ーーNo.122 ざわめく街ーー
宿で
、レイヴン、カロルを待っていたユーリは肩を揺さぶられたことで目を覚ました。
「ユーリ、起きて下さい。ユーリ・・・」
「ん?ああ・・・寝ちまったか」
どうやら三人を待っている間にうたた寝をしていたようだ。
エステルに起こされたユーリは反動をつけて起き上がる。
するとすでに帰ってきたらしいレイヴンから声がかかった。
「寝ぼすけさん、おはよう・・・って時間でもないか」
「ああ・・・おっさん、
、戻ったんだな。
・・・カロルは?」
「ユニオン本部で別れたっきりで、てっきり先に戻ってるものだと思ってたんだけども・・・」
ユーリに答えたレイヴンは顎をさする。
「二人が戻ってきたんだからユニオンの話はまとまったんでしょ?
ドンに会ってるんじゃない?」
リタの言葉にレイヴンは言葉を濁しながらも口を開く。
「いや、それがなぁ・・・
ハリーとノードポリカの一件聞いたら、ドン、一人で出てっちまった」
「一人で?らしくねえな。どこに行ったんだ?」
に向けて問いかけたユーリだったが、帰ってきたのは厳しい、沈んだ顔だけだった。
「・・・・・・」
「
?」
答えない
を不審に思ったユーリだったが問われた当人は口を引き結んだまま答えない。
代わるようにレイヴンが答えた。
「これは俺様のカンだが・・・おそらく、背徳の館っつー海凶の爪の根城に向かったんじゃないかな」
「なんだと?」
「海凶の爪の首領って、あのイエガーですよ!危険です!」
動揺を見せたユーリとエステルに対し、レイヴンはマイペースを崩さず続ける。
「ま、イエガーは手出さないだろうけどねぇ。
それが元でユニオンと正面切ってぶつかるハメになったら商売あがったりだろうし」
「じゃ、ドンはなんで・・・」
「・・・それは・・・」
リタからの問われる視線に
は言葉を漏らすがすぐに閉口する。
辺りに沈黙が降りるが、レイヴンは悪くなど思ってなさそうに頭に両手を当てた。
「っつーわけで、悪いけど今ドンはこの街にいない」
レイヴンの言葉にユーリはベッドから立ち上がると、剣帯を左手に巻付けた。
「んじゃ、行くか。
海凶の爪の根城とやらに」
「こんなおっさんのカンの信じるの?」
「酷っ!」
嫌そうな顔をするリタに、レイヴンが抗議の声を上げるがリタは鋭い一瞥で黙らせる。
「爺さんの相手が海凶の爪かもってんなら放っておけねえ。
手を出さないとは限らねえ連中だしな」
「・・・まぁ、いっか。
待ってるのは性に合わないし」
「・・・エステルは待ってるか?」
一呼吸置いてユーリが問うと、エステルは首を横に振った。
「わたしも・・・ついていきます」
「エステル、無理しちゃダメ。あんた、いま、あんまり・・・」
「いえ・・・だいじょうぶですから」
「エステル・・・」
エステルから向けられた弱々しい笑みにリタはそれ以上何も言えなくなった。
ドンを追うという話に決まってしまったユーリ達に、レイヴンは胡乱気に聞き返す。
「・・・背徳の館がどこにあるのか分かってんの?」
「おっさんが来る気がないなら残ってていいぜ。
なら知ってるだろ、一緒に来るよな?」
の同行は既に決定事項らしいユーリの言葉に、当人は戸惑いを返した。
「・・・私は・・・」
「どうした?らしくねえな。
まさか今更、海凶の爪にビビってんのか?」
「・・・違うわよ」
「じゃ、ドンに留守番してろとでも言われたのか?」
「!」
「ま、行きたくないってんならーー」
「そんなわけ!!・・・っ・・・」
声を荒げた
は、ぐっと堪えるように拳を握る。
それを見たユーリは肩を竦めた。
「なんだ、その気あんじゃねえか。
いつものお前ならわざわざ後悔するような事、しねえだろ」
「ユーリ・・・」
「どうする?」
「・・・行くわ」
「よし。おっさんは残るみたいだから頼むぜ」
