手薄な警備を倒したユーリ達は、正面の入口から屋敷に潜入した。
すると、二階で睨み合うイエガーと抜き身の剣を構えたドンが対峙している光景が飛び込んできた。
いきなり緊迫した状況に放り込まれたユーリ達は、驚きを隠せずそれを見上げる。
自分達の首領ボスの窮地にレイヴンと は駆け出した。

「じいさん!」
「ドン!」

が、階段の前にゴーシュ、ドロワットが赤眼と共に先を塞ぐ。

「通さない」
「怪我したいの?とっとと引っ込みなさい」

は苛立ちを隠さず、目の前の障害に言葉を叩き付ける。

「おっさん、海凶リヴァイアサンの爪は手を出さないって言ってなかったか?」

互いに睨み合いとなる中、ユーリは前を見据えたままレイヴンに問う。
しかし、それに返答を返したのはドロワットだった。

「仕掛けたのはドンの方よん」
「!」
「なんだと?それじゃ、じいさん、やっぱり・・・」

推論が確論と宣告された とレイヴンは苦し気に表情を歪める。
すると、二階にいたドンは一階にいるユーリ達に気付きドラ声を上げた。

「何しにきやがった!バカ野郎が!若いのまで連れてきやがって!」
「エクセレントな演出、感謝感激、サンキューよ!」

ほくそ笑んだイエガーにドンは大剣を一閃させる。
それを軽やかに回避したイエガーはそのまま走り出し、ドンが後を追った。
状況が飲み込めない事にリタがイライラと眉根を上げる。

「一体、どういうことなのよ!」
「ちっ!邪魔なんだよ!」

襲ってきた赤眼を斬り伏せ、ユーリ達は進路を切り開くため武器を構えた。





























































ーーNo.124 代償ーー





























































赤眼を全て片付けたユーリ達だったが、そこに居たはずのゴーシュとドロワットは姿を消していた。
ドンの姿も見えない事に、レイヴンと は些か焦りを見せる。

「ドンは・・・!」
「イエガーを追って奥に!」
「追うぞ!」

エステルの言葉で真っ先に駆け出した を追って、他のメンバーも階段を駆け上がった。


































































ドンの声が最奥の部屋で聞こえてきたことで、閉ざされた扉を は蹴破った。
中では相変わらずイエガーとドンが対峙しており、突如乱入したユーリ達の前に再度、ゴーシュとドロワットが立ち塞がる。

「まさかユーがこんな強引なプランで来るとは・・・」
「てめぇに生きてられると世の中がややこしくてしょうがねぇんでな」
「ユー自らがユニオンの掟に反して私闘なんてすると、他の五大ギルドも黙ってナッスィン」
「覚悟の上よ。だが、夜が明けちまった。
てめぇの力量を測り損ねてたみたいだな、時間切れだ。
もうダングレストに戻らねぇとバカ共がケンカ始めちまう」

突きつけていた切っ先を下ろしたドンに、イエガーは取り澄ましたように鼻を鳴らす。

「ふ、ふん。今更ユーが戻っても衝突は避けられないでしょう」
「タダじゃぁな。払う代償は用意してある」

何の問題もないという風なドンの言葉に、レイヴンと の表情に苦みが走る。

「代償、か・・・」
「・・・・・・」

辺りに沈黙が下りる中、イエガーに視線を向けたユーリが口を開いた。

「こっちの落とし前がまだだぜ、イエガー」
「さすがに旗色悪いでーす。グッバイでーす!」

そう言い残すとユーリ達に片目を瞑ったイエガーは、背後の窓から飛び降りた。
それにゴーシュとドロワットも続き、すぐに窓に駆け寄ったが姿を見つける事はできなかった。

「ちっ、ホント逃げ足の速い」

悪態を吐いたユーリの脇を通り、ドンはレイヴンと に近付くと獰猛な視線を向ける。

「お前らはなんだ。
雁首揃えてこんなところまで来ちまいやがって。
来るんじゃねぇと言ったはずだがな」

ドンの低いドラ声に決まりの悪い顔をした だったが、レイヴンは相変わらず飄々としていた。
そんな二人とドンの間に入ったユーリは、ドンに聖核アパティアを渡した。

「爺さんの盟友の形見だ。あんたに届けてくれって頼まれた」
「そうか・・・世話かけたようだな」

ユーリに短く礼を言ったドンは、片手に乗った聖核アパティアを見て悔し気に眉根を寄せた。

「ちっ・・・こんな姿になりやがって・・・」

ドンの言葉に聖核アパティアへ視線を投じていた も悲し気に瞳を閉じた。
あの穏やかで優しい声を聞く事はもうないのだと、改めて痛感し深い悲しみが襲う。
聖核アパティアを握りしめるドンに、それまで黙っていたリタが数歩近付いた。
声をかけるのを躊躇っているようではあったが、意を決してドンに訊ねる。

「ねぇ、その聖核アパティアって一体、何なの?」
「・・・こいつはな」

リタへ視線を移したドンが口を開こうとした時、部屋に近付いてくる足音がユーリ達の耳に入った。
それまで俯いていた も、顔を上げると厳しい表情で部屋の入口を見据え、扉の前へと移動する。

「話してる暇はねぇ、か・・・すまねぇがザコの相手は任せる」
「分かったわ」

了承した の返事を聞いたか分からないうちに、ドンはイエガーが逃げた窓へと足をかけた。
そんなドンの行動にリタは制止の声を上げる。

「へ?ちょっ!」

が、時既に遅くドンは窓の外へと消え、入れ替わるように赤眼が部屋に押し寄せた。
数を増やす赤眼に、逃げた方が良さそうだと判断したユーリは、赤眼を見据えながらも口を開く。

「こりゃオレ達も逃げようぜ」
「確かに、キリないわ」

しかし、いつもなら真っ先に同意しそうなレイヴンが、武器を片手にユーリの隣に立った。

「悪い。時間稼いでやってくれ」
「レイヴン?」
「ごめん、ユーリ、みんな。私からもお願い」

皆の先頭に立つ も振り返らずにレイヴンと同じ言葉を言った。

「珍しい事もあるもんね」
「やれるだけやりましょう」
「ワフッ!」
「・・・二人からの頼みじゃ、しゃあねーな!」

苦笑したユーリは再び剣を構えた。

































































剣戟音が響き部屋のあちこちに昏倒した赤眼が転がっていた。
もう十分に時間稼いだろうと判断したユーリは、矢を放とうとした赤眼の一人を倒したレイヴンを肩越しに振り返る。

「そろそろ潮時だぜ」
「だな」

レイヴンが応じると皆が窓から次々と飛び降りた。
最後にリタが部屋に入ってきた赤眼に、炎の魔術を見舞うと発生した煙を目隠しに全員が窓の外へと飛び降りた。

「どうも嫌な感じだ。
オレ達も急いでダングレストに戻るぞ」

背徳の館を後にし、ダングレストに向け駆け出しながらユーリが叫ぶ。
も焦る気持ちを抑え、速まりそうになる足を叱咤し、歩調を合わせながらダングレストを目指した。

























Back
2008.6.22