何だろう、この感じ・・・

あったかくて、それにとっても懐かしい

そういえば、昔、こんな風に抱き上げてもらった事があったっけ

ケガをして動けなかった私を、抱き上げてくれたあの腕にすごく安心したのを覚えてる

でもあの時の私はまだ幼くて、無力で、無知すぎた・・・

『友達を守る、これが私の正義』

そう信じて疑うことなく剣を振るったあの時

その行動が後にどう影響するかなんて・・・

その時の私には考えも付かなかった

少し、ほんの少しでも今のように先を読む事ができていたら

あんなに後悔する事なんてなかったのに・・・

































































ーーどうやら謀反を企てていたらしいーー
































































    違う・・・

































































ーーそれが明るみに出て見せしめか、いいザマだーー

































































    違う、そんなことしてない!

































































ーー策士策に溺れる、とはまさにこのこと。愚かな一族だーー



































































    なんで・・・どうして・・・私の、せいなの・・・?





































































ーーNo.105 結界のない街ーー
























































「・・・うっ」

自分の呻き声で目が覚めた はガバッと起き上がった。
どうやら夢を見ていたようだが、内容はすでに朧げで曖昧になってしまった。
しかし、訳もなく胸を締め付ける、この感覚。
昔の事を夢見ていたのだと気付き、肺が空になるまで息を吐き出す。

ーーポタッーー

突如、腕を濡らした音に驚き、ようやく自分の頬が濡れている事に気付いた。

「やだ、なんで涙が・・・って、あれ?
砂漠にいたはずなのに・・・ここは・・・?」

辺りを見回してみると並んだベッドにユーリ、エステル、カロル、リタがまだ眠っていた。
静かにベッドを抜け出した は屋外に続くだろうドアを開けた。

宿の外は砂漠とは思えないほど、過ごしやすい環境だった。
頭上を見上げると結界の術式がなく、不可解すぎる街の様子に は首を捻った。
ふと、誰かに呼ばれた気がして街の入口に視線を向けると、橋の上にレイヴン、ジュディス、ラピードがおり はそちらに向けて歩き出した。

「おはよう」
「おっさん心配したわよ、もう大丈夫なの?」
「おはよう、ジュディス、レイヴン、ラピード。
休んだおかげで問題は全くなしよ。
それより、誰が私達を助けてくれたの?あの後、誰も動ける状態じゃなかったと思うんだけど・・・」

の問いかけにジュディスは困ったように眉尻を下げた。

「それが、誰が助けてくれたか分からないの」
「宿屋の人の話だと街の入口の前に倒れてたって話らしいけどね。
どこの誰か知らんけど、命拾いしたわ〜」
「そっか・・・」

レイヴンの言葉にしばし考え込んだ は、意識を失う直前の記憶が気になった。

(「なら・・・あの時見たのは幻、だったのかしら・・・」)

未だに求めている姿を追いかけている自分が見た、心が作った幻影だったのだろうか。
分からないことを考えてもしょうがないと、頭を振った は再びジュディスに訊ねる。

「助けてくれた人の事は置いとくとして、この街について何か聞いてきた?
まだ行ってないなら聞き込みに行くけど?」
「あなた、起きたばかりでしょ?平和そうな街だけど一人で行くのは危ないわよ」
「そう?・・・ならラーー」
「俺様が行くわよ。レディをエスコートするのが紳士の務めでしょ」