「いやいや、俺様も行くって!」
「決まりだな。じゃ、カロルを拾ってーー」
行くか、という続きは外からの喧騒で遮られた。
徐々に大きくなる騒ぎにユーリは眉根を寄せた。
「何だ?」
「橋のある方から聞こえたみたい」
耳を澄ませたリタがそう言うと、レイヴンは厄介なことが起こったとばかりに額を押さえた。
「あっちゃぁ・・・」
「はぁ、もう・・・」
も同じように疲れたように溜め息をこぼす。
外での騒ぎに心当たりがあるらしい
とレイヴンは外へと向かい、ユーリ達も後に続いた。
外に出たユーリ達は、がやがやと騒ぐ人集りに目を向けた。
すると、その人集りに見知った背中を見つけたエステルが声を上げる。
「あそこ、カロルもいます」
エステルの示す方向には確かに大人達に混じって、カロルの小さな背中があった。
その人集りは街の外に向かって、皆口々に叫んでいた。
「ドンはこの街を帝国から守り、我々の誇りを守ってくれた!」
「ドンの恩に報いる為にもオレ達だけでも街を守るんだ!」
いっこうに収まることがないギルドの面々に、ユーリ達から離れたレイヴンが落ち着かせようと進み出た。
「待て待て、落ち着けおめーら。こりゃ何の騒ぎよ?」
「戦士の殿堂の連中がヘリオードの辺りまで乗り込んできたらしい」
「こっちの非で向こうの頭が殺られたんだ。
話をつけに来るのは当然よ」
「ドンがいないと分かったら、奴ら暴走するかもしれない。
オレ達が、奴らから街を守るんだ。ドンが戻ってくるまで」
ドンに依存しているユニオンの現状を目の当たりにしたユーリは目を細めた。
同様にレイヴンも手に負えないとばかりに、頭を押さえた。
「ったく、お前らがそんなんだからドンは・・・
ギルド同士がぶつかったりしたら、また騎士団の連中が首突っ込んでくるかもよ?」
「ダングレストは帝国から独立したんだ!騎士団なんざにとやかく言わせねえ!」
レイヴンに言い返した男に、集まった男達はそうだそうだと声を揃える。
ユーリ達と一緒にいた
は腕を組んだまま、ぼそりと呟いた。
「まだ協定は結ばれていないっての・・・」
そんな騒ぎの人混みから、ユーリ達に気付いたらしいカロルが走り寄ってきた。
「ユーリ!みんな!どうしよう!?
ギルド同士の戦争になっちゃう!ドンがいたらこんな事には・・・」
「ドンは背徳の館って海凶の爪の根城に行ったかもしれないってさ」
焦りを見せるカロルに、ユーリは落ち着かせるようにゆっくりと伝える。
「え!それホント!!」
「おそらく、ですけど・・・」
表情が晴れたカロルに、エステルが補足を加える。
再び顔を曇らせたカロルに、ユーリは続けた。
「オレ達は今からそこに行ってみる。一緒に来るか?」
「・・・でも、ドン、そこにいないかもしれないんでしょ?」
「おっさんのカンだしね」
疑っているリタの言葉に、カロルはどちらに行動を移せばいいのか悩んだ。
「もしいなかったら・・・ドンを探してる間に戦いになっちゃったら・・・
ユーリ、どうしよう・・・どうしたらいいだろう?」
「背徳の館はオレ達だけで大丈夫だ。
カロルは自分の思うようにやるといい」
カロルを安心させるようにユーリが伝えると、不安が残るもののカロルは頷いた。
「う、うん・・・じゃあボク、みんなと話してくる!」
走り去ったカロルにエステルは心配そうに手を組んだ。
「ドンが背徳の館で見つかるといいのですけど・・・」
「オレ達も行くぞ。
ドンの遊び相手が本当にイエガーだったらタダで済むとは思えねぇ。
、案内頼むぜ」
「・・・ええ、分かったわ」
ユーリに応じた
は結界の外、ダングレストの西に向けて歩き出した。
歩き出したユーリ達に集団を宥めていたレイヴンは慌てたように声を上げた。
「ちょ、ちょっとぉ!俺様を置いて行くな〜!!」
Back
2008.6.20