ユーリ達はダングレストを出ると西へ西へと足を急いだ。
森を抜け橋を渡り、小高い丘の上にある森の奥へと は更に分け入った。
森に入って慎重に歩を進めていると、薄暗い闇に浮かぶ屋敷に辿り着いた。





























































ーーNo.123 背徳の館ーー





























































「すごい警備です・・・」
「しっ、何かもめてるぜ」

ユーリの言葉に入口に視線を向けると、赤眼と二人の少女が口論となっているようだった。

「通してって言ってるでしょ〜!」
「戻るタイミングが良過ぎるっつってんだ。
あんたたちが本物だって証明できるものがあるのか?」
「そんなものはない、通せ。
あのドンが来ているんだ。お前達と話している暇はない」

良く通るドロワットとゴーシュの声は、身を潜めているユーリ達の耳にも届いた。

「やっぱじいさん、ここに来てるんだな・・・」

俺様の予想はやっぱり正しかった、とガッツポーズを決めるレイヴンにリタが黙れとばかりに足を踏みつける。
くぐもった呻き声が上がるが、屋敷の入口まで届くような雑音ではなかったため、口論はまだ続く。

「あんた達は魔狩りの剣が竜使いを狙ってるってネタを探りに行ったはずだろ」
「だから、テムザ山に向かう前にドンがここに向かったという情報を得たと言っている」
「そんなの知ったら、ほっとけないでしょ!」

ゴーシュとドロワットの弁解を聞いても、入口を守る二対の疑わし気な視線は外れない。
時間だけが無意味に過ぎて行く状況に、ドロワットは地団駄を踏み声を荒げる。

「早く通してよ〜!戦いになっちゃったらば君達じゃイエガー様の役に立たないでしょっ!」
「くっ・・・通してやるが何人かつけるぞ。それでいいな?」
「構わないから早く通せ!」

尊大に言い放ったゴーシュに、見張りの男達は渋々と赤眼数人を付け二人を屋敷内に通した。
周囲の赤眼が減った事で、復活したレイヴンは口端を上げる。

「ラッキー♪警備が減ったぜ」
「オレらも便乗と行きますか」

そう言ったユーリ達の後ろで何かが倒れる物音が響いた。
驚いたように振り返ると、そこには複数の赤眼が倒れていた。

「前だけ見て後ろを疎かにしちゃダメよ」

赤眼を跨いでそう言った は、コートに仕込みナイフをしまった。
そんな にエステルの非難するような目が向けられる。

・・・だからって、こんなこと・・・」
「失敬な、眠ってもらっただけよ。こんな奴らと同類にしないで」

エステルの言葉に憤慨した にリタは倒れている赤眼を顎で指す。

「何したの?」
「ん?ちょ〜っと強力な薬が塗ってあるナイフでお仕置きしただけよ」

の答えにほっとしたようにエステルは身体の力を抜いた。
無様に倒れる赤眼にレイヴンは半ば同情に近い呟きを漏らす。

「相変わらず容赦なーー」
「なんだったら即死できる劇薬も持ってるけど?」
「よっしゃ!とっとと入っちゃいましょ!」

から逃げるようにレイヴンは最初に飛び込むだろう、ユーリの隣にそそくさと進む。
それに呆れた も同じように踏み込むタイミングを見計らう。
そんな中、エステルは先ほど耳にした情報を口にする。

「でも・・・どうしてジュディスが魔狩りの剣に狙われているんでしょう」
「連中が聖核アパティアを探してるんだとしたら、狙いはあの女の乗っていた竜かも。
あれが始祖の隷長ならベリウスのとき見たいに聖核アパティアが生まれるのかもしれない・・・死んだ時に」

表情を曇らせてそう言ったリタに、ノードポリカでのことを思い出したレイヴンも続く。

「連中がベリウス狙ったのはハリーの依頼だったからってだけじゃ無いって事か。
連中が聖核アパティアを欲しがってる可能性は否定できないわねぇ」
「でしょうね。
ハリーが掴まされた偽情報、作ったにしては不自然に都合が良すぎたし」

も表情を沈ませるが、ユーリが話を打ち切るように声を上げる。

「ジュディも心配だが、ドンの爺さんの方が先決だろ。
あの賑やかな女共も入っていったしな」
「そうだわね、急ぎますか」

ユーリに応じたレイヴンに、最初に話を振ったエステルが弁解するように言う。

「いえ、ただジュディスが心配で」
「ならテムザ山ってところに行ってみな」
「でも、ドンは・・・」
「自分で決める。そうだったよな?行くぞ」

皆を引き連れ、踏み込もうとするユーリにエステルが慌てたように言った。

「わたしも!行きます!
今ドンを放ってジュディスに会いに行ってもきっと怒られちゃいます。
『あなたの目的は何だったの?』って・・・」
「・・・大丈夫よ、あの女なら。強いんだから」

エステルを安心させるように言ったリタに、 がにやりと笑みを浮かべる。

「あら〜、随分信用してるのね〜」
「ち、違うわよ!事実そうでしょ!」

照れ隠しに声を荒げるリタを が静かに静かにと、とからかった。
そんな二人のやりとりに緊迫した緊張感がほぐれると、ユーリは屋敷を見据えた。

「じゃ、とっととドンの爺さん連れ戻そうぜ。
やらなきゃいけないことがまた増えたしな」
「はい!」

力強く返事を返したエステルに続くように他の面々も頷き返し、屋敷へと踏み込んだ。

























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2008.6.21