闘技場に到着したユーリ達を出迎えたのは、辺りに漂う鉄の臭いに剣戟音。
次に目に飛び込んできたのは、地面に伏したままの戦士の殿堂パレストラーレのギルド員達だった。




























































ーーNo.117 毒の力ーー
























































「闘技場は現在、魔狩りの剣が制圧した!速やかに退去せよ!」

戦闘が起こっているその場に不釣り合いな少女の高い声が辺りに響く。

「ナン!もうやめてよ!」
「カロル?なんでここに・・・」
「ギルド同士の抗争はユニオンじゃ厳禁でしょ!」

半ば怒りをぶつけるようなカロルにナンも負けずに言い返す。

「何言ってんの!これはユニオンから直々に依頼された仕事なんだから!」
「何だと?」
「一体、ユニオンの誰が・・・!」

ナンの言葉にレイヴンと は盛大に眉をひそめた。
その時、 の視線はナンの後ろから歩いて来る人物に釘付けになった。

「お前・・・ハリー!?」

ハリーの登場にレイヴンはますます困惑する。
見たことある顔だと、リタが呟いた。

「あいつ・・・ダングレストで会ったユニオンの奴?」
「彼はドンの孫のハリーよ」
「ドンの孫・・・?」

の説明にカロルはハリーの顔をまじまじと見る。
ドンのような老獪さは見えないが、鋭い目元はドンに似通うものがあった。

「ちょっと、何がどうなってるのよ?」
「お前達もドンに命令されたろ?聖核アパティアを探せって」
「ああ、でも聖核アパティアとこの騒ぎ、何の関係があるってんだ?」

再び問うたレイヴンと同じように もハリーの返答を待つ。
しかし、返答を聞くことなく突然ジュディスは走り出し、皆の注意がそちらに向く。

「ジュディス!どうしたの・・・あ、あの人!」
「ナッツさん!」

カロルの指す方向には魔狩りの剣に囲まれたナッツが膝を付いていた。
その姿に居ても立ってもいられなくなった はハリーの答えを待たず、ジュディスに続いて駆け出した。

「行くぞ!」
「ええい!こっちの話、終わってねぇってのに・・・!」

ユーリの声に悪態をついたレイヴンも二人を追った。

















































ナッツに刃を振り下ろそうとしていた魔狩りの剣の一人は、突如襲った衝撃に味方を巻き込んで飛ばされた。
続けざまにもう一人飛ばされる。
驚いた魔狩りの剣が振り返ると、そこには槍を構えたジュディスと回し蹴りを食らわせた の姿があった。
その二人にユーリ達も合流する。

「あと一人じゃ物足んねえだろ?オレらが相手してやるよ」
「貴様らもベリウスの配下か!」
「ボ、ボクらは凛々の明星ブレイブヴェスペリアだ!」
「なんか知らねぇが、魔物に味方する奴は死ね!」

有無を言わさず襲ってきた魔狩りの剣にユーリ達は武器を構えた。

























































魔狩りの剣を退けるとユーリ達は満身創痍のナッツにエステルが治癒術をかける。
ひとまず危機は脱したとレイヴンは息を吐く。

「ふぃ〜、何とか間に合ったようね」
「あんた治癒術師だったんだな。おかげで命拾いしたよ」

ナッツの言葉にエステルは微笑で応える。
緊張の糸が緩んだその時、落下音が辺りを揺らした。

ーードガーーーンッーー
「うわっ!」

驚いたカロルが音源へと目を向けると、統領ドゥーチェ室から落下したベリウスが立ち上がる所だった。

「ベリウス様!」
『ナッツ、無事のようだの。
・・・まだやるか、人間ども!』

ナッツに柔らかい視線を送ったベリウスは、厳しい表情をクリントとティソンに向ける。
二人は傷だらけの体を引き摺りながらも未だにその目から闘志は消えていなかった。

「・・・この、悪の根源・・・め・・・」
「あいつが悪の根源?んなわけねえだろ、よく見やがれ!」

ベリウスを守るように立ち塞がったユーリは、怒りを露にクリントに言い返す。
そんなユーリにクリントは射殺す程の視線を投じる。

「魔物は悪と決まっている・・・ゆえに、狩る・・・
魔狩りの剣が、我々が!」
「ふざけるのもいい加減にして!!」

ユーリの前に出た が抜き身の双剣を構えクリントを怒鳴りつける。
普段であればそこまで感情を荒げない の激昂した様子にユーリは引き留めるタイミングを逃した。
もはやベリウスを討つための障害でしかない を排除するためにクリントは大剣を振るう。

