ーーNo.106 賢人の話ーー
























































ユイファンの言葉通り、街の最奥に一軒の家が建っていた。
ノックをして扉を開けたユーリは背を向けている家主だろう、後ろ姿に声をかける。

「邪魔するぜ・・・!」

しかし、振り返ったその姿に驚きを見せた。

「デューク・・・」

が呟いたその人物は、 に視線を向けた後、ユーリに向き直った。

「お前達・・・どうやってここへ来た?」
「どうやってって、足で歩いて、砂漠を越えて、だよ」

なんでそんな当たり前の事を聞くんだ、とばかりにユーリは眉根を寄せる。
ユーリの答えにデュークは納得のいっていない表情だったが、再び問いかける。

「・・・なるほど・・・だが、一体・・・いや・・・ここに何をしに来た」
「こいつについて、ちょっとな」

そう言ったユーリは手にした澄明の刻晶クリアシエルを見せた。

「わざわざ、悪いことをした」
「いや・・・まあ成り行きだしな」
「そうか・・・だとするなら奇跡だな」

澄明の刻晶クリアシエルを受け取ったデュークに、リタが苛立ちを滲ませて詰問する。

「あんた、結界魔導器シルトブラスティア作るって言ってるそうじゃない。
賢人気取るのもいいけど、魔導器ブラスティアを作るのはやめなさい。
そんな魔核じゃない怪しいもの使って、結界魔導器シルトブラスティア作るなんて・・・」
魔核コアではないが、魔核コアと同じエアルの塊だ。
術式が刻まれていないだけのこと」
「術式が刻まれていない魔核コア・・・?どういうこと!?」
「一般的には聖核アパティアと呼ばれている。
澄明の刻晶クリアシエルはその一つだ」

淡々と答えるデュークにレイヴンが反応を示した。

「これが聖核アパティア・・・!?」
「それに、賢人は私ではない。
彼の者はもう死んだ」

澄明の刻晶クリアシエルーー聖核アパティアを床に置くと デュークは立ち上がった。

「そりゃ、困ったな。
そしたらそいつ、あんたには渡せねぇんだけど」
「そうだな、私には、そして人の世にも必要ないものだ」

ユーリに答えたデュークは手にした剣を床にある聖核アパティアの真上にかざした。
その行動に慌てたようにレイヴンが駆け寄ろうとする。

「あ〜!何すんの!待て待て待て!」

しかし、剣が降ろされることはなく代わりに術式が展開され、一瞬だけ辺りが光に包まれる。
視界が戻ってくると、床の上にあった聖核アパティアは影も形もなかった。
目の前で起こった出来事にリタは驚きを隠せない。

「これ、ケーブ・モックで見た現象と同じ!?」
「あっちゃ〜。せっかくの聖核アパティアを」
聖核アパティアは人の世に混乱をもたらす。
エアルに還した方がいい」

頭を抱えたレイヴンを気にする風でもなくデュークはさらりと答える。
そんなデュークの言葉にリタは眉根を寄せると、反芻するように呟く。

「・・・エアルに還す?今の、本当にそれだけ・・・?」
「おいおい、だからって壊す事はねえだろ」
澄明の刻晶クリアシエルは・・・いえ、聖核アパティアは、 この街を魔物から救うためには必要なものだったんじゃないんです?」

ユーリと同じようにエステルが訊ねる。

「この街に、結界も救いも不要だ。ここは悠久の平穏が約束されているのだから」
「悠久の・・・平穏?約束されてるってどうして言い切れるの?」

説明が少なすぎるデュークに が聞き返す。
と同じようにエステルもさらに問う。

「そうです、フェローのような魔物も近くにいるんですよ」
「なぜ、フェローのことを知っている」
「そりゃ、こっちのセリフだ。あんたも知ってんだな」

問い返されたデュークに答えず、ユーリが疑わし気に見返す。
無言の攻防の中、エステルがデュークの前に進み出る。

「・・・」
「知っていることを教えてくれませんか?
わたし、フェローに忌まわしき毒だと言われました」

その言葉に初めて表情を変えたデュークが、合点がいったように頷いた。

「・・・なるほど」
「何か知ってるんですね?」

エステルの言葉に返事を返すことなく、デュークはユーリ達を横目にしながら口を開いた。

「この世界には始祖の隷長エンテレケイアが忌み嫌う力の使い手がいる。
その力の使い手を満月の子という」
「それが、わたし・・・?
でも、満月の子って伝承の・・・
もしかして・・・始祖の隷長エンテレケイアっていうのはフェローのこと、ですか・・・?」
「その通りだ」

聞かされた話でさらに謎ができたエステルは、再びデュークに訊ねる。

「どうしてその始祖の隷長エンテレケイアはわたしを・・・満月の子を嫌うんです?
始祖の隷長エンテレケイアが忌み嫌う満月の子の力って何の事ですか?」
「真意は始祖の隷長エンテレケイア本人の心の内。
始祖の隷長エンテレケイアに直接聞くしか、それを知る方法はない」

返って来た答えにエステルは落胆の色を隠せない。

「やっぱりフェローに会って直接聞くしかないってことですか?」
「フェローに会った所で、満月の子は消されるだけ。愚かなことは止めるがいい」
「でも・・・!」
「エステル、もうやめとこう」

デュークに詰め寄ろうとしたエステルの腕をリタが制する。

「ねえ、始祖の隷長エンテレケイアって前に遺構の門ルーインズゲートの ラーギィ・・・イエガーも言ってたよね」
「ノードポリカを作った古い一族、だっけ」
「フェローがノードポリカを?そんなわけないじゃない」

ありえないわよ、とばかりにリタがカロルとレイヴンに半眼を向ける。
もう話すことはないとばかりにデュークはユーリ達に背を向ける。

「立ち去れ。もはやここには用はなかろう」
「待って!あたしもあんたに聞きたいことがある。
エアルクレーネっであんた何してたの?あんた、何者よ、その剣はなに!?」
「お前達に理解できることではない。
また理解も求めぬ。去れ、もはや語ることはない」
「なっ!ーー!!」

それ以上の追及を拒絶するようにデュークは口を噤んだ。
怒りを見せたリタだったが、口を開く前に がリタの口を押さえ、そのまま屋外へと連れ出した。
























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2008.6.4