ーーNo.133 けじめーー
フェロ―の岩場を後にしたユーリ達は、エアルの暴走を抑える方法を探すため、ジュディスの手がかりを元にアスピオへとやってきた。
どうやらそこにクリティア族の故郷、そして魔導器発祥の地であるミョルゾへの案内人がいるらしい。
しばらく続いた空の旅から解放され、固い地面に足が着いた感覚を堪能するようにリタはめいいっぱい身体を伸ばした。
「さすがに疲れたわね。
とりあえず人探しは明日にしましょ」
「賛成〜。久しぶりにまともなベッドで寝られるわ〜」
「じゃあ、あたしの家にーー」
「待って。先に話しておきたいことがあるんだ」
リタを遮ったカロルは一行の前へ出ると、皆を見回しジュディスで視線を止めた。
「・・・私のことね」
ジュディスが呟くとカロルは頷いた。
これから行われる話し合いに、掟に背くとどうなるのかをダングレストで目の当たりにしたエステルは不安に表情を曇らせる。
「カロル・・・」
「ギルドの話し合いよ。横槍は無しにしようや」
「そうね。これは凛々の明星の問題だわ」
そう言った
も、事の成り行きに視線を戻した。
カロルは短く息を吐くと、話し出す。
「ボク、ずっと考えてた。
ギルドとしてどうすべきなんだろうって。
で、思ったんだ。やっぱりギルドとしてやっていくためにも決めなきゃいけないって」
「どうするか決めたんだな?」
ユーリの言葉にカロルは頷き、再びジュディスを見つめた。
「言ったよね。ギルドは掟を守る事が一番大事。
掟を破ると厳しい処罰を受ける。
例えそれが友達でも、兄弟でも・・・それがギルドの誇りなんだって」
「ええ」
「だから・・・みんなで罰を受けよう」
放たれた言葉が理解できず、カロル以外の皆が固まった。
ようやくそれから回復したジュディスが困惑したようにカロルを見返した。
「え?」
「ボク、ジュディスが一人で世界のためにがんばってるの知らなかった。
知らなかったからって仲間を手伝ってあげなかったのは事実でしょ。
だからボクも罰を受けなきゃ」
言い終えたカロルはジュディスから隣に立つユーリに視線を移す。
「ユーリ」
「オレ?」
まさか自分が呼ばれるとは思っても見なかったユーリは驚きを隠せない。
そんなユーリに構わずカロルは話し出す。
「ユーリも自分の道だからって秘密にしてることがあった。
それって仲間のためにならないでしょ」
「ま、まあな・・・」
カロルのいい分に戸惑いながらもユーリは納得した。
二人を見回したカロルは腰に片手を当てて指を立てた。
「だから、罰受けないとね」
「なんか、もんのすごいこじつけ〜」
カロルの話にリタは腕を組んで呆れ返った。
「・・・掟は大事だよ。
でも正しいことをしてるのに掟に反してるからって罰を与えるべきなのか・・・
ホント言うとまだ分かんない。
・・・なら、みんなで罰を受けて全部やり直そうって思ったんだ。
これじゃ、ダメ?」
戸惑いが残るカロルの言葉を聞いたユーリは口を開いた。
「オレ、また秘密で何かするかもしれないぜ?」
「信頼してもらえなくてそうなっちゃうんならしょうがないよ。
それはボクが悪いんだ」
「またギルドの必要としてる魔導器を破壊するかもしれないわよ?
ギルドのために、という掟に反するわ」
「でもそれは世界のためでしょ。
それに掟を守るためにギルドがあるワケじゃないもん。
許容範囲じゃないかな」
ユーリとジュディスにそれぞれ答えたカロルに、呆れ返っていたリタは
を見やる。
「それって掟の意味、あるの?」
「んー、意味があるかどうかは置いといて、その人が起こした結果の背景までを勘案するっていうのは良い考えだと思うわよ」
「否定はしないのね」
「ははは・・・・まぁね」
それまで黙ってカロルの話を聞いていたレイヴンは、予想外の事に堪えきれず笑い出した。
「はっはっは。そんなギルド聞いたことないわ。
面白いじゃないの」
「ふふふ」
平和的な決着となったことにエステルも笑いが零れる。
「カロル。お前すごいな。
オレは自分がどうするかってのは考えてたが、仲間としてどうしていくかって考えられてなかったかもしれない。
オレには思いもつかないケジメの付け方だ」
「ボ、ボクはただみんなと旅を続けたいだけなんだ。
みんなの道と凛々の明星の道を同じにしたいだけなんだよ」
ユーリから褒められたカロルは照れくささを隠すように頭を掻いた。
「そっか・・・そうだな。
ジュディ、そういうことらしいぜ」
「おかしな人達ね、あなた達ホントに・・・でも・・・そういうの、嫌いじゃないわ」
「じゃあ改めて、凛々の明星、出発だね!」
元気よくカロルが宣言すると、ユーリとジュディス三人で手を打ち合い、小気味のいい音がアスピオの入口に響き渡る。
「なーんかご都合。
ギルドってそんなもん?」
「ま、ドンのギルドとはひと味違うねぇ」
「そうね。でも、新しいギルドだもの。
他と違ってて良いじゃない」
「なんだか素敵です」
両頬に手を当てたエステルが嬉しそうにカロル達を見つめて呟いた。
「で、罰はどうなるのよ?」
思い出したように言ったレイヴンにカロルは忘れてたとばかりに腕を組んだ。
「あ!そっか。えっと・・・」
「休まずに人探しってとこかな。
あたしたちはウチで待ってる」
カロルの代わりにそう決めたリタに、話の主導権を取られたカロルは口を尖らせる。
「ちょっと!勝手に決めないでーー」
「何よ、文句ある?」
しかし、満面の笑みを浮かべてずいっと詰め寄られたリタに、カロルは反論できない。
こうして、凛々の明星は人探しをするため
達と一旦別れる事となった。
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2008.7.11