ああ、まただ
またいなくなってしまう
守りたかった友人、優しさを教えてくれた彼女、信じる事を教えてくれた太陽、大切な人が次々と・・・
分かってはいる、これは避ける事などできず、どうしようもないことだと
でも心では納得などできていなかった
私が代わりになれるなら、代わりたい
けど、あの人は決してそんなことは許さないだろう
掟を貫くため、自分のギルドを、この街を守る為なら喜んで自分の命を差し出す人だから・・・
でも・・・それでもーー
ーーNo.126 堕ちた太陽 後ーー
ユニオンを出たドンは広場へと進み皆の注目を集める中、背を伸ばし端座していた。
ドンを囲むように人が溢れ、口々にその名を叫ぶ。
はその姿を食い入るように見つめていた。
と、名前を呼ばれたような気がした
が振り返ると、途中で別れたユーリ達が固い表情のまま立ち竦んでいた。
きっと事情はレイヴンが教えたのだろう。
何しろ、エステルは何とかしようと思い詰めたような顔だし、リタは騒ぎに背を向けていた。
ああ、辛い思いをさせてしまった、と
は申し訳ない気持ちが込み上げる。
そんな中ユーリと視線が交わると、眉根を僅かに寄せたユーリがこちらに向かって歩いてきた。
しかし、今話しかけられても答えられる気分ではなかった
は、再びドンへと向く。
少しして、自分の背後で足を止めた気配を感じた。
きっとユーリだろうと思ったが、振り返る事はしなかった。
ユーリも話しかけることをしなかった為、その厚意に感謝しつつ
は今にも泣き出しそうな顔でドンと話しているカロルにそのまま目を向けていた。
「しっかりな、坊主。
首領なんだろ?」
「でも、ボクなんて一人じゃ何も出来ない・・・」
「だったら助けてもらえばいい。そのために仲間がいんだろ?」
「ドン・・・!」
俯いたカロルがドンを見上げると、力強いドンの言葉がカロルに響いた。
「仲間を守ってみな。
そうすりゃ応えてくれるさ」
「・・・・・・」
これ以上何も言えなくなったカロルは、俯いてしまったが小さく頷いてその場を離れた。
その時、人垣を掻き分けユニオンで姿を見なかったハリーが飛び出してきた。
「ドン!オレも一緒にーー」
「バカ野郎が!」
しかし、駆け寄ろうとした途中でレイヴンに殴り飛ばされる。
力なく踞ってしまったハリーを一瞥したレイヴンは、ドンに向いた。
「じいさん、あばよ」
「レイヴン、イエガーの始末頼んだぜ」
「ははっ。俺にゃ、荷が重すぎるって」
いつもの軽口で答えたレイヴンに、真剣なドンの視線が刺さる。
「おめぇにしか頼めねぇんだ」
「・・・ドン」
レイヴンの顔から表情が消える。
しばし視線を交わした後、レイヴンは俯いた。
その二人の間を割き、戦士の殿堂がドンの前へと立った。
「おたくの可愛い孫にゃ、ずいぶん世話になった」
「すまねぇことした。
あのバカ孫も歴としたユニオンの一員だ。
部下が犯した失態の責任は頭が取る、それがギルドの掟だ。
ベリウスの仇、俺の首で許してくれや」
ドンの言葉を聞いたエステルは悲し気に双眼を伏せた。
「ドン・・・」
「バカよ。ギルドなんて・・・どいつもこいつもバカばっか・・・」
肩を振るわせたリタが、吐き捨てるように呟いた。
辺りに悲しみが立ち込める中、広場の中心で短刀を抜いたドンは背筋を伸ばしたまま口を開く。
「すまんが誰か、介錯頼む」
その言葉に辺りは水を打ったように静かになった。
誰もが互いに視線を交わし合う中、口を開こうとしない。
ぐっと拳を握った
が一歩踏み出そうとした時、肩を引かれユーリが名乗りを上げた。
「・・・オレがやろう」
そんなユーリに瞠目した
だったが、口を開く前にユーリからの視線で制される。
ユーリは広場を横切るとドンの隣へ立った。
「おめぇも損な役回りだな」
「お互い様だ」
「はっ、違いねぇ。気ぃ使わしたな」
「俺が選んだだけだ」
「ふん。ユーリ、おめぇの将来を見てみたかったがな。
俺は先に地獄で休んでるとするぜ」
「あんたが行くのが地獄なら、オレはあんたの所にゃ行けそうにないわ」
「ふん。おめぇの減らず口、忘れねぇぞ」
「オレもあんたの覚悟、忘れないぜ。
ドン・ホワイトホース」
ユーリとドンとの会話を
は見つめていた。
ドンの生き様を、託す遺志を、決して見逃すまい逸らすまいと視線を注ぐ。
両拳をぐっと握りしめ、揺れる視界を押さえ込み、震える唇を噛み締めた。
ドンはいつも皆にかけていたドラ声を響かせた。
「てめぇら!これからはてめぇの足で歩け!
てめぇらの時代を拓くんだ!いいな!!」
それを最期に短刀はその身体を貫き、時間はスローモーションのように流れる。
ゆっくりと倒れる身体に、ついに
は瞼を閉じた。
頬を伝う滴は気のせいだと必死に言い聞かせながら。
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2008.6.25