暫くして
も復活し攻略再開となった。
レイヴンの推測からアレクセイは制御室にいるだろうということで、ユーリ達は制御室を目指した。
だが、制御室を開けて飛び込んで来た光景にユーリ達は目を見張った。
「なんだこりゃ?親衛隊が倒されてるってどういうワケよ・・・」
辺りに倒れている親衛隊。
その誰もが身動ぎせず、絶命していた。
階下に降りると、レイヴンの問いの回答が現れた。
「待ちかねたぜぇ。ユーリ・ローウェル!」
「あなたがこの人達を倒したのね」
「余計な邪魔を入れられたくないからなぁ」
ジュディスに薄ら笑いを浮かべたままザギが答える。
「てめえなんぞに用はねえ。
アレクセイはどこだ?エステルをどこにやった!」
「くっくっく。
居ねぇよ!そんなヤツは最初からここには居ねぇ」
ユーリの反応を楽しむようにザギは喉の奥で笑う。
「なんですって!」
「目を引くヘラクレスを囮に、自分達はそれを盾に逃走・・・嵌められたわね」
苛立ちを見せるリタと
に、ザギは自分に注意を向けるように声を上げる。
「おいおいおいおいおい!
そうじゃないだろ!しゃべってる暇あるのか?
さっさとお楽しみに入ろうぜぇ」
「何度も言わせるなよ。お前に用はねえ、消えろ!
邪魔するってんなら容赦はしねえ!」
「くっくっく・・・そうだ、ユーリ。もっと怒れ!昂れ!憎め!
それこそが最高のスパイス!はーっはっはっは!」
ユーリの突き刺すような視線を物ともせずザギは声高に哄笑する。
それが収まると、ザギは下から睨み上げるようにユーリを見ると、にぃぃと口端を吊り上げた。
「さぁ・・・逝こうぜぇ!ユーリ・ローウェル!」
ーーNo.147 移動要塞での待ち人ーー
執拗な攻撃をかいくぐり、ユーリ達はどうにかザギに膝を折らせる事ができた。
しかし、ザギの目に光る狂気は収まる事を知らないようだった。
「ぐふっ!くくく・・・お前は最高だ・・・
ユ〜〜〜リ〜〜〜!!」
「この粘着野郎!いい加減にしやがれ!」
怒りを叩き付けるようにユーリが衝撃波を見舞う。
「ぐはぁ!」
それを受けたザギは窓を突き破り、ユーリ達の視界から消えた。
「リタ!」
「分かってる!これで・・・おしまい!」
ユーリに応じたリタが制御板を操作すると、それまで走行していたヘラクレスはその歩みを止めた。
一つの問題が解決した事で、
はホッとしたように息を吐く。
「これでヘラクレスはフレン達が押さえてくれるでしょうね。
・・・問題は・・・」
「・・・エステル、どこに連れてかれちゃったの?」
リタが不安を滲ませながらポツリと呟く。
「アレクセイはエステルを道具としか見てない!
このままエステルの力を使われちゃったら・・・
ホントにエステルが星喰みを引き起こしてしまうかもしれない!」
「させないさ。だからオレ達がいる。
そうだろ?」
おどけながらも強い意思を宿した視線を向けられたリタは、不安気な表情を幾分明るくして頷く。
「バウルにお願いしてエアルの乱れを追ってみましょう。
エステルの力が使われているのならきっとーー」
ーードガーーーンッ!ーー
ジュディスの言葉は、背後から不意に襲った爆発によって遮られた。
誰も防ぐ事ができず、直撃したせいで立ち上がることもできない。
「ひゃはぁ〜!ユゥゥリィィィ!まだ終わっちゃいねぇぇっ!!」
いつの間に上ってきたんだ、という問いかけも出来ないほどダメージは相当だった。
さらに、ザギの攻撃は思わぬ所にまで波及していた。
「せ、制御板が・・・!」
「はーっはっはっはっは!ユーリ!上りつめようぜぇ!」
愕然としたリタを嘲笑うかのように、息を吹き返したヘラクレスは再び動き出す。
ザギに応戦しようとするが、立つ事もままならない状況では無理がありすぎた。
「や、やべぇ・・・体が・・・」
「ダメだ・・・エステルみたいな高度な治癒術じゃないと・・・
みんな同時に治せないよ」
「ここで倒れるわけには、いかない・・・!」
「っ・・・こんな奴、に・・・」
足掻くユーリ達を見下ろしていたザギは、冷笑を浮かべると魔導器と一体化している左手で狙いを
定めた。
「くっくっく、やっと良い声で啼いたなぁ・・・
逝っちまいーーぬぁっ!」
しかし攻撃が放たれるより早く、突如現れたゴーシュとドロワットの蹴りがザギの体に打ち込まれる。
次いで体が浮き上がったザギが目にしたのは自分を狙う銃口から放たれた光弾だった。
ーーパァーーーンッーー
「あああああぁぁぁぁぁ!」
その直撃を受けたザギは絶叫を残し、最後は落水音によって途切れた。
「ふっふん。ビュリフォーなシャウトですねー」
前髪を搔き上げてイエガーは肩を竦める。
その数段下でゴーシュとドロワットは治癒術を同時発動し、ユーリ達を柔らかい光が包み込む。
どうにか体を動かす事は出来るようになったが、意図の見えない行動にユーリは鋭い視線を向ける。
「イエガー!てめえ何のつもりだ!」
「ミーのビジネスにとって帝国ばかりがパワフルになるのは都合がバッドバッドなのでーす」
人差し指を左右に振って片目を瞑ったイエガーが答える。
「アレクセイはザーフィアスにいる」
「帝都ザーフィアスの御劔の階梯に秘密があるのだわん」
「宙の戒典がキーとしてニードなはずだったのに、ユー達のプリンセスで代用しようとしてマー
ス」
3人の海凶の爪の言葉に、
は厳しい視線を外さない。
「ヨームゲンといい、今回といい、どうしてそこまで情報を売るワケ?
