ーーNo.140 互いの目的に向かってーー































































「お前、何してやがった?騎士団で上に行って国を正すんじゃなかったのか!
アレクセイにまんまと利用されやがって・・・
ドンもベリウスもあの野郎のために死んだってのか!そばに居て全く気付かなかったの かよ!?」
「すまない・・・」

廃墟の只中で、ユーリは声を荒げる。
フレンは消沈したまま頭を下げることしかできない。
そんなフレンを見たユーリは嘆息すると、気を落ち着かせて再び問う。

「なぜだ。ヨーデルがアレクセイを信用してたからか?」
「殿下は悪くない。
すべてアレクセイを信じた僕の責任だ」
「ノードポリカで聖核アパティアを欲しがったのもアレクセイの命令だからだろ」
「ああ・・・」
「話せよ。何があった。
もう元騎士団長殿に気を遣う必要ねぇだろ」

ユーリの言葉にフレンはすぐ口を開くことはなかった。
が、しばらくしてゆっくりと話し出す。

「ヘリオードの軍事拠点化に、マンタイクでの住民迫害。
キュモールの行動、更に帝国で禁止されている魔導器ブラスティアの新開発・・・
すべて騎士団長、いや、アレクセイの命令だった」
「立派な騎士様になったもんだな。
国への忠節、たいしたモンだ」

呆れ返ったユーリに反論するようにフレンは言葉を返す。

「騎士団長は・・・アレクセイは昔はああじゃなかった!
君だって知ってるはずだ。正しい者が正しく生きていける、それがアレクセイの理想だった。
だからこそ僕は・・・」
「それで自分のやるべき事を見失うようじゃ世話無いぜ」

皮肉を込めたユーリの切り返しにフレンは言葉を失う。

「・・・・・・」
「エステル奪われちまったオレも偉そうなこと言えた義理じゃねえけどな」

目を瞑ってそう言ったユーリは、悔し気に呟いた。
その言葉にフレンは首を振ると、再び口を開く。

「いや、それも元はと言えば僕がアレクセイの本性を見抜けなかったせいだ。
疑問を感じながらも騎士として命令を遂行することに固執してしまった。
に言われてようやく下された命令に疑問を持つことができた。
今回の事態は僕の思慮の浅さが招いたんだ・・・!」
「嘆くのがあんたの仕事なの?」

フレンの言葉にいつの間にか近付いていたリタから叱責が飛ぶ。
それを部隊に指示を終えて戻ってきたウィチルが聞き咎める。

「無礼だよ!」
「いや、彼女の言う通りだ。
僕は責任を取らないといけない。エステリーゼ様は必ず救い出す。
だから、ウィチル、ソディア。
それまでユーリ達と共にヨーデル殿下をお守りしてくれ」
「あん!?」

いきなり振られた話に、訳が分からずユーリはフレンに視線を向ける。
部下の二人も困惑を見せ、それに答えるようにフレンは話続ける。

「親衛隊がエステリーゼ様を連れ去るのを僕は阻止できなかった。
僕には彼女を助け出す義務がある。
ヨーデル殿下は次期帝国を率いられるお方だ。
我が軍の総力を挙げてお守りしてくれ」
「ですが隊長は!」
「・・・頼む」
「・・・」
「ったく・・・オレはお前にそう言うケジメを付けてさせたくて怒鳴ったワケじゃねーっての。
エステルを助けるのはオレ達、凛々の明星の仕事だ。
お前はお前の仕事してろ・・・天然殿下のお守りは頼んだぜ」
「ユーリ・・・」
「隊長、一国を争います。
ヨーデル殿下の元に参りましょう」

ソディアの言葉にフレンはしばし考えたが、出すべき答えは決まっていた。

「・・・分かった」

フレンはそのままユーリ達に背を向け歩き出す。
と、ふと立ち止まったフレンは小さく呟いた。

「ありがとう、ユーリ」
「お互いな、ちっと安心したぜ。久々にらしいところ見れて、な。
ま、こっちも が先走っちまってる。
グズグズしてられねえな」
「そうだね、 のことは頼んだよ」

ユーリは肩を竦めて返し、フレンはソディアとウィチルを連れてその場を後にした。

「アレクセイ・・・彼がヘルメス式の技術を持ち出していたのね」
「よし!バクティオン神殿に行くぞ。
エステルとレイヴンを助けてアレクセイのヤツをぶっ飛ばす!」

ユーリの言葉に皆が力強く返事を返すと、すぐさまバクティオン神殿に向けて飛び立った。



































































騎士団の早馬を拝借し、限界まで飛ばした はバクティオン神殿へと到着した。
入口周辺を見回しても目的の人物の姿はなく、神殿内部に続いていた足跡に は迷う事なくその歩を薄暗い内部へと進めた。
神殿内を進むが行く先に人の気配はなく、長い間人の立ち入りがなかったことを示すように、空気の淀んだにおいで満たされていた。

