ジュディスの言っていたオアシスの街、マンタイクに到着したユーリ達はとりあえず一旦自由行動となった。
































































ーーNo.101 黄砂の街マンタイクーー
























































(「はぁ・・・気持ちいい」)

湖に足をさらした は木陰を作る幹に身体を預ける。
別に仕事をサボっている訳ではない。
どこかの風来坊と違って、休みながらも仕事している最中だ。
視線の先には湖のそばに立つエステルが、真剣な眼差しを砂漠のその先へと向けていた。

(「エステルの力、そしてフェローが言った『世界の毒』。
得られる真実にエステルはどんな答えを出すのかしら・・・」)

それに、カドスの喉笛で会ったあの魔物。
否が応でも昔の事を思い出す。
事の発端となった火種、世界を深く抉った癒えぬ傷跡、終止符を打ったのは大切だった・・・幼い自分でも持てる力で守りたい存在だった・・・

「・・・エル」
「なぁに黄昏れてるのかねぇ〜、まだ年若い若者が」
「背後から現れる神出鬼没な不審者をこの世界からどうやったら抹殺できるのかしらって」

背後からの声に突き放すように言えば、強張った表情のレイヴンが現れた。

「怖っ!そんな物騒なことを考えてたワケ!?」
「8.5割はね」
「残りの1.5割は?」
「仕事の事に決まってるでしょ」
「ほぁ〜、俺様はてっきりあのお嬢ちゃんにキツイ事言った事を言ったのを気にしてるのかと思ったわよ」
「何よそれ」
「ほれ、カドスの喉笛で」
「・・・あぁ、海凶リヴァイアサンの爪の二人のこと」
「そそ。 にしちゃぁ随分な言い様だったしね」
「そんなことないわよ。
ギルドの掟を散々蔑ろにして、腹は立ったけどあの二人を消した所で根本問題、解決しないことぐらい分からないほど馬鹿でもないわ」
「いや、まぁそりゃそうなんだが・・・」
「エステルの性格からしてああ言うのも分かってたけど、これ以上元気よく動き回られても困るわ。
もう少し、深手を追わせても良いと思ってたもの」

ふぅ、と嘆息した は再び視線を対岸のエステルに戻した。

「エステルは優しいわね、敵でもああやって手を差し伸べられる。
でも、彼女と私達は違う掟で生きてる。
それを理解してもらおうとは思わないわ」
「・・・そうね、その辺の折り合いはお嬢ちゃんに分かってもらうのは難しいかもねぇ。
でも優しいのは もお嬢ちゃんと変わんないわよ」
「帝都に良い腕の眼科があるそうよ。今すぐ行くと良いわ」
「なんでそんな憎まれ口しか返せないの!?
もー、黙ってれば可愛ーー」
ーーバシャーーーン!ーー

レイヴンの続きは足払いをかけられた事で、水中の中に消えた。

「ぶはっ!ちょ、ちょっと !?」
「水浴びにはちょうど良いでしょ。
その沸いた頭の中、洗ってから合流してよね」

すくっと立ち上がった はレイヴンに後ろ手を振り、傾いた日に背を向けて宿屋へと歩き出した。















































夕暮れ時宿屋の前に再び集まると、一番最後に合流したエステルがカロルに手を差し出した。

「カロル、これを」
「どうしたの、エステル、突然・・・これは?」

カロルの手の中には花形のブローチが夕陽を受けて輝いていた。

「仕事の報酬です。
きっと高値で売れると思います。ここまでありがとうございました」
「え、何言ってるの。
まだエステルの依頼は終わってないのに・・・」

困惑するカロルにエステルは首を横に振った。

「・・・みんなとは、ここでお別れです」
「お別れって・・・あんたはどうすんのよ」
「一人で行く気か・・・?」

詰め寄ろうとするリタを制したユーリはエステルに問いかける。
それにエステルは静かに頷いた。

「フェローに会うのはわたしの個人的な願いですから」
「何言ってんの、危険だって!」

非難するように声を上げたカロルに、エステルの声にも熱がこもる。

「だからです!これ以上みんなをわたしのわがままに巻き込めません!」

きっぱり答えたエステルに辺りに沈黙が下りる。
暫くして、ユーリが出し抜けに口を開いた。

「義をもって事を成せ、不義には罰を」
「え・・・あ、ボク達の掟だね」
「どう考えても、エステル一人で砂漠の真ん中に行かせるのは不義ね」
「オレ、掟を破るほど度胸ねぇぞ。な、カロル」
「うん!」
「そういうことのようだけど」

硬い表情を崩すことをしないエステルは、ジュディスの言葉にも同じように首を振った。

「・・・わたし、とても嬉しいです。
でも、やっぱりダメ・・・」

頑なに一人で行くというエステルに、真剣な表情のリタが話に割り入った。

「待ちなさい、エステル。
あんたらも何考えてんの?自然なめてない?」
「ボク、怖いけどエステルを放っておけないよ」

ユーリとカロルの言葉に眉間の皺を深くしたリタは年長組である二人に振り向く。

「ちょっとあんたらも!何とか言いなさいよ!」
「ここでごねたら俺様一人であの街戻んないとダメでしょ?
それもめんどくさいのよね」
「悪いわね、リタ。
私の今の仕事はエステルの監視で、引き留めるのは仕事外よ。
エステルが行くなら付いて行くだけだから」

味方がいなくなったリタは腰に両手を当て呆れ返った。

「まったく、あんた達と来たら・・・
どうしても行くの?」

再三にわたるリタの確認にエステルは、目をそらす事なく頷いた。

「はい。わたし、考えたんです。
みんな自分達のやるべき事を探して、やりたい事の為に頑張ってる。
でも、わたしはそんな事考えてなかったかもって・・・
わたしも自分の本当にやりたい事、やるべき事を見つけなきゃって思ったんです。
その為にも、自分で決めて、自分から始めたこの旅の目的を達したい。
これは、ケジメでもあるんです」

エステルの言葉を聞き、その視線を正面から見つめていたリタは暫く沈黙した。
そしてそれを破るように盛大に溜め息をついた。

「はぁ・・・・・・分かったわよ、入ろうじゃないの砂漠中央部に」
「え・・・?」

疑問符を浮かべたエステルに、すでに説得を諦めたリタは腕を組み顎でユーリ達を示す。

「こんなガンコな連中、もうあたしには止めきれないわよ」
「リタ・・・」
「リタこそ、ついてくる必要ないだろ。
エアルクレーネ調べるんじゃないのか?」
「あんたたちみたいなバカ、ほっとけるワケないでしょ。
エアルクレーネは逃げないんだからあとでまた行くわよ。
ただし!この街でちゃんと準備して、万全でいくわよ」

ユーリにそう言い返したリタは分かったわね、と念押しした。

「迷惑かけて、ゴメンなさい・・・」
「この旅の最初からこうなる予定だったろ」
「ありがとうございます」

苦笑して返したユーリにエステルは深々と頭を下げた。























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2008.5.21