ドンの葬儀の翌日、宿を出たユーリとエステル、ラピードはリタが待つ街の出口へと歩いていた。
そこに凛々の明星ブレイブヴェスペリア首領ボスである小さな姿はない。

「・・・カロル・・・大丈夫でしょうか・・・」

いつもより静かな時間の流れに違和感を覚えたエステルが呟く。
ドンの死を目の当たりにしたカロルは、他人の目から見ても相当ショックを受けていたように見えた。
それこそ、立ち直る事ができるのか、と不安を抱く程に・・・
しかし昨夜カロルと唯一言葉を交わしたユーリは、そんなエステルに肩を竦めて返す。

「心配すんな」
「でも・・・」

言いかけたエステルの話を打ち切るように、ユーリは街の出口に向かって歩き出した。



































































ーーNo.128 継がれた意志ーー































































街の出口には橋の欄干に身体を預けていたリタがユーリ達を出迎えた。
リタもエステルと同様に見えない姿を訊ねる。

「カロルは?」
「余計な心配するなって。
それより二人共これからどうするつもりなんだ」

話題を変えたユーリにリタは半眼を向けたが、諦めたように話に乗った。

「あたしはもちろん一緒に行くわよ。
言ったでしょ?エアルクレーネの調査はあんた達とするって決めたの」
「そうだったな」
「わたしもユーリと行きたいです。
ジュディスが魔狩りの剣に狙われているかもしれないのに、放っておけない・・・」

エステルの答えにリタは盛大に眉をひそめた。

「あの女を助ける義理なんてないでしょうに」
「・・・ジュディスは一緒に旅してきた、仲間です」
「でも、船の駆動魔導器セロスブラスティアを壊した」
「でも・・・」

リタの切り返しにエステルはなおも続けようとしたが、ユーリが割って入る。

「オレが行くのは助ける為じゃないぜ。
ケジメをつけるためって言ったろ。
ジュディが一体、何を知って何を知らないのか・・・全部話してもらう。
ギルドとしてケジメをつけるために」
「ま、結果助けることになるかもだけど」

半ば呆れたリタの様子にエステルは微笑を浮かべる。

「二人共、ジュディスが心配なんですね」
「な、何言ってんの!あくまでついでよ!
それよりギルドのケジメっても肝心の首領ボス、ホントに来るの?」

顔を僅かに染めたリタがエステルから力強く視線を反らしてユーリに訊ねる。

「アイツはこんなところで終わりゃしない。必ず来る。
さ、行こうぜ」

先に歩き出そうとするユーリに、再びエステルが口を開く。

「レイヴンと はどうするんです?」
「さすがに来ないでしょ。
ドンを失ったこの街をほっとけないだろうし」
「だろうな。おっさんと にはそれぞれのやることがある」

リタとユーリの言葉にエステルは声を落とした。

「・・・寂しくなりますね」



































































船に乗船を済ませたユーリ達は、もう出航を待つだけという状態になっていた。
未だにカロルの姿が見えないことに、エステルは不安な面持ちを隠せない。
エステルほどではないが、リタもいつもよりそわそわと落ち着きがない。
一方でユーリは船室の壁に背を預け、腕を組んだまま両目を伏せていた。
そして、フィエルティア号は徐々に駆動音を上げると、桟橋からゆっくりと離れ始めた。
その時ーー

「待って〜!!」

桟橋を全速力で駆け出し大声を上げたそれは、勢い良く踏み切りを切ると少しの滞空時間を経て小さな体がフィエルティア号に飛び乗ってきた。
間に合ったカロルにエステルは嬉しそうに声を上げる。

「カロル!」
「・・・待って!はあ、はあ・・・
はあ・・・はあ・・・ボクも一緒に行く・・・」

肩で息を吐くカロルは、そのままユーリの前に進んだ。

「ドンの伝えたかったこと、ちゃんと分かってないかもしれないけど・・・
凛々の明星ブレイブヴェスペリアはボクの、ボク達のギルドだから・・・ボクも一緒に行きたいんだ!」

一気に言い切ったカロルは、一旦言葉を切ると再びユーリの瞳を仰ぎ見た。
不安が残っていた瞳だが向けられた視線は、カロルを表すようにとても真っ直ぐだった。

「ここで逃げたら・・・仲間を放っておいたら、もう戻れない気がする。
・・・だから!ボクも行く!一緒に連れてって!」

詰め寄るように言ったカロルにユーリはさも当然そうに肩を竦める。

「カロル先生が首領ボスなんだ。一緒に行くのは当たり前だろ」
「ユーリ・・・ありがとう!
でも、もう首領ボスって言わないで」
「ん?」
「ボクは・・・まだ首領ボスって言われるようなこと何もしてない・・・
ユーリにちゃんと首領ボスって認めてもらえるまで、首領ボスって呼ばれて恥ずかしくなくなるまで、
ボクは首領ボスじゃなくて同じ凛々の明星ブレイブヴェスペリアの一員としてがんばる!」
「・・・分かった。カロル、頑張れよ」
「うん!」

ユーリの言葉にカロルはにこやかに元気良く返事を返した。

「ほんっとギルドって面倒。アツ過ぎ。バカっぽい」

心配して損した、とばかりに腕組みをしたままリタが唸る。
そんなリタの背後から、声が上がる。

「んむんむ。青春よのぅ」
「うわっ!お、おっさん!?」
「ほ〜んと、若いって素晴らしいわよねぇ〜」
っ!?」

リタとエステルの驚いた先にいつの間に乗船していたのか、レイヴンと が並んでいた。
普通に馴染んでいる二人にユーリから胡乱気な視線が向けられる。

「一応聞いてやるが、 におっさん、何してんだよ」

ユーリの言葉にキョトンとした は隣を見やる。

「ほら、レイヴン。
何してるんだってユーリに聞かれてるわよ」
「何よ、おっさん達がここにいちゃダメなの?」
「だって、ドンが亡くなった後で大変で・・・」
「まぁ、それはそうなんだけど・・・私の方は全て済ませてきたから問題ないわ」

『私の方はね』と強調した にユーリはレイヴンを見る。

「なら、おっさんは?」
「んー、色々と面倒だから逃げてきちゃったv」
「ドンに世話になったんでしょ!悲しくないの!?」

カロルの指摘にレイヴンは芝居がかったように目元を隠した。

「ああ・・・悲しくて悲しくて、喉が渇くくらいに泣いてもう一滴も涙は出なーい」
「全然そんな風に見えないけど」
「あらそう?」

ひょうきんなレイヴンにリタは呆れた視線を返す。
船上にいつものメンバーが揃い、エステルは意気込みを新たにした。

「じゃ、デズエール大陸に出発ですね」
「え?なんでデズエールなの?」
「前にそれらしいこと が言ってたろ」

カロルの疑問に答えたユーリは を見やる。
そんなユーリに は感心した。

「よく覚えてたわね。
察しの通りコゴール砂漠の北にテムザ山があるわ。
確かジュディスはそこの街の出だって言ってたわね」

早く行きましょ、という に一同は頷きフィエルティア号は海原へと走り出した。


























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2008.7.4