ユーリ達と一旦別れた
達はリタの家で帰りを待った。
しばらくしてユーリ達はミョルゾへ行くための手がかりを持って帰ってきた。
その手がかりはエゴソーの森というところに行き、そこにいる謎の集団を何とかするというものだった。
交換条件付だったが、その集団を何とかすればミョルゾへの道は開ける、と一行は短い休息を取るとすぐに出発した。
ーーNo.134 標の森ーー
「ここがエゴソーの森、クリティア族の聖地よ」
先頭を歩いていたジュディスが振り返ると、皆にそう言った。
そこはノードポリカの南東、ヒピオニア大陸に広がる静かな森だった。
近くに川があるらしく、水の流れる涼やかな音が聞こえていた。
「へえ、思ってたよりのどかで気持ちのいいとこじゃない」
「わ、意外。暗くてじめじめした研究室が好きなんだとばっかり・・・」
カロルの言葉にリタの一瞥が向けられると、カロルは瞬時に口を閉じ、両手で頭をガードした。
「・・・何もない時に、来てみたかったです」
小鳥のさえずりが響く穏やかな森を目の前にエステルが呟く。
「じゃ、来ればいいじゃない。ぱぱっと用事を済ませましょ」
「
・・・」
「んだな。来るんならこう、美味い酒と肴を持ってだな」
「おっさんが言うとただの酒盛りね」
「酷っ!」
沈んだ空気から
とレイヴンのやりとりでエステルの表情も和らぐ。
それを見たユーリは、険しい視線を遠くへ投じた。
「・・・あれだな、謎の集団が持ち込んだ魔導器ってのは」
「ちょっと、兵装魔導器じゃない・・・」
小高い丘の上に見える黒い塊の魔導器を見た
が眉根を寄せた。
平和そのもののこの森に、不釣り合いなほど物々しい魔導器が不気味に陽光を反していた。
「その、謎の集団って何なんです?」
「それはくわしく聞けなかったけど・・・とにかく、ミョルゾへの行き方教える代わりにそいつら何とかしろって」
首を傾げたエステルにカロルが答えると、今度はレイヴンが顎に手を当てて呟いた。
「何とかするってのはあれぶっ壊しゃいいってこと?」
「その必要のないよう、あたしがちゃんと処理するわよ」
両手を腰に当てたリタがそう応じると、一行は森の奥へと足を踏み入れた。
だが森に入ってすぐ、ユーリ達は足を止めることとなった。
「止まれ!ここは現在、帝国騎士団が作戦行動中である」
「その格好・・・騎士団長直属のエリート部隊である親衛隊が、兵装魔導器まで持ち込んで何を企んでるのかしら?」
「答える必要はない。
それに法令により民間人の行動は制限されている」
の問いかけを切り捨て、親衛隊は友好とはほど遠い雰囲気をユーリ達に突き刺してくる。
その対応ぶりに
の機嫌は急降下したが、貼り付けていた笑みは変わらず、ただ纏う空気が変わった。
「ふーん、それはいいとしてもその刃、どうしてオレ達に向いてるんだ?」
「かかれ!」
ユーリの問いかけにも答えが返らず、親衛隊は有無を言わさず襲ってきた。
「上等・・・」
ボソッと一言呟いた
がいち早く抜刀すると駆け出す。
追うようにユーリ達も武器を構えた。
親衛隊を退けた後、ユーリ達は謎の集団とは親衛隊のことだったのかと納得した。
しかし、それがなぜ襲ってきたのか、と理由が分からないためにその場に足を止めることとなった。
あーでもない、こーでもないと議論を交わしている中、エステルが突如叫んだ。
「危ない!」
その声に皆の視線はエステルに向けられたが、次に目を奪ったのは魔導器から発射されたらしい光の弾だった。
咄嗟の事に身動きが取れない中、エステルが皆の前に飛び出した。
エステルに直撃する・・・瞬間、辺りに閃光が走ると目の前に迫っていた光の弾は跡形もなく消えていた。
代わりに、エステルは力が抜けたようにその場に膝を付いた。
「エステル!」
その様子に慌てたリタが駆け寄る。
目の前で起きた事が信じられず、放心から回復したカロルが呟いた。
「・・・今、何したの?」
「ヘリオードでやったのと同じ・・・!
エステルの力がエアルを制御して分解したのよ!あんた、またそんな無理して・・・」
「ご、ごめんなさい。
みんなが危ないと思ったら、力が勝手に・・・」
リタに答えたエステルの言葉に、
はまさか、と厳しい表情に変わった。
「もしかしたら、無意識に感情と反応するようになり始めてるのかも・・・
もしそうだとしたら、これからは思っただけで力を使ってしまうことになるわね」
「・・・そんな・・・わたし、どうしたら・・・」
青くなるエステルにユーリは呆れ返った。
「おいおい、お前はオレ達を助けてくれたんだぜ?
