ーーNo.137 災厄を招く者ーー































































「世界の災い、星喰ほしはみかぁ」
「さっきの伝承からだと前に星喰ほしはみが起きたのは満月の子の力が原因とは言い切れないもんだった」
「けどよ、『世の祈りを受け満月の子らは命燃え果つ』ってのは・・・」
星喰ほしはみの原因の満月の子の命を絶ったことで危機を回避した、とも取れるわ」

空き家に入るとすぐに先ほど聞いた伝承の話が話題となった。
カロルの言葉を皮切りにユーリ、レイヴン、ジュディスが会話を交わす。
しかし、至った結論に一同は口を閉ざした。
時間が過ぎるほど重くなる空気に、カロルが慌てたように言葉を絞り出す。

「で、でもさ、ボク達が確実に原因になってるヘルメス式魔導器ブラスティアを止めれば良いんだよね・・・?」
「そうとは言い切れなくなった。さっきの伝承からだとヘルメス式だけじゃなく全ての魔導器ブラスティアがエアルを乱してる感じだったしな・・・」

カロルの言葉をユーリはやんわりと否定した。
それに反論できないカロルは再び俯いてしまう。
そんな中、腕を組んで考え込んでいたリタが沈黙を破った。

「長老、魔導器ブラスティアに普通も特殊もないって言ってた。
つまり違うのは術式によって扱うエアルの量の大小のみって事だと思う」
「オレ達が使ってるこいつもか?」

ユーリは左手首になる自身の武醒魔導器ブラスティアを見て呟くとリタは頷いた。

武醒魔導器ボーディブラスティアは特殊だけど、術式によってエアルを用いる以上、どの魔導器ブラスティアも同じよ。
・・・それに術技はどのみちエアルを必要とするもの。
多分、ヘルメス式も満月の子も本質的には危険の一部でしかない。
魔導器ブラスティアの数が増え続ければ遅かれ早かれ、星喰ほしはみが起こる。
始祖の隷長エンテレケイアはそれを恐れてるんだわ」
「やっぱそうか・・・」

導かれた結論にユーリは悔し気に拳を握った。
ベッドの上ではユーリと同じように顔を歪めたリタが唇を噛んだ。

「認めたくなかった・・・!悪いのは魔導器ブラスティアじゃない、悪いことに使ってるヤツが悪いんだって。
そう信じてた・・・でも・・・違った」
「じゃあ全部の魔導器ブラスティアを止めなきゃダメなの?
このミョルゾの人達みたいに?」

うな垂れるリタを見たカロルはショックを受けたように呟く。
それに反論するようにレイヴンが言葉を返す。

「そりゃ無理な話でしょう。
魔導器ブラスティアはもう俺達の生活にはなくてはならないものだぜ。
結界魔導器シルトブラスティア水道魔導器アクエブラスティアとか・・・もちろん武醒魔導器ボーディブラスティアも、な」
魔導器ブラスティアを使ってもエアルが消費しなければ良いのだけど・・・夢物語なのかしらね」

頬に手を当てて物憂げに呟いたジュディスの言葉に、リタははっとしたように顔を上げた。

「リゾマータの公式・・・」

聞いたことがない言葉にユーリは聞き返した。

「なんだそれ?」
「あらゆるものはエアルの昇華、還元、構築、分解によって成り立ってるんだけど、
そのエアルの仕組み自体に自由に干渉する事が可能になるはずの未知の理論が予想されてるの。
それを確立するために世界中の魔導士が追い求めている現代魔導学の最終到達点よ」
「それがリゾマータの公式?」

会話に加わったカロルに頷くと、リタは考えをまとめながら話すように空で指を振った。

「確立されれば、エアルの制御は今よりずっと容易になるはず。
もちろんエアルから変換された力をまたエアルとして再構築するような未知の術式が必要だけど・・・
でも現にエステルの力はエアルに直接干渉してる。
リゾマータの公式に一番近い存在なのはエステルなのよ!
公式でエアルの力に干渉して相殺すれば或は・・・」

そう言って、聞き慣れない単語を次々と呟き出したリタに話をまとめたユーリが表情を幾分明るくした。

「なんだかよく分かんねえが、その公式ってのに辿り着ければエステルは安心して生きてけるってことだよな?」
「増えすぎたエアルも制御できれば星喰ほしはみを招くことも無くなる理屈ね」
「すごいよ!」

ジュディスとカロルも嬉しそうに応じた。
そんな四人の話を床に胡座をかいていたレイヴンが現実に引き戻す。

「で、その世界中の学者共が見つけられない公式ってのを探すっての?
それこそ夢物語でしょ」

呆れたように両手を挙げたレイヴンに決意を固めたリタが力強く言い返した。

「絶対辿り着いてみせるわ。エステルのためにも、あたしのためにも!」
「そうかい・・・」

すくっと立ち上がったレイヴンはそのまま入口へと歩き出した。

「あれ?どこ行くの?レイヴン?」
「散歩よ。
世界中を救うとか、魔導学の最終到達点とか話が壮大過ぎて、おっさん、ちっとついてけないわ」

カロルに肩を竦めて答えたレイヴンは扉を開けると外へと出て行った。

「私も外の空気吸って来る・・・」

間を置かず、 もならうように外へ向かった。
扉が閉まるとその背中を見送っていたジュディスが呟いた。

「どうしたのかしら?
伝承の話を聞いてから口数が少ないわね・・・」
「ああ、なんか長老の家を出る時も表情硬かったしな。
ったく、何抱え込んでやがんだか・・・」
「えっ?誰のこと?」

首を傾げたカロルに答えず、ユーリはもどかしい気持ちを吐き出すように嘆息した。




























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2008.7.21