ーーNo.139 真の黒幕ーー































































ヨームゲンに到着したユーリ達が目にしたのは、以前のような結界のない穏やかな時間の流れる街ではなかった。
家だったらしい支柱が砂から生え、辺りに散らばる何の用途だったのかも分からない残骸。
砂に埋もれ完全な廃墟と化したそこは街とさえ呼べなかった。
困惑するばかりのユーリ達だったが、街の奥、砂の丘陵に見知った姿があった。

「デューク・・・!」
「リゾマータの公式の手がかり!」
「あいつは・・・カドスの喉笛のヤツだ」
「デュークのツレだったとはな」

ユーリ達からはだいぶ距離が開いているためか、それともただ無視しているだけなのか、デュークはこちらに振り返ることはなかった。
すると、デュークはカドスの喉笛で見た魔物の背中に跨がるとそのまま空へと飛び立っていった。

「あいつには聞きたいことあるけど、まずはエステルをーー」
「逃がしたか・・・時間がない。
残念だがこうなれば、もはややむを得んな」

リタの言葉を遮り、突然背後から聞こえてきた声にユーリ達は一斉に振り返った。

「アレクセイ、何でこんなとこに・・・」
「ほう、姫を追ってきたか。
よくここが分かったな」
「エステルがどこにいるか知ってるの!?」

驚いたユーリに半ば感心したような反応を見せたアレクセイにリタは詰め寄ろうとした。
しかし、それを阻むように親衛隊がユーリ達に刃を突きつけてきた。

「な、何するんだよ!」
「ふん」
「おもしろいことをしますね、騎士団長様。
冗談にしては度が過ぎると思いますけど?」

リタを守るように前に出たは双剣に手をかけたままアレクセイを見据えた。
そんなにアレクセイは蔑むような視線を返す。

「君達には感謝の言葉もない。
君達のくだらない正義感のおかげで私は静かに事を運べた。
ラゴウもバルボスもそれなりに役に立ったが、諸君はそれを上回る、素晴らしい働きだった。
まったく、見事な道化ぶりだったよ。
・・・だがもう道化の出番は終わりだ。そろそろ舞台から降りてもらいたい」
「そういうことかよ・・・何もかもてめぇが黒幕?
・・・笑えねぇぜ!アレクセイ!!」

怒りを露にしたユーリは鞘から剣を抜き言い放つ。
と、そこへ新たな人物が登場した。

「騎士団長!」
「ふん。もう一人の道化も来たか・・・」

鼻で笑ったアレクセイの背後から、部下を連れてフレンが現れた。
だがその前にも親衛隊が刃を向け、それ以上の接近を許さない。
前後を挟まれる形になっても、アレクセイの余裕な姿勢は崩れなかった。

騎士団長!何故です!帝国の誇りと言われたあなたが、何故謀反など・・・」
「謀反ではない。
真の支配者たるものの歩むべき覇道だ」
「ヨーデル様の信頼を裏切るのですか!」
「ヨーデル殿下・・・あぁ、殿下にもご退場願わないとな」

すっかり忘れていた、と口角を上げたアレクセイにフレンは耳を疑い瞠目した。

「馬鹿な・・・」

張り詰める空気の中、ユーリ達を見下ろす砂丘からまた新たな声が上がる。

「マイロード、準備が整ったようデース」
「イエガー!」

ゴーシュ、ドロワットを従えたイエガーの登場に真っ先にカロルは怒りの視線を向ける。
しかし、当のイエガーは気にする様子を見せない。

「ご苦労。では私は予定通りバクティオンへ行く。
ここはお前に任せる・・・ヨーデルの始末もな」
「イエス、マイロード」

恭しく頭を垂れたイエガーに指示を終えたアレクセイはユーリ達に背を向け、歩き出した。
それを阻むようにフレンとユーリが追おうと走り出す。

「待て!アレクセイ!」
「逃がすかよ!」

が、一行の前にゴーシュとドロワットが立ち塞がった。

「通さない」
「邪魔するのなら・・・」
「どきなさいよっ!」

眼前の障害である少女二人に、ジュディスとリタからの鋭い視線も突き刺さる。
緊迫の中、砂丘の上からユーリ達を見下ろしていたイエガーが口を開いた。

「ユー達のプリンセスもバクティオン神殿デース」
「どういうつもり?敵である私達に情報を売るなんて」

双剣を構えたまま目を眇めたの言葉に、イエガーは不敵な笑みを浮かべただけでそれ以上話さない。

「早く行かないと手遅れになっちゃうわよん」

ドロワットがそう言い終えると、弾幕が張られ晴れたそこにイエガー達の姿はどこにもなかった。

「アレクセイとイエガーを追え!」
「はいっ!」

怒気を滲ませたフレンの指示に従い、ウィチルは部隊を率いて踵を返した。
それを見送ったカロルも続こうと、自分の前に立つユーリに声をかける。

「ユーリ、ボクらも!・・・ユーリ・・・?」

しかし、カロルにユーリは応じず、厳しい視線をフレンに向けたまま動かない。
そんなユーリにフレン隊の副官であるソディアが剣を抜き、ユーリに切っ先を向ける。

「ユーリ・ローウェル、おとなしくしてもらおう」

だが、それをフレンから視線で制されると、渋々ながら剣を収めた。
ユーリの様子を見たは小さく嘆息すると、先ほどの情報について話し出す。

「確かバクティオン神殿はヒピオニア・・・デズエールの東の大陸よね。
エゴソーの森がある」

腕を組んだジュディスが同意するように頷くと、それに非難するようにカロルが声を上げる。

「イエガーの言葉を信じるの!?」
「アレクセイも向かったのならきっとエステルも一緒にいる可能性が高い。
情報を教えた意図は分からないけど、有力な手がかりがない以上、今は行くしかないわ」

淡々と返すに反論出来ず、カロルは別の問題を口にした。

「でも、レイヴンは・・・」
「エステル渡して、どっかに逃げちゃったんでしょ!」
「そんな・・・レイヴンがそんなことするはずない・・・!」
「現にエステルは攫われちゃって、あのおっさんはいない!
そう考えるのが・・・理論的でしょ!」

カロルとリタが口論となる中、仲裁するようにジュディスが間に入る。

「彼も捕まったのかもしれないけどね」

三人の様子には神妙な顔をしたまま沈黙している。
辺りに沈黙が下りる中、耐えかねたようにリタがそれを破った。

「っ!とにかく!行くーー?」

しかし、歩き出そうとしたリタの前をが遮った。
訝し気な表情を浮かべたリタだったが、の視線を追ったことで口を噤んだ。
視線の先には、先ほどと変わらずフレンと睨み合うユーリがいた。

「・・・フレン、ちょっと顔貸せ」
「分かった。向こうで聞こう」
「なら私は一足先に神殿に向かうわ」
、お前・・・」
「斥候よ、深追いはしない。
ほら、フレンとケリつけてきなさいよ」
「・・・分かったよ」

見送るしか出来ないの背を見たユーリは深く溜め息を吐くと、フレンの待つ廃墟の街中へと足を向けた。





























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2008.7.22