ーーNo.99 エアルを鎮める者ーー



















































ほの暗い洞窟でラーギィを追いかけていたユーリ達はようやくその後ろ姿を視界に映した。
ラピードはこれ以上の逃走を許さないように鋭く吠える。

「バウッ!」
「ひっ・・・おおお、お助けを!」

その声に竦み上がったラーギィはその場に踞った。
このタイミングを逃さず、距離を詰めようとしたユーリ達だったが、突如目の前にエアルが漂い出した。
驚いたユーリ達はそれを前にたたらを踏んだ。

「エアル・・・?どうしてこんなところに・・・」
「ケーブ・モックのと同じだわ!ここもエアルクレーネなの?」

と同じように驚いたリタも漂うエアルを見つめる。
エアルは徐々に溢れ、川のように進路を阻む。
時間が経つほど悪化するような状況にレイヴンも焦り出す。

「こりゃ、どうすんだ?」
「強行突破・・・!」
「・・・は無理そうね」

突っ込もうとするユーリの腕をエステルが止めると、ジュディスに同意するように頷き返す。

「です!この量のエアルに触れるのは危険です!」
「こここ、こんなものに、たた、助けられるとは」

踞っていたラーギィは立ち上がると、再び逃走を図ろうとする。

「あ!待てっ!!」

それを見咎めたリタが制止の声を上げた。
するとそれが合図だったかのように、さらに辺りにエアルが吹き出し、ラーギィの前にも進行を阻むエアルの壁が出来上がった。
しかし、それはユーリ達の前に漂うエアルも同様で、触発されるように濃度が上がったエアルはユーリ達の身体に変調を及ぼし始めた。
離れるしかないか、と数歩後退したその時、洞窟の上空から一匹の魔物が舞い降りた。

「・・・え・・・?」

いきなり目の前に現れたその魔物の姿にの視線は釘付けとなった。
地に着いた太く羽根の生えた四つ足、背中から伸びる力強く羽ばたくだろう二本の羽、頭部から伸びる長い触覚。
魔物を見据えたユーリは武器に手を伸ばし、いつ襲いかかって来ても対応できるように身構える。

「あれがカロルの言ってた魔物か!?」
「ち、違う・・・あんな魔物、見たことない・・・」

警戒するユーリ達に注意を移すことなく、その魔物は突如口を開いた。
それに一気に緊張を高めたユーリ達だったが、開いた顎はユーリ達に向かう事なく当たりに漂うエアルがそこへと吸い込まれていった。

「エアルを、食べーー!?」
「・・・え・・・どう・・・て・・・」

それに驚き近付こうとしたリタだったがそれより先に、が魔物に歩み寄る。
手を伸ばすを拒絶するように魔物が鳴き声を上げる。
その声によってユーリ達は金縛りにあったかのように足を地に縫い絡まれた。

「か、からだが、うごかない・・・」
「こ、こんなのって・・・」
「こりゃ、やばい・・・か」

必死に身体を捩り、解こうとするが自身の身体は言う事を聞かない。
その間にも魔物はエアルを吸収し続け、辺りに漂うエアルがなくなるとその魔物は何事も無かったように飛び上がり姿を消した。

「おろ、動ける・・・」

魔物が消えたと同時に身体が自由になった事で、レイヴンは不思議そうに自身の身体を見つめるが、もう自由に動かすことができた。
ユーリ達と同じように動けなかったラーギィはこちらが困惑している隙に再び背を向けて洞窟の奥へと逃げ出した。

「いい加減にして」
「ジュディス待て!リタ、どうだ?」

それを追いかけようとしたジュディスの腕を取ったユーリがリタへと問いかける。
ユーリ達の歩いていた道の脇、湧き水で満たされていた水底にはエアルの高密度結晶体が姿を揺らしていた。
それを眺めたリタが、納得したように頷き返す。

「大丈夫、この程度の濃度なら、害はないわ」

リタの言葉を聞いたユーリはジュディスの腕を放す。

「今のはいったい、なんだったんだろう?」

突然起こった先ほどの現象にカロルは首を捻る。
それに応じる事なく、リタは一人呟く。

「暴走したエアルクレーネをさっきの魔物が正常化した・・・
でも、つまりエアルを制御してるってことで・・・
ケーブ・モックの時に、あいつの剣がやったのと・・・おんなじ!?」
「通っても大丈夫か?・・・リタ!」

問いかけに返事をしないリタにユーリが幾分声を大きく聞き返すと、やっと気付いたように返事を返す。

「え、あ、そ、そうね。多分・・・」
「気になるかしら?」

ジュディスが出し抜けに問いかけると、リタは口をへの字に曲げた。

「そりゃそうよ。あれを調べる為に旅してるんだし・・・」
「どうすんだ、リタ」

早く決めろ、とユーリが言外に滲ませると、リタも苛立ちを募らせて言い返す。

「わかってるわよ、わかってる!
今はあいつを追う時・・・でも・・・」
「そいつはどこかに逃げたりすんのか?」

レイヴンの問いかけに際ほどの苛立ちが収まらないままのリタが厳しい視線を向ける。

「逃げるわけないでしょ!・・・って、あ・・・そっか・・・
いいわ、行きましょう」
「よし、決まったな」

話が追跡する事となり、レイヴンは動かないにとてとてと歩み寄る。

「お〜い、?どうしーー!」
「・・・あ、ごめん。別に何でもない」

ふいと顔を背けたに、レイヴンはしばし固まる。
と、

「どうかしたか、おっさん?」
「あーいやいや。が飛び出したもんでみんなに悪かったってさ」
「・・・・・・ごめんなさい」

レイヴンに強制的に頭を下げさせられたも、仕方なしに話を合わせて頭を下げる。
皆が先へと進む中、レイヴンはまだ固まったままのに耳打ちをした。

「ちょっとは落ち着いた?」
「私はずっと落ち着いてるわよ」
「えー、目の端を光らせちゃって良く言うわよ」
「・・・ちょっと、びくりしただけよ」
「ほいほい、んじゃま先に進みましょ〜」
「ちょ!子供扱いしないでよ!」

頭をぽんぽんされたレイヴンの手を払い除け、が怒号を上げればレイヴンは足早に逃げ去って行く。
それに鼻を鳴らしたは、怒りに振り上げた手を下ろし、ゆっくりと歩みを進める。

(「まさか・・・彼なの?でも、彼は・・・確かに10年前にデュークと一緒に・・・」)

悲しみに痛む胸元を握り、はキュッと唇を引き結ぶ。
そして、自分を呼ぶ声に緩い歩みを小走りに変えた。
























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2008.5.14