を遮り、勿体ぶった喋りをしたレイヴンは恭しく膝を折った。
それに は冷めた視線を向け、言葉少なに返す。

「却下」
「妥当な判断ね」
「んなっ!?」

二人の言葉にレイヴンはショックを受けたように固まった。

「そこまでエスコートしたいのなら、 と代わってあげてはどう?」
「え〜、俺様だけ仕事するのぉ〜」

口を尖らせて文句を並べるレイヴンに、さっきのエスコートって言葉はどこいった、と は内心突っ込んだ。

「レディに代わって仕事するだなんて、さすがおじ様ね。
こんな紳士は世の女性は放っておかないでしょ。
私、妬けちゃうわ」

片頬に手を当てて物憂げにため息をついたジュディス。
それに気を良くしたレイヴンは、ぱっと表情が輝いた。

「お、そう?
ならジュディスちゃんが惚れる俺様の仕事ぶりみせたげるわ!」

行くぜワンコ!!とレイヴンは走り出すと、嫌々と言った感じでラピードが続いた。
レイヴンとラピードを見送った はジュディスに向けて拍手を送る。

「いや〜さすがジュディス。扱い上手いわね」

主にとある一名の。

「だって、女の子と一緒に行かせたら危ないでしょ?」
「はは〜仰る通りで」
「それより、その手の方はもう大丈夫なの?」
「手?」

笑いから一変、自分の手元を見た は僅かに目を見張るとへらっと笑い返した。

「あー、平気平気。
倒れた拍子に剣で切っちゃっただけだから」

包帯で巻かれた手を擦りながら、 はジュディスと共に他の仲間を待った。



























































全員が揃った頃、レイヴンとラピードが帰って来た。
どうやら今いるここが幽霊船の日誌にあった『ヨームゲン』という街であるらしい。
こちらで持っている紅の小箱について知っている人がいるかもしれない、とユーリ達は街の住民に箱を見せて知っている人を探し出す事にした。
すると湖の側に建てられたウッドデッキから、遠くに憂いを投じる女性が箱について知っていた。
ユーリ達は事情を説明するとその女性に名前を聞いた。

「申し遅れました、私はユイファンと言います」

その名前にエステルは思い出したように に呟く。

「確か、アーセルム号の日記にあった名前ですね」

は頷くとユーリがユイファンの前に進み出た。

「あんた、澄明の刻晶クリアシエルって知ってるか?」
「結界を作るために必要なものだと賢人様が仰っていました。
ま、まさか、その箱の中に?」
「はい。わたし達届けに来たんです」

驚きを見せるユイファンにエステルはユーリの隣に並び、箱を差し出した。

「そう、だったんですか・・・ありがとうございます」

しばし手元の箱を見つめていたユイファンは、持っていた鍵で箱を開けた。
中に入っていたのは、両手で収まる程の水晶のような透明な結晶体だった。

(「!!!これって・・・!」)

それを見た は驚愕のあまり目を見開いた。
幸いにも皆の注意はエステルの手中の結晶体に向いていたため、その理由を問われることはなかった。

「うわぁ・・・これがもしかして澄明の刻晶クリアシエル?」
「みたいね・・・」

カロルとリタがまじまじとそれを見つめる。

「で、さっき言ってた賢人様って誰の事よ?」
「賢人様は、砂漠の向こうからいらしたクリティア族の偉い御方です」

レイヴンの問いかけに堪えたユイファンに、今度はリタが疑い深い視線を向ける。

「結界を作るってことは、魔導器ブラスティアを作るってことよね。
まさかエフミドやカルボクラムで見たあのメチャクチャな術式の魔導器ブラスティア作ったヤツがその賢人様じゃないでしょうね」
「ご、ごめんなさい、私よくわからないんです・・・」

困惑しているユイファンに、エステルはリタの肩をそっと引く。
それで口を噤んだリタは諦めたように腕を組んで、ユイファンから視線を外す。

「とにかく結界を作る為に澄明の刻晶クリアシエルが必要だって、賢人様が仰ってそれを探しにロンチーは旅に出て・・・
もう三年にもなります」

聞かされたユイファンの言葉に違和感を覚えたユーリだったが、そのまま話を続けた。

「・・・三年、ね。そりゃ心配するわな。
あんたが良ければ、ソレ、賢人様に持ってくけど?」
「では、お願いできますか?賢人様は街の一番奥の家にいますので」

会釈を返したユイファンがその場を後にすると、困惑顔のカロルが口を開いた。

「なんか色々話がおかしくない?」
「なんだか、話が噛み合ってませんね」

同意を示すようにエステルも頷く。

「千年の間違いじゃない?」
「それじゃ、彼女何歳よ?」

リタに素早く切り返されたレイヴンはうっと言葉に詰まる。

「とにかくその賢人様という人に話を聞いた方が早いと思うわ」
「そうだね。じゃあ、行ってみよう」

ジュディスの言葉にユーリ達は街の奥へと歩き出した。
























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2008.6.1