「まさか飛んでる街とはねぇ」
「それ以前に、あのばかでかいのなに!?生物みたいだけど・・・」
レイヴンの感心している隣でリタが目の前にふわふわと漂うものを指してジュディスがリタに説明する。
もう一台の兵装魔導器も騎士団の妨害を受けたが、無事止める事ができた。
その後、ユーリ達はアスピオで教えられた手がかりに貰った鐘を小高い丘の上で鳴らした。
すると大空に現れたのが、今、目の前に漂っている巨大な半透明のクラゲを模した始祖の隷長な
のであった。
「へぇ〜、始祖の隷長にもいろいろなのね。
でも、街を丸ごと飲み込んでるなんて驚きだわ」
「はい、こんな街があるなんて、まったく知りませんでした」
とエステルの言葉にジュディスは手を組んだまま肩越しに答えた。
「気が遠くなるほど長い間、外界との接触を絶ってきた街だからね・・・
このままバウルで近付けば中に入れてくれるわ」
襲われることはならないから心配しないで、と不安気なカロルにジュディスは微笑むとミョルゾへ向かってバウルは泳ぎ出した。
ーーNo.135 クリティア族の街ミョルゾーー
ミョルゾに到着したユーリ達は、ジュディスの案内で街の中を歩いていた。
すると、街の片隅に山になっている魔導器に気付いたリタが走り寄った。
「あたしの知らない魔導器がたくさんある・・・」
「魔導器を作った民・・・どうやら本当ってことか」
「私も半信半疑だったけど・・・こんな実物を見せつけられれば、その話も信じられるわ」
ユーリに
も応じると、目の前の瓦礫と言っても過言ではないほど古い魔導器を見つめて
いた。
どれもこれも目新しい魔導器にレイヴンは楽観的に呟く。
「お嬢ちゃんの力を何とかする方法、ここで案外さらっと見つかったりして」
「そう・・・だったら、いいんですが・・・」
それにエステルは歯切れ悪く答える。
魔導器をほぼ調べ終えたリタは立ち上がると訝し気な表情のまま、腕を腕を組んだ。
「魔核がない。筐体だけ・・・ここにある全部そ
うね」
「この街は魔導器を捨てたの。ここにあるのはみんな大昔のガラクタよ」
ジュディスの言っている意味が分からないカロルは首を傾げた。
「どういうこと?」
「それがワシらの選んだ生き方だからじゃよ」
カロルの問いかけに、ユーリ達の背後から答えが返ってきた。
皆が振り返ると。柔らかい表情のクリティア族の老人が歩いてくる所だった。
「お久しぶりね、長老様」
「外が騒がしいと思えば、おぬしだったのか。
戻ったんじゃの」
「この子達は私と一緒に旅をしている人達」
ジュディスに紹介された面々をぐるりと見た長老は、細い目を更に細めて近くにいたユーリの左腕を覗き込んだ。
「ふむ。これは・・・魔導器ですな。
もしや使ってなさる?」
「ああ。武醒魔導器を使ってる」
「ふーむ。ワシらと同様、地上の者ももう魔導器は使うのをやめたのかと思うていたのだ
が・・・」
顎髭をなでながら言った長老にエステルが訊ねる。
「ここの魔導器も特別な術式だから使っていないんです?」
「魔導器に特別も何もないじゃろ。
そもそも魔導器とは聖核を砕き、その
欠片に術式を砕き、その欠片に術式を施して魔核として、エアルを取り込むことによりーー」
「ちょっ!魔核が聖核を砕いたものって!?」
リタが驚いて続きを制した。
それに目を瞬かせた長老は再びゆっくりと話し出す。
「左様、そう言われておる。
聖核の力はそのままでは強過ぎたそうな。
それでなくても、いかなる宝石よりも貴重な石じゃ。
だから砕き術式を刻む事で力を抑え、同時に数を増やしたんじゃな。
魔核とはそうして作られたものとして伝えられておる」
初めて聞いた事実にユーリ達は誰もが口を閉ざした。
暫くして、それを
が破った。
「皮肉な話よね・・・」
「うん・・・魔導器を嫌う始祖の隷長の
生み出す聖核が、魔導器を造り出すの
に必要だなんて・・・」
「フェロ―が聖核の話をしなかったのは触れたくなかったから、かもねぇ」
カロルに続いてレイヴンも気重に呟いた。
行きが詰まる雰囲気を払うようにジュディスが話題を変えた。
「長老様、もっと色々聞かせてもらいたいの」
その言葉に疑問符を浮かべた長老にユーリが事情を説明した。
「オレ達は魔導器が大昔にどんな役割を演じたか調べてるんだ。
もしそれが災いを呼んだのなら、どうやってそれを収めたのかもミョルゾには伝承が残ってるんだろ?
それを教えてくれないか」
ユーリの言葉をしばし考えていた長老は一つ頷いた。
「ふむ、いいじゃろ。
ここよりワシの家にうってつけのものがある。勝手に入って待ってなされ」
「って、おいおい。どこ行くのよ」
待っていろと言った矢先に長老はユーリ達の前から歩き去ろうとしたため、慌てたレイヴンが引き留める。
「日課の散歩の途中なのでな。もう少ししたら戻るわい」
マイペースを崩さず、そう言い残した長老はユーリ達から見えなくなった。
その後ろ姿を無言のまま見送ったエステルの横でユーリやリタが話し込む。
「聖核、魔導器、エアルの乱れ、始
祖の隷長・・・
色々繋がってきやがった」
「伝承ってのを聞いたらもっと色々繋がってくるかも」
互いに視線を交わし合い、ユーリ達は長老の家へと歩き出した。
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2008.7.15