外に出た途端、リタは に噛み付いた。

「ったく、何すんのよ!もうちょっと話し聞くつもりだったのに!!」
「まぁまあ、あれ以上は無理だって。
背中から『これ以上答える気はねぇぜ』オーラが全開だったじゃない」
「あの人、そんなキャラじゃないと思うけど・・・」

カロルの突っ込みを苦笑で返した にユーリが訊ねる。

「あいつと、デュークと知り合いか?」
「まぁね。あんな風変わりな人だし、見た目も美丈夫だしね。
でも、名前くらいしか知らないわよ」

残念でした〜、と舌を出して がからからと笑う。
そんな にユーリはふーん、と気のない返答を返し、エステルに振り向く。

「あいつの言ってた満月の子って、前に聞いた凛々の明星の妹だよな」
「ええ・・・
『地上満つる黄金の光放つ女神、君の名は満月の子。兄、凛々の明星は空より我らを見る。
君は地上に残り、賢母なる大地を未来永劫見守る』」

ユーリに頷いたエステルは、すらすらと暗唱する。
聞かされた内容にレイヴンは首を傾げる。

「それ、なんか意味あるの?」
「わかりません。でも、ただの伝承ではないのかもしれません」

エステルの返答に皆、一様に黙ってしまった。
このままでは埒が明かないと、ジュディスが口を開く。

「今はこれからどうするかを決めた方がいいんじゃない?」
「そうだな。とりあえず出発は明日にして一旦、自由行動にするか」

ユーリの言葉に は元気よく手を上げる。

「はーい、さんせーい!」
「じゃあ明日の朝、街の出口集合な」



























































ーーNo.107 求められた答えーー
























































ユーリ達と別れみんなの姿が見えなくなると、 はすぐに賢人の屋敷の扉をくぐった。
そして、先ほどと同じ場所に立つ白銀に向けて口を開く。

「久しぶり、ね。こうやってちゃんと話すのはデイドン砦以来かしら」
「・・・そうだな」

背を向けることなく、 と視線を合わせたデュークが短く返答を返す。

「さっきの話だけど・・・」
「あれ以上話すことはない。お前もフェローに会うなど、愚かなことは考えないことだ」

口早に遮ったデュークに、キョトンとした は薄く笑む。

「心配は嬉しいけどね、生憎と仕事となれば話は別よ。
フェローがどこにいるのか、デュークは知ってるの?」
「彼の者は一つ所に留まることはない」
「そっか〜、初めから砂漠横断で会いに行くのは無理な話だったか・・・」

大方予想がついていたことに、 は頭を掻いた。
と、思い出したようにデュークに向き直る。

「あ、もう一つ良い?」
「なんだ?」
「砂漠で倒れた時、私達を助けてくれたの、デュークじゃないの?」

の問いにデュークは僅かに眉根を寄せる。
それは親しい者にしか分からないほどの僅かな変化だったが、 にはしっかりと見え思わず苦笑が漏れる。

「なぜそう思う」
「この包帯・・・デュークの巻き方だもの」

包帯に添えられた羽根を、しばらく懐かしそうに見つめた は痛みを押し込めるように小さく息を吐く。
そして、過去の思い出から逃れるように頭を振ると、再びデュークに向き直った。

「・・・・・・」
「だから・・・ありがとう、助けてくれて。
デュークには助けられっぱなしだわ」

柔らかい笑みを浮かべて礼を述べた は、それだけ、と言ってデュークに背を向けた。

、お前の心は定まったか」

かけられた声に はピタリと足を止めた。
ドアノブから手を離すと、再びデュークに向き直る。

「・・・その問いに答えたいのに、デュークは私の質問には答えてくれないじゃない。
それに・・・」

は困ったようにデュークを見返した。

「デュークが言ってる事って、具体的にどういった事なの?
始祖の隷長エンテレケイア側か人間側かって事?
それって一体何を、何をしようとしてるのデューク?」

の問いかけに、デュークは答えない。
二人の間には重苦しい沈黙だけが支配する。
それに悲し気に表情を沈ませた は、距離を置くようにドアへと一歩後退した。

「・・・デュークが何をする気なのか、自分の目で見定めてから決める。
だから今は立場をはっきりさせられないわ。ごめんなさい」
「分かった・・・だが、忘れるな。
時は確実に尽きつつある」

一歩一歩 に近付いたデュークは の頭に手を乗せ、昔そうしたように撫でた。
そんなに行動に は首を傾げた。

「どういうーーっ!」

こと、と言葉の続きを言おうとした は突如白い光に包まれ膝から力を抜ける。

「ーー手遅れになる前に決める事だ」

デュークの声を聞いた は、抱き留められる感触を覚えた後、意識を手放した。











































遠くから声が聞こえる。

「・・・!」
ーー誰?ーー

それに気付くが、自分の声が出ているのかとどうか分からない。

「・・・!・・・!!」
ーー呼んでる、の?ーー

だんだんと意識がはっきりしてくるが、まだ夢現のようだ。

「・・・!!お・・・さい・・・って!!」
ーー何?聞こえないってばーー

徐々に苛立ちが募ってくると、突然耳に怒号が突き刺さった。

「起きろって・・・言ってんのよーーーっ!!」
ーードガーーーンッ!!!ーー
「うわあぁっ!!」

怒号の次に襲った熱を帯びた衝撃。
まさか自分がこれを体験する日が来ようとは思わなかった。

「っててて・・・カロルの気持ちがよく分かったわ」

腰をさすった が顔を上げると、仁王立ちしたリタが不穏な笑みを浮かべていた。

「覚めた?」
「ハイ、スッキシ・・・」

冷や汗を浮かべた が引き攣った笑みで応じる。
リタからの話によると、賢人の家で が意識を失っていたのを見つけ、起こそうとしたが起きなかったために実力行使に出た、らしい。
荒っぽい起こし方に文句を並べようとしたが、また魔術を喰らうのが目に見えていたのでぐっと堪えた。

(「ホント・・・やってくれたわね、デューク・・・」)

散々な目に遭った、と意識を失うことになった原因主を思い内心で悪態を吐く。

「で?なんでこんなとこで寝てたのよ?」
(「別に好きで寝てた訳じゃないんだけど・・・」)
「さぁ?デュークにもうちょっと話を聞こうとしたら、なんか、意識が・・・ね」
「はあ?疲れてるんならさっさと休みなさいよね」
「はいは〜い、心配してくれた優しいリタのお言葉に甘えますよ〜」

の言葉にリタの顔は赤くなった。

「べ、別にあたしは心配なんか!」
「きゃ〜、休んできまーす」

魔術の詠唱を開始しそうなリタに、 は明るく叫び声を上げると賢人の家を後にした。
























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2008.6.4