・・・声が、聞こえる。
「ーーー」
・・・呼んでいるの?
「ーーー」
・・・懐かしい、気がするこの声は・・・
「・・・ーーー」
・・・ああ・・・この手は・・・
ーーNo.141 緑に埋もれる神殿ーー
飛び込んで来たのは、年数を経た遺跡の天井。
そして、薄暗い中で目を引く見知った白銀の髪だった。
「・・・」
「気がついたか」
「・・・デューク・・・っ!」
「まだ動くな。応急処置しかできていない」
「・・・そっか、デュークが助けてくれたんだ」
肩の力を抜いた
は、起こそうとした身体を再び固い地面へと戻す。
しばらくして、デュークはわずかに厳しい表情のデュークが問うた。
「何があった?」
「仮面付けた男に会ってない?」
「いや・・・」
「その男にしてやられたわ」
情けない、と手の甲で目元を押さえた
は深々と嘆息する。
そんな
の様子に、デュークは続けた。
「・・・特殊な術式が展開されていた」
「そいつが言うには、古代技術の敵を鹵獲する術式だって言ってた」
「・・・鹵獲、か。あの規模からして、人間に対する術式ではない。
下手をすれば死んでいた」
「命拾いしたわ、ありがとね」
「・・・当然だ」
心強い言葉に、
は微笑を返す。
そして、肘をついて上体を起こすと、最初に聞こうとしていた疑問を投げかけた。
「ところで何でデュークがここに居るの?」
「・・・この地のエアルクレーネを鎮めに来た」
バウルに乗りアレクセイを追っていたユーリ達は、以前ダングレストで目にしたヘラクレスを見つけた。
それは、ダングレストでもそうだったように雨のような砲撃を上空に放っていた。
それを受けていたのは、始祖の隷長のようだったが、攻撃の激しさに山裾に空いた穴へと逃げ込んでいった。
まだ聖核を狙っているアレクセイに更に怒りが募る。
このまま近付いて、的になる二の舞にならないよう、ユーリ達は離れた所から神殿へと近付くことになった。
神殿の入口へ到着したユーリ達は、アレクセイの背中を見つけた。
その隣、宙に浮いた球形に展開された術式の中でぐったりとしたエステルが、
そして、その球体を囲むように多くの聖核が浮かんでいた。
「アレクセイ!」
ユーリの声に足を止めた騎士団長は、忌々し気に舌打ちをついた。
「イエガーめ。雑魚の始末も出来ぬほど腑抜けたか」
「エステルを返せ!」
「エステル、目を覚まして!エステル!」
カロルとリタの声が響く。
それを受けて何を思ったのか、アレクセイは振り返ると薄く笑った。
「ふむ、よかろう。
オルクスの調整の成果を試すとしよう」
そうして聖核をかざすと、エステルの周りの聖核が光を放ち球体を包んだ。
『うあ!あ・・・あああっ!!』
それに意識を強制的に戻されたエステルは、苦しそうに胸を押さえる。
だが、それだけで終わらず、球体から高濃度エアルの衝撃波がユーリ達を襲う。
「うっ!」
「うわぁ!」
「きゃ!」
「ギャウ!」
「くっ!」
その直撃を受けたユーリ達は次々と倒れる。
目の前で起こった事に、エステルは色を失う。
『ユーリ!みんな!う・・・ぁ・・・』
しかし、再びアレクセイが操った聖核の力によって意識を失わされた。
「この通り、何の補助もなしに力を使えば姫の生命力が削られる。
諸君も姫のことを思うならこれ以上邪魔をしないことだ。
くくく・・・」
「く、そ・・・」
次々と意識を失うユーリ達を残し、アレクセイは哄笑を残し神殿の奥へと消えていった。
そして、ユーリが最後に見たのはこちらと距離を詰める親衛隊の姿だった。
剣戟の音がかすかに聞こえる。
徐々に浮上してきた意識が、目の前の光景を脳内へ伝達する。
自分は、一体、何を・・・
「起きろ!いつまで寝ている!」
高く咎める声にようやくユーリは意識をはっきりさせた。
「う・・・?あんた、フレンの・・・なんでここに」
「隊長はあれから寸刻を惜しんで奔走している。
それなのに貴様のザマはなんだ。散々大口叩いたくせに」
「お前の隊長と違って、こっちはデキが悪いんだよ」
嫌味に悪態で返したユーリは、他の面々に声かける。
その背中にソディアは悔し気に吐き出した。
「・・・なぜだ、なぜお前みたいなやつがフレン隊長の友人なんだ!
隊長は私達騎士の憧れだ。あれこそ帝国騎士の鑑だ。
なのに!お前と一緒だと隊長は隊長でなくなってしまう。
今回の事だって・・・」
「くだらねえ。そんな話すならそのリンゴ頭とでもすりゃいいだろ。
オレ達はあんたの愚痴に付き合ってる暇はないんだよ」
「り、リンゴ頭ぁ!?」
「貴様!!」
ユーリの応じように頭に血が上ったソディアは、柄に手をかける。
「ソディア、駄目ですって、落ち着いて下さい!ソディア!!」
慌てたウィチルが二人の間に入り、小さい体をめいいっぱい使ってソディアを宥める。
睨み合いの後、ようやく柄から手を放したソディアが口を開く。
「・・・これだけは言っておく。
お前は・・・お前の存在は隊長のためにならない!」
「ソディア!もう・・・
ええと・・・最後にフレン隊長から伝言です。
『頼んだ』
こ、これで僕らの任務は果たしましたからね。
後は勝手にしてください」
「小隊、撤収するぞ!急いで本隊に戻る」
副官の言葉が響きフレン隊はその場を後にした。
その後ろ姿を見送っているユーリに、ソディアの言葉を聞いていたカロルはどう声をかけるべきか逡巡した。
「ユーリ・・・」
「さ、アレクセイを追おう。
急がないとな」
「あいつ・・・エステルを道具みたいに・・・許せない!」
ユーリ達は開かれた神殿の入口に向けて歩き出した。
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2008.7.28