「邪魔を・・・するな・・・!」

その剣戟を双剣で受け流し、 はクリントの脇腹へと蹴りを入れ込む。
くぐもった呻き声を上げたクリントは数歩後退すると、再び と睨み合いとなった。

「この・・・魔物風情があ・・・!」

叫声を上げ、ベリウスへと特攻をしかけようとしたティソンをジュディスが防ぐ。
ユーリ達は他の魔狩りの剣が攻撃しないよう、ベリウスの周りを固める。
守られる形になったベリウスはクリントとティソンの猛攻で手傷を負ったようで、囲まれた中心で苦し気に両手を付いた。
その様子にナッツが思わず駆け寄ろうとする。

「ベリウス様!」
「すぐに治します!」

動けぬナッツより早くベリウスの側へ辿り着いたエステルはすぐに詠唱を開始する。
が、ベリウスは力ない焦った声を上げる。

『ならぬ、そなたの力はーー』

エステルの行動にティソンとクリントの攻撃を防いでいたジュディスと も、ベリウス同様に制止の声を上げる。

「駄目!」
「エステル、ダメぇ!!」

ティソンを槍で弾き飛ばしたジュディスは術の発動を止めようと駆け出した。
も思わず攻撃の手を止め叫んだが、その隙にクリントの大剣が を襲う。
辛うじて上体を反らした だったが、上腕が裂かれる。
舌打ちをした は、そのまま懐に飛び込みクリントの顎を真下から蹴りあげ昏倒させ、すぐにエステルの元へと走り出す。
だが、走り寄る二人より術式の完成の方が早かった。

「こ、これは・・・いったい・・・」

完成した術式は他の者がそうだったように、ベリウスの傷も癒すはずだった。
だが、そうはならずベリウスの体から光が溢れる。
普段とは違う事態に驚いたエステルは数歩後退る。

「エステルの術式に反応した・・・?でも、これは・・・」
『ぐぁあああああっっっ!!』
「遅かった・・・」
「嫌っ!ベリウス!!」
「わたしの、せい・・・」

血の気の失せたエステルが乾いた唇を震わせる。
立ち尽くすユーリ達を尻目にベリウスは己が体を顧みず、壁にぶつかったり所構わず暴れ出した。
闘技場全体を震撼させる程の揺れはこのまま全員を生き埋めにさせかねないものだった。

「あのまま暴れられると闘技場が崩れっちまうぜ!」
「戦って止めるしかないのか!?」

レイヴンの言葉にユーリは何か他に方法はないのか、悪態を吐く。
温厚さなど微塵も感じられないベリウスの豹変ぶりにナッツは声をかけ続けることしかできない。

「ベリウス様!お気を確かに!ベリウス様!!」

しかしその目に理性が戻ることなく、その声で攻撃の注意がナッツに向いた。
鋭い尻尾が動けないナッツに襲いかかる。

ーーギィーーーンッ!ーー
さん!」
「っ・・・下がって、ナッツさん」

ベリウスの攻撃を防いだ が、尻尾の攻撃を弾き飛ばす。
それを心配してユーリ達が の名を叫ぶが、それによって再びベリウスの注意が変わる。
獲物を見つけた、と言うように口端を吊り上げたベリウスは既に始祖の隷長エンテレケイアとは言えないモノへ と成り果てていた。
応戦するしかない状況にユーリは悔し気に剣を構えた。

「やっぱ戦って止めるしかねえ!」
「でも、こんなの相手に手加減なんてできないわよ!こっちがやられちゃうわ!」
「そんなのって・・・!」

リタの言葉にカロルは振り返るが、他に策はないとリタが厳しい表情で見返す。
その直後、再びベリウスの甲高い咆哮が空に木霊する。
荒れ狂う姿に はベリウスの声を聞いたような気がした。











































ーーコロセーー











































(「嫌・・・」)












































ーーワラワヲ、コロセーー













































「ベリウス・・・」















































分かってる。
解決策など、一つしかない。
暴走した始祖の隷長エンテレケイアを止めるには力で捩じ伏せるしかない。

「ベリウス様・・・」
「ナッツさん。私のすること、恨んでくださって構いません」
「・・・ さん」

肩越しに振り返った は、その瞳に悲壮を宿しナッツに告げると双剣を構え歩き出した。

「エステル、しっかりしなさい」
「ええ・・・」

べたんと座り込んだままのエステルを が力尽くで立ち上がらせる。
そして、皆が防戦に徹している中、一人その間を駆出した。

「みんな、援護は任せる!」
「なっ!」
!」
「ちょっ!」
「バカ!」
「何を!」

地を蹴った は、上空から双剣を振り下ろした。

「ベリウスっ!!私はここに居るわよ!!」
























Back
2008.6.17