ビジネスの度を超えてると思うけど?」
「おいおい、こりゃ話し込んでる場合じゃなさそうよ。
このままじゃザーフィアスの下町はぺしゃんこだ」
ヘラクレスの進行方向を見たレイヴンが焦ったように声を上げる。
それを聞いて盛大に舌打ちをしたユーリが制御板の前に立つリタに振り向く。
「ち!リタ!」
「無理よ!完全に壊れちゃってる!」
「動力を止めるしかないよ!」
慌ただしく動き出すユーリ達に踵を返したイエガーは片手を挙げてその場を後にする。
「がんばるデース。
じゃ、そういうわけでシーユー!」
「あ、待て!」
その後を追いかけようとしたカロルの肩を
は止めた。
「今は放っておくしかないわ。
考え事は増えたけど、今は動力室へ向かいましょう」
親衛隊を退け、ユーリ達は動力室の扉を開けた。
そこで待っていたのは、真っ赤になった暴走したエアルの海。
制御できなくなった魔導器と干渉し合う聖核が
どこかへとエアルを送る光の筋だった。
「わ!あれ何?」
「エアルがものすごい勢いで送られてる。
このデカ物でこんなとんでもないパワーが向かう先なんて一つよ」
「ヘラクレスで一番パワーが必要なとこなんて・・・」
「主砲か!」
「こんな状態でこの魔導器壊しちゃったら、ヘラクレスの動きは止まっても、主砲ぶっ放しちゃっ
て目の前のザーフィアスは吹っ飛んじゃうわ!」
「えー!ど、どうしよう?」
「何にせよ、このエアルの暴走を止めないと」
「そんなことできるのは・・・」
リタの言葉に、ユーリはデュークから渡された宙の戒典を握りしめる。
「宙の戒典か」
「そっか!デュークはそれでエアルの暴走を鎮めてたもんね!」
「できるの?」
「やるしかねえんだ。やってみるさ」
円柱の装置の中に浮かぶ結晶体の前に立ったユーリは、それを見上げた。
「聖核・・・」
「制御できなくなった魔導器と干渉し合って、暴走してるんだ」
「・・・」
「壊すしかないわ」
ユーリの隣に立った
は呟く。
その言葉にカロルは僅かに抵抗を見せた。
「でも、始祖の隷長の魂みたいなものなんでしょ?」
「彼らの意思に反して力だけを破壊工作に利用されるのは彼らの矜持を穢すことよ。だから・・・」
「だな、迷ってられねえ!」
力強く
が言えば、ユーリも頷いた。
一か八かではあったが、エアルを鎮めるためユーリは聖核に向け宙の戒典を振り下ろす。
すると、辺りは白光に包まれた。
ーーありがとうーー
「・・・え?」
「主砲はどうなった?!」
ユーリの言葉に、すぐに術式を展開したリタが確認するが、示された結果に色を失う。
「ダメ!このままじゃ発射される!」
万事休すか、と思われた瞬間、ユーリ達の足下に振動が走る。
立て続けに起こるそれは、ヘラクレスの周りを囲んでいた船団がその船体をぶつけている為だった。
フレンが指揮する、華奢とも言える船団は重装備なヘラクレスに到底及ばない。
「あれじゃあ、向こうが沈没しちゃうよ!」
カロルが絶望的な声を上げる。
しかし捨て身の行動は無駄とはならなかった。
暴発した主砲の軌道は帝都を逸れ、着弾したそこへ直視できないほどの光を発する凄まじい光柱を空へと突き立てた。
「・・・良かった。帝都は無事ね。
他の街にも当たった訳じゃなさそうし、ひとまず安心ね」
「すごいわね。あなたのお友達」
最悪の状況を免れた事に、
は肺が空になるほど息を吐き出した。
ジュディスの微笑を向けられたユーリも乾いた笑みがこぼれる。
「はは・・・まったくだ。無茶ばっかりしやがる」
「それより、早くザーフィアスへ行きましょう!
エステルを助けないと」
リタの声に皆が頷くと、甲板に向かって駆け出した。
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2008.8.8