(「すぐに追ったつもりだったけど・・・これほど離されていたとも思えない・・・」)

床から耳を離した は、まだ真新しい足跡に触れた。

「・・・まさか、まだ中にはーー」
「その通り」

突然響いた声に は振り返りざまに臨戦態勢を取る。
そこには、二度も手にかけたはずの男がニヒルに口元を歪めて佇んでいた。

「オルクス!」
「やだなぁ、そんなに怖い顔しないでよ」

馴れ馴れしく応じたオルクスはその手にしていた、何かのスイッチを押した。
瞬間、

「くっ、きゃぁああああっ!」

突然、足元に術式が展開され、回避する間もなく鋭い痺れが身体を貫き は崩れ落ちた。

「凄いだろ。とある古代技術の敵を鹵獲する術式だ。
尤も、この時代の魔導器ブラスティアの出力じゃ、これの発動は無理だったけど・・・」

そう言ったオルクスは、懐から聖核アパティアを取り出す。
すると、赤い半透明の球体に捕らえられているエステルが現れた。

「!・・・エス、テル・・・」
『・・・ ・・・』
「今は手元にコレがあるからな」

球体を囲むようにたくさんの聖核アパティアが、ゆらゆらと浮かびオルクスの手元の聖核アパティアに反応しているように光を放つ。
無様に倒れる に、まるで自分が痛みを負ったような痛ましい表情でエステルが見つめる。
どうにかして立ち上がろうとするが、絶え間なく続く痺れに身体の自由が利かない。

「それにしても、素晴らしい出力だ。
アレクセイが欲しがるのも納得だな。使い勝手の良い玩具だ」
「オルクスっ!きさっ・・・ぐっ!」

男の言葉に射殺す視線を向けるが、それに見下す視線を向けたオルクスは手元の聖核アパティアを操り、強まった電撃に は呻いた。

「どうした?俺を二度も殺したくせにこうも勢いがないとは・・・興ざめだな。
それともかつての仲間によるエアルの攻撃で手も足も出ないか?」
「・・・な、に・・・」
「なんだ、気付いてないのか。無能過ぎだろう。
何故、始祖の隷長エンテレケイアがコレを、満月の子を殺そうとしたかなんか、単純な理屈だろう。
エアルに直接干渉する満月の子の能力は、世界の理を犯す。
つまり世界の破滅しかもたらさない」
『っ!』
「ちがっ!」
「どう違う?これまでの旅でお前らは害となる魔物を散々殺してきただろ?
それと同じだ」

オルクスの言葉に、エステルは目に見えて蒼白となった。

『そん、な・・・』
「エステル!聞い・・・ぐっ!!」
「降りかかる火の粉は払わねばならぬのが人間だろ?
なら、人間を害する存在は消えるのが世の為ということだ」
「違うっ!!」
ーードッ!ーー

突如、オルクスを火炎が襲う。
だが聖核アパティアで防いだのか、目の前の男は無傷のままだった。

「ふぅん・・・無言詠唱か。その状況でよくやる」
「はぁ、はぁ・・・ぐぁっ!
!』
「だが、このお姫様を解放するには及ばないな」
「くっ・・・」
「ま、害となる力でも、俺の頭脳が加われば有効活用が可能だ。
古代技術の再現も高濃度エアル空間のご提供も・・・そら、お手の物だ」
「っ!!ぅぁあああああっ!!!」
『嫌!もう止めて、止めてください!!』

エステルの悲鳴に近い叫びが響く。
そして、抵抗を見せていた の体が遂に地面に伏した。
それをつまらなそうに見下ろしたオルクスは、術式の発動を弱めた。

「なんだ、もう気を失ったのか。案外、脆いな」
!しっかりしてください!
どうして・・・どうしてこんなことを!』
「コイツは昔から俺のものだ。誰にも譲る気はない」
『それは、どういう・・・』
「あんたに知る必要はないよ。世界の害でしかないお姫様」
『っ・・・』

オルクスの突き放しにエステルは唇を噛む。
そして、身動きを止めた を見たオルクスの口端は残忍に歪んだ。





























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2008.7.27