歩き続けたユーリ達を水気を帯びた風が撫でる。
どうやら砂漠中央部を抜け出し、砂漠の終わりに差し掛かっているようだ。
海の薫りが僅かに鼻孔を掠め、それが気分を持ち直してくれる。
そんな時、砂漠の入口で聞いた鳴き声が響いた・・・
が、

「何かおかしい・・・気をつけて」

ジュディスが警戒する通り、住んだ鳴き声は徐々にくぐもった声へと変わった。
明らかにフェローと違う鳴き声に全員が身構えた。

「フェローじゃない・・・」
「ああ・・・声の調子が変わりやがったな」

エステルに応じたユーリは厳しい視線を辺りに巡らせる。
すると、蜃気楼とは違う空気の歪みをカロルが指差した。

「あ、あれ・・・!」

直後、そこから海にいるマンタを模した薄墨のモノが出現した。

「何!?気持ちワルっ!」

思わず数歩足を引いたリタにカロルも顔が引き攣る。

「あんな魔物・・・ボク知らない・・・」
「魔物じゃないわね、あれは」

槍を構えたジュディスが呟くと、焦りを見せるレイヴンが聞き返す。

「魔物じゃなかったら、何よ!?」
「分からない・・・存在は希薄なのに、感じるプレッシャーは本物だわ」

双剣を構えたも目の前の魔物に嫌な汗が流れる。
理屈ではない、自身の奥底の本能が継承を鳴らしていた。
まともに戦りあうには危険すぎる、と。
逃げるべきか、戦うべきか考えあぐねているうちにその魔物はユーリ達に向かって来た。

「こっちに来ます!」
「ちっ!やるしかねぇってことか」

エステルの叫びにユーリは剣を抜くと駆出し、それにとジュディスも続いた。
空中を泳ぐ魔物に叩き付けるようにユーリは剣を振るう。
しかし、手応えはなく逆に切断面から触手を伸ばされ取り込まれそうになるのを飛び退る事で逃れる。

「な、何なんだよ、こいつは」
「下手に近付くと、どうなるか分かったもんじゃないわ。
後衛とタイミング計っていきましょ」

の言葉で魔物から距離を取ると、後衛からの詠唱が響き攻撃が魔物へと突き刺さる。

「狂気と強欲の水流、戦乱の如く逆巻く、ダイダルウェーブ!」
「降り注げ刃の雨、罪と罰!」
「煌めいて、魂揺の力、フォトン!」

その攻撃で怯んだのを見逃さず、ユーリ、、ジュディスは後衛の守備から攻撃へと隊列を変えた。

「喰らえ、断空牙!」
「まだまだ!飛燕蹴撃!!」
「沈みなさい、月華天翔刃!!」
































































ーーNo.104 たゆたう泡影ーー
























































炎天下の中、何度目か分からない攻撃を加えた時だった。
突然、魔物は出現した時と同じように姿が虚ろになると、空気に溶けるように消え去った。

「きえ、た・・・?」

突然の事には呆気に取られたように呟く。
眼前の危険を退けたユーリ達だったが、厳しい環境下での戦いは気力も体力も限界にきていた。
誰一人として他の仲間を介抱できるほどの余裕はなく、意識を保つことも難しい。

「これは・・・?」

空からゆっくりと目の前に舞い落ちて来た紅の羽根を拾おうとしたエステルは膝を付いた。

「はあ、はあ・・・ボク、もうだめ・・・」

力なく呟いたカロルが倒れ、隣にいたリタも続くように倒れる。

「リタ・・・カロル・・・」

立ち上がろうとしたエステルだったが、身体に力が入らずそのまま前のめりに倒れ込んだ。
さらにジュディス、ラピードも倒れ込む。

「さすがの俺様も、もう、限界・・・」
「・・・こりゃ、やべえ・・・」

レイヴンに続きユーリも身体を横たえた。

「・・・ユーリ・・・みんな、しっかり・・・」

片膝を付いて声をかけたもすでに息も絶え絶えだった。
顔を上げているのも辛く視界はぼやけ仲間の姿も不自然に歪む。

(「ダメだ・・・意識、が・・・」)

意識を留めようと、必死に抵抗するが自身の身体は脳からの命令を受け付けてくれない。
は双剣の刃を力強く握り、手の平に刃が深く埋もれ、激痛にさきほどより意識がはっきりとする。
今のうちにと、立ち上がろうと膝に力を入れたがバランスが取れず、肩から倒れ込み砂に埋まった。
荒い息をつく音が耳を埋め尽くす。
歪んだ視界に広がるのは澄み渡るキレイすぎる青空。

(「ここで終わり、か・・・」)

そんな思いが過った時だった。
蒼天、そこから舞い降りる今は亡いはずの懐かしい姿を目にした。

「・・・エ、ル・・・」

もう二度と届かないそれに手を伸ばすが、それに触れる事はできず。
喪失感に引き攣った喉から無意識に口をついた名前を遠くから聞いたは遂に意識を手放した。
























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2008.6.1