翌日、街の入口にユーリ達は集合した。
皆が集まると、カロルが口火を切った。
「で、これからどうする?」
「あたしはカドスの喉笛のエアルクレーネに行くわ。
始祖の隷長も気になるけどね」
「俺様はベリウスに手紙を渡さないとなぁ」
リタに続いたレイヴンにカロルは素早く反応した。
「ボクもベリウスに会ってみたい。
ドンと双璧と言われているギルドの統領がどんな人なのか知りたいよ」
「オレもノードポリカ、か。
マンタイクの騎士の行動、フレンに問い質さなきゃな。
ま、ノードポリカにまだ居れば、の話だけど」
「わたしは・・・始祖の隷長が満月の子を疎む理由を知りたいです。
だから、フェローに会わないと・・・」
両手を組んだエステルの言葉にリタは眉間に皺を寄せた。
「気になるのはわかるけど、フェローに会うなら何か別の方法を探した方がいいわ」
「そうだな・・・砂漠を歩いてフェローを探すのはちっと難しそうだぜ」
「空でも飛べれば話は違うけどね〜」
ユーリに応じた
は両手を鳥のようにパタパタと動かしてみせる。
しかし、それで飛べる訳などなく、エステルはやはり無理なんでしょうか、と肩を落とした。
「だったらみんなでノードポリカに向かうのはどう?
始祖の隷長に襲われた理由・・・それが分かればいいんでしょ」
「え、ええ・・・」
「ベリウスに会えば、分かると思うわ」
「闘技場は始祖の隷長と何らかの関係があるってこと?」
リタの問いかけにジュディスは答えず、ただ微笑を返す。
「確かにイエガーがノードポリカの始祖の隷長がどうとか言ってたねぇ」
「ヤツの言葉を信じるならな」
レイヴンの台詞にユーリは渋い顔をする。
あの人を食ったようなイエガーに好意を持つなど無理な話だ。
「ま、ベリウスに会いに行くなら途中でカドスの喉笛通るわけだし、魔導少女にとっても都合いいわな」
「だな。じゃあマンタイク経由でノードポリカを目指すか」
ーーNo.108 再び黄砂の街を目指してーー
その日は早々にキャンプを張り、翌日からの本格的な砂漠声に備える事となった。
皆が寝静まった頃、火元から離れて見張りをしているジュディスに
はハーブティーの入ったカップを差し出した。
「見張りお疲れ様」
「あら、ありがとう。眠れないのかしら?」
「まぁ、そんなとこ。ちょっと話し相手になってくれない?」
「いいわよ」
ジュディスの隣に腰を下ろした
は、群青に染まる砂の海に視線を投じたまま口を開く。
「・・・ベリウスと知り合いなのね」
「そんなこと言ったかしら、私」
視線を戻すとジュディスは困った様に首を傾げていた。
いつもと変わらないポーカーフェイスに
は諦める事なく食い下がる。
「ジュディスの言いぶりだと、エステルがフェローに襲われた理由をベリウスなら当たりをつけられる、って感じだったし」
「・・・」
の言葉にジュディスは沈黙した。
その様子に
はにっこりと表情を変える。
「始祖の隷長でもあるベリウスなら、盟主の思惑も分かるって所かしら?」
「!・・・あなた・・・」
「ノードポリカでちょっと言ったでしょ。
私、ベリウスに会った事あるのよ」
の言葉に驚きを見せたジュディスは思案顔となる。
再び沈黙したジュディスに
はさらに話を続ける。
「ベリウスとも知り合いならフェローとも知り合いなんでしょ?」
「それだけでフェローと知り合いと言われても困っちゃうわ」
先ほどと同じような困った表情に
はおどけてみせる。
「そう?でもあんな好戦的な始祖の隷長の身体の一部見ただけでそいつのだって言えるんだもの。
間近で体の特徴を目に出来るほどの間柄って、私は考えちゃうんだけどな」
ヨームゲンでエステルが手にしていた紅の羽根。
迷う事なくジュディスはフェローのものだと断言した。
たまたま、と言うには無理がありすぎる。
の柔らかい口調とは裏腹な鋭い指摘にジュディスは素直に賞賛した。
「素晴らしい洞察力ね。
ユニオン一の情報屋、『自由な風』の名前は伊達じゃないということかしら」
「その褒め言葉は大袈裟過ぎるけど・・・ありがと。
ここまでくると、もう職業病よね。
で?答えはもらえるのかしら」
の問いかけにジュディスの長いまつ毛が伏せられた。
「ごめんなさい。
私だけで済む事ではないから答えられないわ」
肯定も否定もしない返答に
は予想していたように肩を竦めた。
「ま、そんなことだろうと思った。
気にしないで」
そう言った
は立ち上がり、凝った身体をほぐすようにめいいっぱい伸びをした。
「さて、見張り代わるわ。ジュディスは休んで」
「まだ交代には早いでしょ?」
その言葉に
は苦笑し、ジュディスに手を差し出した。
「質問攻めにしちゃったお詫びよ。
受け取ってくれない?」
「じゃ、甘えさせてもらおうかしら」
「ええ、甘えてちょーだい」
の手を取って立ち上がったジュディスはそのまま背を向けると火元へと歩いて行った。
そのジュディスの背中に向かって、
は思い出したように声をかけた。
「もう一つだけ」
呼び止められたジュディスはくるりと振り向くと、言葉の続きを待った。
「何かしら?」
「リタは仲間として貴女も信頼してるわ。
隠し事がバレると怒られるわよ?」
受けた忠告に目を瞬かせたジュディスは薄く笑った。
「そうね・・・気をつけるわ。
でも、それはお互い様でしょう?」
違うかしら?と切り返された
は苦笑を浮かべる。
「ま、違わないわね」
溜め息と共に呟いた
は、これ以上互いに踏み入らないとばかりにおやすみなさい、と挨拶をすると見張りを始めた。
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2008.6.5