最後に起きたエステルも一緒に行くということになり、全員でダングレストを目指し、フィエルティア号は大海を進んだ。
数日の船旅を終えたユーリ達は夕暮れ時にダングレストに到着した。
街にかかる橋を渡り終えると、先頭を歩いていたレイヴンと
は振り返った。
「俺達はこいつ連れて、ドンのところに顔出してくるわ」
「多分、長くなると思うから宿屋で待ってて。
終わったら声かけるから」
ハリーを連れた三人はそのまま踵を返してユニオンへ向かおうとした。
「・・・待って!ボクも、行っていい?」
カロルに呼び止められ、振り向いたレイヴンは不思議そうに首を傾げる。
「うん?こりゃユニオンの問題だ。
来ても話にゃ混ざれないと思うぜ?」
「あの・・・その話とは別に聞きたいことがあって・・・」
言いにくそうに呟いたカロルにリタが呆れ返る。
「あとで聖核渡すとき、みんなで聞きゃいいじゃない」
「みんなとは・・・聞けない」
それだけ言ったカロルは押し黙る。
そんなカロルに何かを感じ取ったのか、腰に手を当てたユーリが口を開いた。
「長い話じゃないんなら行くだけ行って来いよ」
「う〜ん・・・ダメもとになるかもしれないけど、それでも良いならどうぞ」
「ありがとう!行ってくるよ!」
ユーリに礼を述べたカロルはそのままユニオンへと向かい、ユーリ、エステル、リタ、ラピードは宿屋で待つことになった。
ーーNo.121 よぎる推測ーー
ダングレストを北に進んだ四人はユニオンに到着した。
ハリーは自身の部屋に戻ると別れ、カロルは元首の執務室の前で待つことになり、
とレイヴンは扉をくぐった。
二人が部屋に入ると、すでに情報が入っていたのかドンは書類を読むのを止め、二人に向き直る。
その後、レイヴンが淡々と報告し、
が多少の補足をしていく形で話が進みようやく全てを話し終えた。
「・・・というわけよ」
「なるほどな」
説明を終えたレイヴンに、ドンは考え込むように椅子に身体を沈ませる。
ノードポリカでの一件に、
は悔し気に呟く。
「迂闊だったわ。海凶の爪に釘を刺しとくか、もう少し私が魔狩りの剣の動きを気にしていれば・・・」
「おめえが気にすることじゃあねえ、これはユニオンを束ねる俺の怠慢だ」
そう言ったドンは椅子から立ち上がると、
とレイヴンを見た。
「さぁて、ちぃと出掛けてくる。
夜明けまでには戻って来られるだろう。悪ぃがそれまで留守番しててくれ」
「は、はぁ?ちょっ!こんな時にどこへ・・・」
引き留めようとする
に視線を合わせることなく、ドンは入口へと足を進める。
「なぁに、単なる野暮用だ」
「なら、私も一緒にーー」
「おめぇらは来るんじゃねぇ!」
振り返ることなく強い口調でそう言ったドンに、
はビクッと肩が跳ねそれ以上引き留めることができなくなった。
自身の口調が強かったのを思ってか、ドンはドアの前で二人ににやりと笑んだ。
「これは俺の用事だ」
ドンの言葉に目を見開いた
はその場を動けなかった。
しばらく無言が続いたが、レイヴンが諦めたように溜め息をついた。
「・・・分かったわよ」
「レイヴン!」
は弾かれたように振り返る。
しかし、レイヴンは止めても無駄だとばかりに首を振った。
それを見たドンはそのまま部屋を出て行く。
ーーバタンーー
(「どうしよう・・・何か、何か手立てがないと・・・」)
未だに立ったまま俯いている
は先ほどの場所から動いていない。
対照的にレイヴンは胡座をかいてリラックスモード全開だ。
しばらくしてただそうしていることに飽きたのか、レイヴンは深刻そうに考え込む
を冗談混じりにからかったり、持ち上げてみたりからかいだした。
あまりにも能天気な様子に我慢の限界がきた
は、レイヴンの胸ぐらを掴み詰め寄った。
「さっきから人の考え事邪魔して、何なわけ!?
それにどうしてドンを引き留めなかったのよ!!」
「仕方ないでしょーが、来るなって言われちゃったんだから」
へらへらと降参降参、と両手を挙げているレイヴンに、
はなおも怒りが収まらない。
「だからって!・・・あんな報告したら、ドンの、行き先なんて・・・」
徐々に小さくなっていく
の声と共に、レイヴンを掴んでいた腕からも力が抜ける。
レイヴンは
の両手をやんわりと解くと、覗き込むように
を見つめる。
「それは推測の域をでないっしょ。
単なる野暮用って言ってたじゃない」
「・・・私のこと、バカにしてるの?レイヴンだって本当は分かってるでしょ!」
「そこまで分かってるなら覚悟を決めないといけないわね。
もう手を探す時間もないのも分かってるでしょ」
「っ!!!」
ひた、とレイヴンから見据えられた
は悔しそうに唇を噛んだ。
再び黙り込んでしまった
にレイヴンはいつもの調子で口を開く。
「まぁ、そんな騒ぎなさんな。
んな大声だと他の奴らに聞かれるわよ。そうなると面倒でしょ?」
「・・・・・・」
刺々しい雰囲気を収めることをしない
にレイヴンは立ち上がるとあっけらかんと声をかける。
「そんじゃ、報告も済んだし宿屋に向かいますか。
少年はドンと会えてるだろうし、きっと先に宿屋に戻ってるでしょ」
「・・・分かったわよ」
ふんっと出口に歩き出した
に苦笑をこぼしたレイヴンは、ユーリ達の待つ宿屋に向けて
の後を追い歩き出した。
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2008.6.22