ーーNo.113 夜空に響く歓喜と譴責 後ーー
フレンから離れたユーリは波打ち際の茂みへと身を隠した。
そのまま宿へ戻ろうとしたところ、響いた声に足を止める。
「やっぱり、フレンと対立することになっちゃったわね」
物陰から姿を現したにユーリは眉根を寄せた。
「・・・」
口を開こうとしたユーリを制するようには片手を挙げると、先に口を開いた。
「悪かったわね、立ち聞きする形になっちゃって。
言い訳するわけじゃないけど、フレンに声かけようとしたらユーリが来て、
離れるに離れなくなっちゃったのよ」
「・・・別に構わねえよ、に隠し事なんかしたってそのうちバレるのは目に見えてたしな」
「何それ。私はあら探しが上手いってこと?」
「優秀だって褒めてんだよ」
ユーリの言葉に肩を竦めて返したは、遠くの喧騒を利きながら手近の木に背を預けると湖に視線を投じた。
「どっちも間違ってないのにね・・・」
唐突なの言葉にユーリは首を傾げる。
それを説明するようにはユーリに視線を向ける。
「二人の言い分の話。
目指す先は同じなのに、過程が違うだけで対立しちゃうのは悲しいことよね」
表情を沈ませたに、ユーリは先ほどを思い出してかいささか苛立ちを募らせる。
「考えが同じだとしても、目の前の困った奴らを助けられないフレンの・・・
帝国のやり方はオレは認められねえ。
それが将来、助けになるってしても、犠牲を払って得られるもんなら、オレはお断りだ」
「ま、ユーリならそう言うでしょうね。
でもフレンの言い分も当たってるのよ」
の言い様にユーリは嫌そうに顔を歪めた。
「なんだよ、説教ならフレンだけで足りてるぜ」
「年長者の独り言だと思って聞きなさいって。
ユーリの価値観、正義を貫くことは凄いことだと思うわ。
けどね、それが仇となって返ってくることもある・・・
自分に返ってくるだけなら良いけど、大切な何かを失うことになるかもしれない」
夜空を仰ぎ呟くに口を挟む事なく、ユーリはただ黙ってその姿を見つめる。
ユーリからの視線に気付いたは、空からユーリに視線を戻し続けた。
「貫くと決めたその道、その結果起こったこと。
それに後悔しないように一人で抱え込むことをしないで欲しいの・・・
だってユーリにはきっとその道で助けてくれた人が手を貸してくれるから。
それだけは忘れないで」
はそう言って微笑した。
そう、笑ったはずだった。
しかし、その瞳には深い悲しみが宿っているようでユーリは訝しんだ。
「・・・お前はその大切な何かを、失くしたのか?」
「!」
ユーリの問い返しに、目を見張ったは苦笑した。
「さて、ね。
もう昔のことだし・・・・・・ただ・・・」
「ただ?」
「もう少し、先を見据えることができる力があれば良かったな、て思う時はある。
だから、ユーリには私と同じ思いはーー誰?」
言いかけたははっとしたように後ろを振り返った。
そこにはこちらにやってくるラピードの姿。
そして、そのラピードと止めようとしたようなエステルが宙に手を彷徨わせていた。
「エステル、あなた・・・」
「ユーリ、・・・」
見つかってしまったエステルはバツの悪い顔をしてユーリとに近付いた。
俯くエステルの様子に、は嘆息した。
「全部、聞いてたみたいね」
「ごめんなさい」
「いいえ、私も注意が足りなかったわ・・・」
額を押さえたが再び重い溜め息を吐き出す。
そんなの前を通ってユーリがエステルに一歩一歩近付く。
そして、数歩の距離を残して口を開いた。
「オレのこと、怖いか?」
ストレートな問いかけに息を呑んだエステルは言葉に詰まる。
その反応を肯定と受け取ったユーリは、エステルに背を向けると突き放すように言い放つ。
「嫌なら、ここまでにすればいい。フレンと一緒に帰れ」
「・・・帰りません」
「お前・・・」
小さな返答に、眉根を寄せたユーリはエステルに向き直る。
ユーリの視線を受けたエステルは怯むことなく言葉を紡ぐ。
「・・・ユーリのやったことは法を犯しています。
でもわたし、わからないんです。
ユーリのやったことで救われた人がいるのは確かなのだから・・・」
「いつか、お前にも刃を向けるかもしれないぜ」
威圧するような問いかけにも怯えることなく、エステルは首を振った。
「ユーリは意味もなくそんなことをする人じゃない。
もし、ユーリがわたしに刃を向けるなら、きっとわたしが悪いんです」
「・・・・・・」
真っ直ぐな瞳を向けられたユーリは、それ以上何も言えなくなる。
その視線から外れるようにユーリはふいと顔を背けた。
「フレンと帰るなら、今しかねえぞ。急いでるみたいだったし」
「わたしはユーリと旅を続けます、続けたいんです。
ユーリ達と旅をしているとわたしも見つかる気がするんです。
わたしの、選ぶ道が・・・だから・・・」
エステルは離れていたユーリに一歩一歩近付き、手を差し出した。
その手を不思議そうに見つめたユーリに、エステルはにっこりと笑いかける。
「これからも、よろしくって意味です」
しばし自分の手をみつめたユーリはエステルに向き直るとその手を握り返した。
「・・・ありがとな」
そんな二人を木に寄り掛かって見守っていたは、足元に座っていたラピードに話しかけた。
「ふふ、良かった。ひとまず安心ね」
「ワフっ!」
に返事を返すようにラピードは一声吠えた。
そして再び二人に視線を向けたはほっとしたように微笑を浮かべた。
(「エステルなら・・・彼女なら、きっとユーリの支えになってくれるわね」)
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2008.6.9