空から突き刺さる眩しい日差し。
遮るものなど何一つ見えない黄砂の海。
そして容赦なく体力、気力を奪っていく熱気。
気まぐれに吹く風は涼を運ぶ事なく、砂を巻き上げ視界を塞いだ。
「・・・影一つ、ないですね」
「この暑さ、想像以上だね・・・」
すでに暑さに負けそうになっているエステルとカロルは口重に呟く。
それに応じるように額の汗を拭ったユーリも口を開いた。
「準備なしで放り出されたらたまんねえな」
「あのおっさんは準備なしでも平気そうよ」
リタが示す視線の先、ユーリ達の幾分先に進んでいたレイヴンはいつもより軽やかにバク転やら空中技を披露している。
いつもであれば拍手なり歓声なりで反応を返す所だが、灼熱の環境下でそんなことをする物好きはこの一行の中にはいない。
遅々として歩みの進まないユーリ達に痺れを切らしたのか、足場の悪い砂地にも関わらず走り寄ってくる。
全く暑さが堪えていないレイヴンの様子に、疲れを滲ませたユーリが問いかける。
「おっさん・・・暑くないのか?」
「いや暑いぞ、めちゃ暑い、まったく暑いぞ!」
高すぎるテンションで返答されたそれにリタは呻いた。
「うっとおしい・・・」
「・・・うざぃ」
たまらずの口からも文句が漏れる。
エステルは上半身を支えるように膝に手を付いた。
「暑いって言われる度に・・・温度が、上がっていく気がします」
「水の補給を忘れないようにしときゃ大丈夫よ」
涼し気にレイヴンが言った時だった。
辺りに魔物の、以前ダングレストで聞いたような泣き声が響き渡った。
「今のフェローの?」
「やっぱりフェローはこの砂漠にいたんだ!」
その声にエステルとカロルが明るい表情で視線を交わす。
「急かすなよ。見つけ出したら存分に相手してやるからさ」
ユーリは挑発的な一瞥を空へ向けると砂の海へと足を踏み入れた。
ーーNo.103 コゴール砂漠ーー
「ほれ〜、たらたら歩くと余計疲れるぞ〜。
ほい、元気よく!いっち、に〜、さん、し〜」
先頭を進むレイヴンが宙返りしたり飛び跳ねたりしながら、ユーリ達を急かす。
自分達とは真逆なレイヴンの様子にカロルは息も切れ切れに呟く。
「なんで、そんな、元気なの・・・?」
「いるよな、人がバテてる時だけ、元気なヤツ・・・」
げんなりしたようにユーリもレイヴンを見て呟く。
「ぶっ飛ばしたい・・・」
「無駄に動くなよ」
「そんな元気もないわ・・・ね、あれから声聞こえた?」
「いえ・・・全然・・・」
どこ行ったんだろ、と腕を組んだリタは思い出したようにジュディスに問いかけた。
「ところで、あんた。
こんな砂漠に何しに来てたの?」
「ここの北の方にある山の中の街に住んでたの、私。
友達のバウルと一緒に。
だから時々、砂漠の近くまで来てたのよ」
「砂漠の北・・・もしかして、ジュディスってテムザの出身なの?」
暑さではっきりしない頭を働かせ、は記憶に引っかかった街の名前を出した。
「・・・ええ。詳しいのね」
「あー、まぁ、職業柄・・・」
一瞬、間があって返された回答に失言だった、と思ったはジュディスの言葉に濁して返す。
そんなを見つめていたジュディスだったが、疲れたように一息つくと話題を変えた。
「それにしても・・・何かを探す余裕はなさそうね、これは」
「まったくな、自分の命を繋ぐので精一杯だ・・・
早く何か手がかりを見つけないとな・・・」
ユーリもそう応じると、止めていた足を再び踏み出した。
砂漠に入って数日が経過した。
ユーリ達は未だに手がかりを見つける事が出来ず、フェロー探しは手詰まり感が出ていた。
「う、もう水がない・・・」
「全部飲むんじゃねえぞ」
「ありがと、ユーリ」
ユーリから水筒を受け取ったカロルは嬉しそうに喉を潤した。
「ちょっと・・・このへんで・・・休憩に、しない・・・」
「まったくしょうがないねぇ」
肩で息をつくリタにレイヴンは口を尖らせて渋々と足を止めた。
「あ〜〜〜っ!!!」
「お?ついに一人壊れた?」
突然叫び声を上げて走り去ったカロルにレイヴンは楽し気に言う。
走った方向へ視線を向けたリタは、目を見開くとカロルに続いた。
「水っ!!!」
「あ、ちょっと、気をつけて。
砂に足を取られたら、危ないですよ!」
エステルの注意を聞く事なく、カロルとリタはすぐ先に見つけたオアシスへと全力疾走して行った。
一番元気がなかった二人の豹変ぶりにユーリは肩を落とす。
「なんだよ・・・まだ元気じゃねえか」
「若いって素晴らしいわね」
が苦笑すると、レイヴンも負けじと走り出した。
「おっさんも行くか!」
そんなレイヴンの背中を見送ったは半眼を向ける。
「・・・中年も同じなのかしら?」
「ったく、みんなして力の出し惜しみしやがって・・・」
オアシスで休息を取ることにしたユーリ達は、渾々と湧き出る水に身体の渇きを癒していた。
「ふぇ〜、気持ちいい〜」
「生き返った・・・」
「ほんと、もうダメかと思った」
水に足をつけたとリタ、カロルにいたっては寝そべって涼やかな流れを堪能していた。
そんな様子にレイヴンは嘆くように茶化す。
「おお、おお。これからの未来をしょって立つ若者が情けないね〜」
「うっさい」
ピシャリとリタに言い返され、レイヴンは口を噤む。
「でも、このまま進むのも危険だよね」
「とりあえず力の続く限り、いくわよ」
カロルにそう答えたリタにエステルも力強く頷いた。
「はい、フェローはこの砂漠にいるようですから」
「だな。水場も見つけたしもう暫くは探索できるだろう。
さて、休憩はもういいだろ、先へ進むぞ」
ユーリの言葉を合図に再び灼熱の地に一行は足を向けた。
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2008.5.30