そんな顔するなって。
言ったろ、エステルの事も、世界のヤバさもオレ達でケジメつけるって。
今やってる事は全部、そのためだ。細かいことは気にすんな」
「でも、こんなの何度もやってたらフェロ―怒るんじゃないの?
魔導器だろうとフェロ―だろうと、丸焼きにされんのは勘弁よ」
顔をしかめたレイヴンに
もユーリと同じように気軽に返す。
「ま、ひとまずは元凶のあれを何とかしないと、話が進まないってことかしら」
「そういうことね」
にジュディスも応じると、一行はまず兵装魔導器を止めるため丘を目指した。
兵装魔導器の前にはまた親衛隊が待ち構えていたが、今度は不意を突かれる事なく短時間で退けられた。
邪魔がなくなったことでリタは魔導器の術式を展開し、これからも使われる事のないように細工を始めた。
リタ以外は手持ち無沙汰に時間を過ごす中、
の視界からユーリが走り出した事で
の注意がそっちに向いた。
「ユーリ?どうーーっ!」
言葉の続きは息を呑んだことによって言えなかった。
が目にしたのは、今リタが止めているはずのあの兵装魔導器の攻撃の弾だった。
(「くっ、間に合って!!」)
眼前に迫った光の弾に、ユーリの行動を予測した
は瞬時に防御壁を発動させる。
しかし、使い慣れない発動に片膝を付いた。
「
?どうしたの!?」
がいきなり座り込んだことで、さすがのジュディスも焦りを見せた。
その様子に荒い息を押さえ込んだ
が声を絞り出す。
「何でも・・・ない」
「そんな訳ーー」
「大丈夫だから。それよりユーリは・・・」
詰め寄るジュディスを遮り、
の視線はユーリを探す。
すると、レイヴンとカロルに助けられたユーリがレイヴンの肩を借りて姿を現した。
「ちっ、油断したぜ。もう一台あったとはな」
「まさか・・・ユーリ、わたしに力を使わせないために・・・!?」
ユーリの行動にエステルの顔から血の気が失せる。
そんなエステルを気遣うように、
は軽口で返す。
「ったく、無茶しすぎよ」
「・・・本当、あなた死ぬ気?」
ふらつく
に腕を取って支えたジュディスは、追及を諦め
に倣ってユーリの行動を咎める。
「これくらいの傷、日常茶飯事だっての。
思ったほどたいしたケガもしてねえしな・・・
、どうかしたのか?」
ジュディスに支えられて立っている
にユーリから訝し気な視線が向けられる。
それに何でもないという風に
は手を振ると、支えられていたジュディスの腕を解き、まだ魔導器を細工しているリタの側へと歩いていった。
納得のいかない視線を送っていたユーリだったが、エステルが近付いてきたことで視線をそちらへ移した。
「ごめんなさい・・・わたしのせいで・・・」
「お互いかばいあったんだ、おあいこだろ?」
「でも・・・」
尚も食い下がるエステルに、離れていた
から声がかかる。
「エステルー、こういう時はごめんじゃないって前にも言ったでしょ?」
「え?・・・あ・・・
ありがとうございます」
「それより・・・っと、あっちの魔導器もなんとかしようぜ」
ユーリが親指で指した方向にはもう一台の兵装魔導器があった。
「じゃあ、リタが終わったら向こうの魔導器に行きましょ」
「うん。このまま放って置けないもんね」
ジュディスの言葉にカロルは元気よく頷いた。
その様子を頭に両手を当てて眺めていたレイヴンは感心したように呟いた。
「いや〜、命を賭けるものがある若人は輝いてるわね〜」
「一度死にかけた身としては、死ぬ気でってのはシャレにならねえか」
苦笑を浮かべて聞き返したユーリにレイヴンは首を捻った。
「ん?死にかけたって?」
「人魔戦争の時、死にかけたって言ったろ?」
「ああ、その話したっけか。
まぁ・・・死ぬ気で頑張るのは、生きてるヤツの特権だわな。
・・・・・・死人にゃ、信念も覚悟も・・・」
レイヴンの後半の呟きを聞き取れなかったユーリは首を傾げた。
「おっさん?」
「あーいやいや、おっさん、ちょっと昔を思い出しておセンチになっちゃった。
ささ、いこいこ」
「?」
ちょうどリタが終わったのを見て、レイヴンはそそくさと丘を下り始めた。
そんなレイヴンの後ろ姿に
は一瞥を送ると、誰にも気付かれないように嘆息した。
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2008.7.14