ーーNo.100 明かされた正体ーー
追跡を進めると、ラーギィは開けた場所でおびただしい数のコウモリに先を阻まれて立ち往生していた。
それに先行していたラピードが追いつくと箱を奪い返し、器用に尻尾でユーリ達の所へ弾き飛ばした。
「よくやったラピード!鬼ごっこは終わりだな」
箱を取り戻したユーリが言い放つと、それまで逃げの姿勢だったラーギィは向き直った。
「くっ、こここ、ここは・・・ミーのリアルなパワーを・・・!」
「その口調!」
驚く
を他所に、ラーギィが光に包まれると収まったそこにいたのは、海凶の爪の
首領イエガーだった。
ようやく理解できたからくりにユーリと
は厳しい視線を向ける。
「ふん。そういう仕掛けか」
「ずいぶんとギルドの掟を忘れているようね・・・
私が思い出させてあげるわ」
「おーコワイで〜す。
ミーはラゴウみたいになりたくないですヨ」
向けられた視線におどけて両手を上げたイエガーの言葉を聞き留めたエステルが首を傾げた。
「ラゴウ・・・?ラゴウがどうかしたんですか?」
「ちょっとビフォアにラゴウの死体がダングレストの川下でファインドされたんですよ。
ミーもああなりたくネー、ってことですヨ」
「ラゴウが、死んだ・・・?どうして・・・」
「・・・」
「・・・」
片目を瞑って答えるイエガーにエステルは反芻するように呟く。
それに反応を示す事なくユーリと
は沈黙したままイエガーを睨み返す。
「それはミーの口からは、キャンノットスピーク。
もっと詳しいパーソンからリッスンするがベターね。
たった一人でデッドするなんてロンリーね〜」
思わせぶりなイエガーの口振りに
は眉根を寄せた。
(「どういうこと?私が手にかけた付き人の死体も同じように見つかるはずなのに・・・イエガーの話じゃ・・・」)
空気が張り詰める中、対峙していたイエガーはユーリ達にくるりと背を向けると、蠢く黒い影の前へと進んだ。
「あ、そっちは・・・!」
それに制止の声を上げたエステルだったが、続きは新たな登場者によって遮られた。
「イエガー様!」
「お助け隊だにょーん」
「ゴーシュ、ドロワット。
後は任せましたヨー」
「了解」
「アイアイサー♪」
以前、ヘリオードの労働者キャンプでも見た、イエガーの部下、ゴーシュとドロワットが立ちはだかるコウモリに攻撃を加える。
その隙にイエガーはその場を後にする。
「逃がさないわよ!」
「行かせるか!」
「イエー!また会いましょう、シーユーネクストタイムね!」
イエガーに走り寄ろうとした
とユーリだったが、突如衝撃波が二人を襲い弾き飛ばした。
「っ!?」
「ぐっ!?」
何とか受け身を取った二人が攻撃された方へと視線を向けると、先ほどまでゴーシュとドロワットが攻撃をしていたコウモリが一体化したところだった。
「こいつだ!プテロプスだよ!」
一匹の巨大な魔物となったプテロプスは敵と見なしたユーリ達に牙を剥いた。
程なくしてユーリ達はプテロプスを討ち倒した。
エステルは仲間に手当を終えると、ゴーシュとドロワットに治癒術をかけようとした。
が、
ーーパンッーー
「敵の施しは、受けない・・・」
「バカにしちゃ、や〜なのよぉ・・・」
「でも、その傷では・・・」
「見上げた心掛けと言いましょう。
ついでに首領の居場所を吐いてもらいましょうか」
「
!二人の手当が先です!」
「手当されたくないって言ってるんだし、そのままでも死ぬような傷じゃないわよ」
「そんな言い方!」
「・・・撤退する」
「ばいばいだよぉ・・・」
とエステルが口論している間に、二人は弾幕を張る。
煙が晴れたそこには、もう誰もなかった。
小さく溜め息を吐いた
は、双剣を鞘に戻す。
洞窟の出口に近いそこからは外気が吹き付け、その温度にリタは顔を顰めた。
「うっ・・・な、なに、この熱気・・・」
「コゴール砂漠だわ・・・」
「あらら、来ちゃったわねぇ」
ジュディスの呟きにレイヴンは渋い顔で肩を落とす。
「・・・わたし、やっぱりフェローに会いに行きます」
洞窟の出口を見つめたエステルの決意を固めたように言うとカロルが声を上げる。
「待って!・・・エステル一人を行かせられないよ。
今のボク達の仕事はエステルの護衛なんだから」
「とりあえず箱は取り戻せたんだし、ギルドの仕事をしたら?
なんだかんだで砂漠に着いたみたいだしね」
の提案にユーリは諦めたようにため息をついた。
「しゃあねぇ・・・ケリは次会った時につけるぜ」
「ちょっと待って、本当に行くつもり?
分かってんの?砂漠よ?暑いのよ?死ぬわよ?なめてない?」
「分かってる・・・つもりです・・・」
詰め寄るリタに詰まりながらもエステルは答える。
剣呑な雰囲気になりそうな時、ジュディスが突然口を開いた。
「・・・砂漠は三つの地域、砂漠西側の狭い地域の山麓部、最も暑さが過酷な中央部、東部の巨山部の三つに分かれているわ」
「は?ちょ、ちょっと・・・?」
いきなり語り出したジュディスに困惑したリタが眉根を寄せるが、ジュディスは再び口を開く。
「・・・山麓部と中央部の中間地点にオアシスの街があるの」
「何の話よ?」
問い詰めるようなリタにジュディスはにっこりと微笑を返す。
「前に友達と行った事があるの。
水場のそばに栄えたいい街よ」
「込み入った話はとりあえず、そこでしようってことだよな?」
ユーリの言葉にジュディスは頷く。
「それがいい。おっさん底冷えしていかんのよ」
レイヴンは両手を擦ってそう言うと早速出口に向かった。
未だにその場を動こうとしないリタにエステルは申し訳なさそうに向き直る。
「・・・リタ」
「・・・分かったわよ。とりあえず、そこまで行きましょ」
渋々了承したリタも洞窟の出口に向かって歩き出した。
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2008.5.20