皆が集まったことで勝負はあっという間に片が付いた。
エアルへと消える魔物を見送ると、リタが呆れたように背後にいるカロルに振り返った。
「ひとりであんな無茶してバーーカロル!!」
しかし先ほどまで戦っていたカロルは力なく倒れ、色を失ったユーリがカロルを抱きかかえ、叫んだ。
「カロル!おい!カロル!」
「おい!しっかりしろガキんちょ!」
木霊する悲しみの滲む声。
そんな中、カロルの傍で膝を折った
が首もとから手を放すと微笑を浮かべた。
「大丈夫、心配ないわ。
気を失っているだけよ。気が緩んだみたいね」
その言葉に脱力したように溜め息が続いた。
「ったく・・・エステル助けに行くのにあんたが先にやられちゃったらどうすんのよ」
「ま、そう言いなさんな。
男にゃ勝負時ってのがあるのよ。おかげで助かったわ」
「ああ。カロルがいなかったら、オレ達今頃あいつの胃の中だ」
「ワン!」
「さ、早くここを抜けましょ。
弱ってるカロルには辛いはずよ」
ジュディスの言葉に皆が頷くと、気を失っているカロルに凛々の明星
の柔らかい視線が注がれる。
「ありがとうな、首領」
「格好良かったわ」
ーーNo.151 ゾフェル氷刃海 後ーー
倒れてしまったカロルにこれ以上負担がかからないよう、足場の悪い道を慎重にしかしなるべく急いで歩を進める。
ようやく出口のような草木の緑を認めると、カロルを背負っていたレイヴンが疲労の声を上げる。
「ふひ〜、出口っぽいかぁ?」
「なによ。もう疲れたの?」
呆れ返ったリタに反論するように、レイヴンは口を尖らせた。
「年寄りは体力がないのよ・・・ジュディスちゃん、代わって〜」
「あら、あなたの仕事を奪うつもりはないわ」
「
〜、か弱いおっさんに愛の手を〜」
「そんなか弱い人どこにいるのかしら?見当たらないけど?」
ジュディスと
のぞんざいな扱いにレイヴンは肩を落とす。
と、レイヴンの背中を見ていたユーリは僅かな動きを見逃さなかった。
「カロル・・・起きてるな?」
「お、起きてない!ーーあいたっ!」
ユーリの言葉に思わず返事をしてしまったカロルは、支えられた腕を解かれ足元の浮氷へと落とされた。
痛みに涙目となったカロルが見上げた先には、不敵な笑みを浮かべていたレイヴンが顎に手を当てて見下ろしていた。
「この寒い中、おっさんに労働させるとは、カロル君。
君もなかなかやるではないか」
「もう大丈夫か、カロル?」
「うん」
ユーリの言葉にカロルは証拠を見せるように腕を突き上げる。
「心配したのよ、とても」
「そんな風には見えなかったけど?」
「あら、おかしいわね」
リタの言葉に胸に手を当てて微笑んだジュディス。
それを胡乱気な視線を送っていたリタだったが、視線をカロルに移した。
「とにかく、もう無茶なことしないでよね。
サポートしきれないわ」
「まぁまぁ、たいした怪我じゃなくて良かったじゃない」
皆からの言葉にカロルは返事をするが、その口元はずっと緩んでいた。
それを見たユーリが、からかうように言う。
「なーにニタニタしてんだ?」
「ひどいな、ユーリ。
・・・ドンの言葉を思い出してたんだよ」
カロルの言った言葉に、記憶を手繰ったユーリが紡ぐ。
「仲間を守ってみろ、そうすれば応えてくれる・・・だったか?」
「うん。あれってこういうことだったのかなって・・・」
それを聞いた
はあの眩しい笑顔、頼もしい背中を思い出す。
思い出とするにはまだ胸の痛みはあるけれど、ドンならカロルに返す言葉はこれだろうと口を開く。
「カロルがそうだと思ったなら、きっとそれが答えだと思うわ」
「そうだといいな」
振り返ったカロルは大人びた顔をしていた
それを見た
は、本当にドンは喜んでるだろうと、そう思った。
「さ、出口はすぐそこだ。とっとと抜けちまおうぜ」
ユーリの声に皆が歩き出す中、一人立ち止まり来た道を振り返っているリタにジュディスが声をかけた。
「どうかしたかしら?」
「うん。ここの氷ってエアルから生まれたのかもしれないって」
「氷が?エアルから?」
「あらゆるものがエアルからできているなら当然ね」
カロルの疑問に肯定で返したジュディス。
それに続くようにリタが話し出す。
「ここのエアルクレーネはある意味、すごく安定してた。
魔物が操れるほどにね。
もしかしたら、大量に物質化できたらエアルは安定するのかも・・・」
「それってエアルの乱れを解消できるかもしれない、そういう事か?」
ユーリの問いかけにリタはただ首を横に振った。
「分からない。そのためにはもっと効率が必要だろうし、量だって・・・」
「もっとここのエアルクレーネ、調査したいのかい?」
考え込むリタにかけられたレイヴンからの問いに再び否定を示した。
「ううん。今はそんなことしてる時間はないわ」
「ああ、思わぬ時間食っちまったしな。急ごう」
「エステル、無事でいて・・・」
リタの視線は遠いエアル溢れる帝都へと向けられた。
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2008.8.10