ーーNo.102 監視ーー



















































砂漠に行く事が決まり、十分な休養を取るため宿に宿泊したユーリ達は翌日早朝に出発することになった。

「世話になったな」
「あの・・・どんな理由があるか存じませんが・・・
やはり砂漠へ行くのはお止めになった方が・・・」

おずおずとユーリ達を引き留める宿屋の主人にユーリは薄く笑んだ。

「サンキュ。
でも、みんなで考えて出した結論だからな」
「そうですか。では、お約束のものを・・・」

そう言ってカウンターには人数分の水筒が並べられた。
予想外の大きさにカロルは目を丸くする。

「水筒、こんな小さいの!?」
「十分じゃない?」
「そうね、砂漠に生えてるある種のサボテンは、水を多分に含んでるから」
「そう、そこからこまめに水を補給すればこれで事足りるの・・・って、よく知ってるわね」

リタの言葉にジュディスはいつもの微笑を浮かべる。

「それらは差し上げますので、遠慮なく使って下さい。
ここを出てすぐそこの分かれ道を右に曲がった突き当たりに湖があります。
そこで水を汲んでいくと良いでしょう」
「ありがとうございます、助かります」

深々と頭を下げるエステルにいえいえ、と宿屋の主人は畏まった。

「ところでさ、昨日からここに立ってたあの騎士、何?」
「ずっと見張られてて、おっさん緊張しちゃったよ」
「ウソばっかり・・・」

カロルと同じように も呆れた視線をレイヴンに向ける。
リタからの問いかけに、主人は辺りを注意深く見回した後、声を潜めた。

「・・・あれは、監視です。
住民が外から来た方と勝手に話をしないように」
「どうして、そんなことを?」
「理由は分かりませんが執政官命令で、私のような商売人以外は外出禁止なのです」

納得したようにユーリは頷いた。

「なるほど・・・だから、街中に住民の姿が見えないんだな」
「つい最近まで執政官なんていなかったのに、とうとうここに来て・・・」
「そうなんです?」
「ええ。最近、ノードポリカで騎士団が動いてるとか、遂に騎士団がベリウスの捕縛に乗り出したみたいですね。
この街に帝国の執政官が赴任して来たのもその波紋みたいですね」

主人の言葉にそれまで黙っていた が驚きに声を上げる。

「なんですって!?」
「騎士団がベリウスを捕まえるの!?」
「はい。なんでも闘技場の統領ドゥーチェが人魔戦争の裏で糸を引いていたらしいですから」

その言葉は一同に衝撃を走らせた。
普段はさほど表情を変えないジュディスも、厳しい表情に変わる。

「ベリウスが・・・?」
「そんな訳・・・どうして!」
「わ、私には分かりません。
ただこの街ではそう言われてます。まぁ戦士の殿堂パレストラーレがある限り、帝国は迂闊に手出しできないはずですがね」

詰め寄る に言葉に詰まりながらも主人は答える。
と、宿屋のドアが開くと昨日と同じ場所に騎士が沈黙のまま見張りに立った。

「・・・」
「ご利用ありがとうございました」
「え・・・ちょ・・・」
「世話になったな」

カロルを遮ってユーリが形式的に挨拶を返すと、 もカウンターから身を離した。

「・・・湖に水を汲みに行きましょ」

騎士の登場でそれ以上の話を聞く事ができず、苛立ちを騎士にぶつけるのをぐっと堪えた は外へと向かった。












































湖で水を汲み終えると、ユーリが に問いかけた。

、さっきはどうしたんだ?随分動揺してたみたいだけど・・・」
「そりゃあ・・・ドンと比肩するベリウスを騎士団が捕まえるって言うのよ?
要するに、帝国がギルドと全面戦争するって言ってる事じゃない。
動揺しない方がおかしいわ」

宿屋でのような動揺を見せる事なく、淡々と答える にリタが顎でレイヴンを指す。

「あのおっさんはそうでもないみたいよ」

視線の先にはぼけ〜っとしているレイヴンがいた。
それからリタに視線を戻した は、不思議そうに見返した。

「だって、レイヴンだもの」
「そっか、レイヴンだもんね」
「なるほど、おっさんだしな」
「ぶぇくしょぉいっ!」

カロルとユーリも妙に納得したように頷いた直後、レイヴンの盛大なくしゃみが響いた。
























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2008.5.22