エステルが帰って来た。
喜びをかみしめるユーリ達だったが、新たな問題を前にのんびりと休んでもいられない。
作戦を立てようと皆が動き出そうとした時、 が声を上げた。

「みんな疲れてるとこ悪いんだけど、時間もらえる?
もう隠しておける話でもないし、私の口から説明させて欲しいの」

真剣な表情を見せる に、ユーリ達は顔を見合わせると頷いて返す。
ここじゃなんだから、と食堂まで移動すると人払いが済んだそこで は語り出した。













































































ーーNo.158 皇帝補佐官 前ーー































































「・・・今まで黙っててごめんなさい。
アレクセイが言った通り、私は皇帝補佐官一族の生き残りよ」
「じゃあ・・・ もお姫様ってこと!?」
「まぁ、皇族って括りで見ればそう言っても違わないけどね。
でもその呼び方はやめてちょうだい」

寒気がするわ、と はカロルに苦笑を見せる。
そんな にジュディスが確認するように訊ねた。

「皇族ということなら、あなたも満月の子の力を持っているのね」
「ええ。エステルほど強い力じゃないけどね」

肩を竦めて即答した に、リタが弾かれたように声を上げる。

「待ってよ!でもあんたは魔導器ブラスティアを普通に使ってるじゃない。
それに、フェロ―はエステルの事しか言ってなかったし・・・!」
魔導器ブラスティアのことは後で説明するわ。
リタなら使ってる実物見た方が手っ取り早いでしょうしね。
フェローが言わなかったのは・・・名指しするほどのことじゃなかった、ってだけじゃないかと思う」

あくまで推測だけどね、と は指を立てて言う。
そして、一息ついた は昔の記憶を掘り起こすように両目を伏せた。

「私のことを話すにはずいぶん昔に遡ることになるの・・・」

そう言ってゆっくり瞼を上げた は話し出した。

「今から10年前、当時は人魔戦争の真っ只中で、私は騎士として一族を代表して出兵した。
厳しく、激しい戦いだったけど、私は戦場で大切な友人ができたの。
戦争が結果的に帝国の勝利となったのはその彼と彼の親友の力があってこそだった・・・」
「そんなヤツが居たなんて知らなかったぜ・・・」

ユーリの呟きに は苦笑を浮かべると続ける。

「・・・でも、勝利の喜びなんて私は感じる事ができなかった。
彼のお陰でもたらされた勝利なのに、帝国は彼の力を恐れて・・・手負いの彼に剣を向けた。
私はそれを見過ごせなかったし、勝手すぎる帝国の行いも許せなかった。
だから・・・私は剣を取った」
「それって・・・一緒に戦ってきた仲間に剣を向けたってことだよね?」

困惑を示すカロルは は弁解することなく頷いた。

「ええ、そうよ。
あの場では上官の命令に応じない私が異質だった。
ほとんどの兵士が迷うことなく襲ってきた。
・・・片っ端から倒していったけど、所詮は悪足掻き。
なんとか戦場から逃げ出すことができたけど・・・結局、私は守る事も助ける事もできず・・・
・・・彼は命を落とした」

悲しみを滲ませる声音に、エステルが心配そうに声をかける。

・・・つらいなら、無理しないで下さい」
「ありがと、エステル。でも大丈夫だから」

弱々しい微笑を向けた は再び口を開いた。

「私は帝国を捨てた。
そして追っ手の追跡と傷を癒すためにその戦争で知り合ったベリウスのところで暫くお世話になったの。
それから、彼女の紹介でドンの所に移って天を射る矢アルトスクに身を置くことになったってわけ」
「ではベリウスとは10年前からの知り合いなのね?」
「ええ。でも、仕事で会ってたっていうのもホントのことよ」

ジュディスに答えた に、今度はユーリから疑問の声が上がる。

「でも、お前騎士だったんだろ?
なんでそれが情報屋になんてなってんだ?」
「それは傷が癒えてからドンに情報屋としての全てを叩き込まれたからよ。
そして、数年経って一人でも仕事をこなす事が出来るようになった頃、初めて帝都での仕事を任された」

は懐かしむような微笑を浮かべる。

「数年ぶりの帝都を訪れた私は、そのまま屋敷へ向かった。
記憶に違わない様子にあの時はとても嬉しかったのを覚えているわ。
そして、一番心配だった家族がどうなっているか知りたくて私は扉を開いた。
・・・もう帝都に戻ることはないけど、こうして元気だということを伝えたいと思ったから・・・
・・・・・・けど・・・」

はそこで口を閉ざした。
重い沈黙が流れる。
そのまま口を開かない を急かすことなく、ユーリ達は辛抱強く待った。
暫くして、 は意を決して続きを言った。

「・・・私を出迎えたのは、部屋中に広がっていた赤黒い染みだけだった・・・」































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2008.8.17