皆が目を覚まし、近くの街カプワ・ノールへと歩き着いた。
ノール港は街中の人が出てきてるのではないかというほど、ごった返していた。
無理もないだろう。
突如現れた凄まじい光柱、間を置かずして空を覆ったエアルの渦。
いつもと変わらない日常を営んできた住民にとっては天変地異ほどの大事件だろう。
人集りの中、以前助けたティグル一家と再会した。
満身創痍のユーリ達に驚いていたが、医者を連れて来てほしいというこちらの願いを快く了承したティグルは人波へと消え、ユーリ達はそのまま宿屋へと向かった。


































































ーーNo.149 紺碧に馳せる思いーー































































「助かったよ。ヘリオードから戻ってきてたんだな」

医者から治療を終えたユーリがケラスとティグルに礼を述べる。

「はい。あの時はお世話になりました」
「ノールの執政官が代わったおかげで前よりは随分暮らしやすくなったと思ってたのに、今度はあの空だ」
「それでね。ちょっと前にね、ドーンってすごい音がしてぐらぐらーってなったんだよ」
「そっか、大変だったね」

ポリーが身振りで説明する様子を、視線を同じにしたがにこやかに応じる。
そんなポリーの説明を補足するように、母親のケラスが続ける。

「今、役人の人達が様子を見に行っているところなんです」
「ねえねえ、あのお姉ちゃんは?いないの?」

大人達の会話を気にすることなく、子供ながらの素直な、容赦ない疑問が投げかけられる。
それにビキッと音を立てたようにユーリ達が固まった。

「そういえばあの子ならあんたたちの怪我も治せるだろうに、どうしたんだ?」

ティグルの言葉に、床に胡座をかいていたレイヴンが、明後日の方向を見てその問いかけに答えた。

「・・・ある馬鹿野郎がさぁ、悪い奴に渡しちまってね。
それで今、追いかけてんのよ」
「・・・」
「そうか・・・悪いこと聞いたみたいだな、すまない。
とにかく今はゆっくり休むといいよ」

ティグルの気遣いに黙っていたユーリが片手を挙げて応じると、ティグル一家は帰っていった。





































































ユーリ達はそのまま宿屋で休んでいたが、時間を持て余したユーリが情報を集めてくる、と部屋を出ていった。
しばらく経ってもユーリが戻らないことに、心配になったは街へと繰り出した。

「さて、どこから捜してやろうかしら」

一人呟いたは、腕を組んだまま辺りを見回す。
とりあえず見晴らせるところにしよう、とは執政官邸に続く小高い丘を目指し歩き出した。




































































坂道を上り出すと視界に捉えた探し人には声をかけた。

「みーつけた」
「あ、悪い。ちとボーッとしてた」

潮風に揺れる黒髪には呆れたように息を吐いた。

「まったく、体を休めないといけないのはユーリも同じでしょうに」
「お前もな」
「まぁ、そうね」

そう言って互いに海へ視線を投げる。
しばらくそうしていたがおもむろに口を開いた。

「エステルの言った事を考えてる」
「は?」

不思議そうな声が隣から上がる。
視線をユーリに向けたはにっこりと笑みを向けた。

「当たり、でしょ?」
「さあな」
「相変わらず素直じゃないわね。
ま、素直すぎるユーリなんて気持ち悪いけどね」

言いながらは海へと視線を戻す。
さらりと言われた言葉に抗議するような目が自分に向けられているのが分かったが、内心だけで苦笑する。

「おい・・・」

低い声で唸るユーリには再び口を開く。

「殺させないわ」

息を呑んだのが分かった。
はユーリを真っ直ぐ見つめると、もう一度、ゆっくりと繰り返した。

「殺させない。
たとえエステルがそれを望んだとしても、アレクセイをどうにかすればなんとでもなる。
システムがどうとか言ってたけど、こっちには天才魔導士様がついてるんだから・・・」

だからね、とはユーリから視線を外すと小さく呟いた。

「だから、先走った行動はやめてよね」
「オレは・・・」

言い淀むユーリには答えを聞くのを待たずに、くるりと背を向けた。

「今のは全部独り言。
さ、宿に戻りましょ」

歩き出したの背中を見ていたユーリは離れていくその背中を呼び止めた。


「ん?」
「どうしてお前は、そう強くなれんだ?」

その言葉に、キョトンとした表情を返したは首を傾げた。

「どこを見てそんなこと言うワケ?」
「あの状況の後で、どうして・・・」

その先を言い淀むユーリ。
は目を瞬かせると、腕を組みしばらく唸ってから答えた。

「答えになってるか分からないけど・・・
みんなが、一緒に旅してきた仲間がいるから、そう言い切れるのよ」
「・・・」
「ま、これは私の答えであって、ユーリがそれに納得しなくていいんだけど」

ほら、行きましょ。とは止めていた足を動かし、しばらくしてユーリも同じように来た道を戻り始めた。









































































宿屋に戻ると、帰ったはずのティグルが待っていた。
何か手伝えることがあれば、ということらしい。
聞いた話の補足をしてもらえるよう、ユーリは集めてきた情報を一同に説明した。

「・・・よりによって、えらいとこに当たっちまったもんだねぇ」
「街に当たらなかったのがせめてもの救いね」

沈黙を破ったレイヴンとジュディスが呟く。
ヘラクレスの攻撃は、街は確かに外れたもののエフミドの丘を直撃した。
今は高熱で近づけないということだったが、どのみちあの威力では相当大きな穴になってるだろうから、渡る事は難しいだろう。
話を横になったまま聞いていたカロルとリタが起きたのを見ると、が二人に声をかける。

「ふたりとも、もう大丈夫なの?」
「まだあちこち痛いけど・・・エステルが危ないんだ。
のんびり寝てられないよ」
「そゆこと」

聞かされた話に、レイヴンは胡座をかいたまま無精髭をさすった。

「しっかし、どうするよ実際」
「船で迂回できないかな、って思ったんだけど港はガラガラ・・・
騎士団が全部持って行ったらしいわ」

ヘラクレスの一件でね、と

「くそ、一刻を争うってのに」

焦りと手詰まりで雰囲気を暗くする一行にティグルが、言いにくそうに切り出した。

「・・・方法がないこともない。
あまりおススメできないがね」
「手があるなら教えてくれ。
オレ達、急いで帝都に行きたいんだ」

ユーリを暫く見つめていたティグルだったが、決心したように口を開いた。

「大きく遠回りすることになるんだが・・・
エフミドの丘の手前を北に行くと山と海に挟まれた細い海岸がある。
その先は行き止まりなんだが、今の季節、そこに流氷がたくさん流れ着く」
「ゾフェル氷刃海、か・・・
確かに運が良ければ道になって大陸中央部に迂回は出来るだろうけど、自然のことだし通れる保証はないわね」

ティグルの後を引き継いでが答える。
厳しい表情なのは、それだけ危険があるということでもあるのだろう。
しかし、それで少しでも早く帝都に近づけるなら、とリタがベッドから降り立った。

「でも、それしか方法がないなら行くしかないでしょ」
「よし行こう」

ユーリの声に皆が頷くと立ち上がった。

































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2008.8.9