お願いです、どうか隠さないでください
    あの太陽のおかげで私はまた信じようと思えました
    お願いです、どうか消さないでください
    あの太陽のおかげで私はどんな困難にも立ち向かえました
    お願いです、どうか奪わないでください
    あの太陽のおかげで私は救われたんです





































































    お願いです、誰かーー




































































ーーNo.125 堕ちた太陽 前ーー





























































ダングレストの結界魔導器シルトブラスティアの術式が迫ると、 はすぐ後ろにいたユーリを肩越しに見た。

「ごめん、先に行くわ」
「は?おい、 !」

ユーリの声に振り返ることなく、 は走るスピードを上げるとそのままユーリ達を引き離した。
訳が分からないと、眉根を寄せたユーリに、後ろからレイヴンの声がかかる。

「行かせてやってよ」
「おっさん、一体どういうことよ?」
「背徳の館に行く前からずっと様子がおかしかった事と、関係してんのか?」

不審な目を二方向から向けられたレイヴンは、唸ってから仕方なく口を開いた。

「ドンは・・・じいさんは死ぬつもりよ。
最初からその腹づもりだったからね」
「そんな!どうしてなんです!?」

はじかれるように叫んだエステルと同じ疑念が宿る瞳を一斉に向けられ、レイヴンは重い溜め息をついた。
いつものふざけた感じが成りを潜め、冗談で言っているわけではないのだと言外に物語っていた。

「ハリーが先走って、結果、ベリウスが死んだ。
ノードポリカの統領ドゥーチェの命だ、事情はどうあれ偽情報掴まされて間違えましたで済まされるわきゃない。
ベリウスの命に釣り合う代償が必要ってことだ」
「その代償ってのがじいさん自身の命か・・・腹切る覚悟を決めてたから、掟を破る事になってもイエガーを討ちに行ったんだな」

ユーリの言葉にレイヴンは頷いた。

「付け足せば、だ。
ドンは にとって育ての親みたいなもんだ。話す時間くらいは必要でしょ」

歩みが止まってしまったユーリ達に息苦しい程の沈黙が下りる。
それまで握った両手を見つめていたエステルが絞り出すようにレイヴンに言った。

「きっと・・・きっと、他に方法があるはずです!」
「だが、このままだとユニオンと戦士の殿堂パレストラーレの全面戦争になっちまう。
街を出る時にユニオンの連中を見たでしょ。
きっと戦士の殿堂パレストラーレもダングレストに乗り込んできてるだろうし、これ以上どっちも辛抱できない。
一触即発って状態で、他の方法を探してる時間はないだろうねぇ」

もう手の施しようがない状態にまで事態が悪化してしまったのだと、沈黙が雄弁に語っていた。

「・・・オレ達も急ごう」

ユーリはそれを破るとあとわずかの距離を急いだ。


































































ほぼ全速力で走っていた は、街に到着しても息も整えず足も止めなかった。
街中を漂う、ピリピリとした雰囲気が肌を刺す。
さらに焦燥感を募らせた は、街の北に向け疾走した。
ユニオンに到着すると、元首や首領が会合する扉に体当たりするようにして入る。
そこには の予想通り、ドンと取り囲むように天を射る矢アルトスクの幹部達がいた。
入口で肩で息を吐く に、何事かと視線が集まる。
しかし、それに構わず はドンが座っているだろうそこに視線を向けたまま、足を一歩一歩進めた。
に道を譲るように天を射る矢アルトスクの幹部達が身を引いていく。
いつもであれば楽し気に軽口を叩き合い、笑い、賑やかな部屋になっていたはずだった。
それが今では絡み付くような暗い影に、皆の顔も一様に沈んでいた。
足を進める度に肺が焼けるように痛む。
だが、それよりも胸の奥が締め付けられるように激しく痛かった。
ついにドンの目の前に立った は、いつもと変わらないドンの姿に無意識に身体の緊張を解いた。

(「何か、言わなくちゃ・・・」)

そう思うが、言葉が出てこない。
何かを伝えようとする度に口を開くが、言葉にできずまた閉口する。
そんな に代わってドンの方が言葉を紡いだ。

「すまねぇな、
おめぇの面倒を最後まで見る事ができなくなっちまった」
「ドン・・・」

聞き慣れたドラ声に謝罪の念がこもり、 は掠れた声でその名を呟く。
名を呼ばれたドンの顔は、 が今まで見た中で一番の穏やかな笑みだった。
視界がぼやける。
ああ、嫌だ見たくない。
このような顔をする人をたくさん見てきた。
しかも、決まって自分と親しい繋がりのあるそんな人達ばかり。
そして二度と会えることのない旅路に立つ時に見る顔だ。
・・・いや、きっとそういう関係でそういう別れ時だからこそ、そんな優しすぎる笑みに見えてしまうのだろう。
ドンのその姿に親しかった故人、優しい彼女を重ねた は、視界がさらに歪んだ。
口を引き結んでしまった に、ドンは再び口を開いた。

「大丈夫だ、おめぇは俺が手塩にかけて仕込んだんだからな。
おめぇの力は誇って良いもんだ」
「うん」
「残った仕事は、自分自身で答えを見つけろ。
俺が認めたからっておめぇまで認めなきゃなんねぇことはねぇからな。
無粋な噂なんかに惑わされんじゃねぇぞ」
「・・・うん」

返事を返す度に視界が揺れるが、懸命に耐える。
見送りは笑顔で、と決めていたのだ。
それ以上心配事を増やさないように、安心できるように・・・
は拳に力を込めると、俯いていた顔を上げた。
この目に焼き付けておこうと思ったのだ、ドンの優しいその顔を。

「大丈夫、任せておいてよ。
受け持った仕事は最後まで完遂する、『自由な風』の名前は汚さないんだから」
「・・・ったく、俺の強情さまで似なくても良かったんだがなぁ・・・
幸せにな、
「今まで・・・ありがとう」

は祈った。
懸命に作った笑顔が、笑顔に見えるように、と。

























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2008.6.22