしたら今でもアレクセイの命令に従ってたかもしれない」
「まさか謝った理由ってそれ?
やめてよ、あの時私も思わず手をあげちゃったんだから。
蒸し返されたくないんだけど・・・」
「でも間違った事はしていないんじゃないのかい」
「・・・ま、やり過ぎたかもとは思うけど、言ったことは本気だったしね」

で、もう一つの方は?と言う にフレンは続けた。

「騎士団はずっと後手に回りっぱなしだった。
達がいなかったら僕達は帝都に近づくこともできなかった・・・
それに魔導器ブラスティアが世界に危険を及ぼしていることさえ知り得なかった。
エステリーゼ様のことだって・・・」
「なーんだ、何かと思えばそんなことか」

消沈するフレンに は苦笑を浮かべ、ずいっとフレンの目の前に指を立てた。

「まずひとつ。
ヘラクレスから帝都を守ったのは騎士団でしょ。
一歩間違えば自分達が沈みかねなかったのに、身を挺して守ったじゃない。
次にふたつめ。
魔導器ブラスティアに関しては旅を続けているうちに分かったことよ。
世界が滅ぶ前に分かってラッキーだったってだけ。
そして最後。
エステルは自分で戻ってきたの。
騎士団が気にすることではないわよ」

お分かり?と はにっこりとフレンに向けて笑んだ。
目を瞬かせたフレンは、つられるように微笑を浮かべると、そのまま に頭を下げた。
その行動に は呆れた表情をみせ、手刀を振り上げた。

「こーら・・・そういうのは要らんって言ってるでしょー、が!
ーードッ!ーー
「っ!・・・痛いよ、
「痛いようにやってるのよ。
そこまでされるようなことやってないって言ったでしょ?
それともなぁに?
騎士団団長代行様はそんなにギルドに借りを作りたいわけ?」
「・・・ずるい言い方だね」
「交渉術で私に勝とうだなんて20年早いわ」

不遜に笑った に、ついに折れたフレンは降参だとばかりに両手を挙げた。
それに満足そうに頷いた は、体を解すように伸び上がる。

「さて、と・・・そろそろ行くわ。
他の皆もそろそろ起き出してくるでしょうし」
「すまないが、こっちはもう少しかかりそうだ。
ギルドの船を調達してすぐに向かうつもりだったんだけど・・・」

言い淀むフレンに、 は振り向いた。

「ん?何か問題あった?」
「・・・ドン亡き後、なかなか意見がまとまらないらしい。
また追いかけることになりそうだよ」
「そっか・・・なら私からも働きかけとくわ。
船なら幸福の市場ギルド・ド・マルシェが一番持ってるだろうし、一言二言協力お願いしてみるから」
「ありがとう、助かるよ」

フレンの言葉に階段を下りながら後ろ手に手を振った
そのまま街の入口へ向かおうとした だったが、思い出したようにフレンに振り返った。

「忘れてた。
フレン、一つ頼まれてくれない?」
「なんだい?僕に出来ることなら力になるよ」

相変わらず紳士だなぁ、と思った は続ける。

「ヨーデル殿下に魔導器ブラスティアとエアルのこと、話しておいてもらえる?
私、頭使うのは性に合わなくて・・・
ごたごたしてる時に申し訳ないけど、殿下ならうまい対策考えてくれるだろうし」
「分かった、それは任せてくれ」
「ありがとね〜。
っと、もう一つ。
これは個人的な興味なんだけど・・・エステルのこと前みたいに『返せ』って責付かなくなったじゃない?
何か心境の変化でもあったの?」

の指摘にフレンは苦笑を見せた。

「お見通しだね・・・
次期皇帝候補でもあるエステリーゼ様には、安全な帝都に居ていただく方が彼女だ為だと思ってた・・・
けど、ご自身で決められて 達と旅を続けることで、帝都に居ることでは得られなかったものが得られてるんじゃないかって。
それに、彼女の為と言って結局はこちらの都合を押し付けなんじゃないかって思ってね。
だから、せめて彼女が納得するまではその選択を尊重することにしたんだ」
「そっか・・・前に比べて随分と融通が利くようになったわね」

にやりと口端を上げた に、幼馴染みの姿を重ねたフレンは眉根を寄せた。

、からかわないでくれ。
僕なりに悩んで出した答えなんだ」
「あら?私、一応褒めたつもりなんだけどなぁ〜
・・・エステルが聞いたら喜ぶでしょうね」

じゃ、向こうで会いましょ、と満足気に踵を返して歩き出す。
その背中にフレンの声がかかった。

!」
「ん?」
「今回の帝都解放、いやそれ以外のことも凛々の明星ブレイブヴェスペリアの活躍だということを誰も知らない、
知ろうとさえしていない。
なのに世間ではそれを僕の功績だと思ってる・・・
これでは凛々の明星ブレイブヴェスペリアの頑張りが無駄になってしまう。
、君の力で凛々の明星ブレイブヴェスペリアの活躍を世間に広めることはできないかい?」

フレンの言葉に足を止めた は振り返った。

「フレンの気持ちは分かるわ。けど、それユーリに言ったの?」
「それは・・・」
「世の流れって言うのは不思議なものでね、事を起こした人が必ずしも光を浴びるとは限らないわ。
今回の事は凛々の明星ブレイブヴェスペリアが帝都解放を目的に事を起こしたわけじゃない。
あくまでも結果的にそうなったというだけ。
それ以外の事も然り。
だから私はこのままで良いと思うわよ?
多分だけど、ユーリも同じことを言うと思うわ。
ま、納得いかないのなら自分で本人にしっかり聞く事ね」

そう言った は今度こそフレンに背を向け、街の入口へと歩き出した。






























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2008.8.18