ザギの攻撃は以前にも増して素早くユーリ達へ襲いかかる。

「ひゃはははははっ!ここが貴様らの終焉の地だ!」
「あんた魔導器ブラスティアをそんな使い方して許されると思ってるの!?」

怒りを滲ませるリタにザギは小馬鹿にしたように見返す。

「くははははっ!羨ましいのか?オレの左腕が」
「その執念、もっと別の所に向けろよ」
「まったく同感だわ。あんたみたいなのとはさっさと縁を切りたいわ、ねっ!!」

ユーリの言葉に同意を示した が、斬りかかってきたザギの剣を弾き返す。

「ひゃはははっ!崇めろ、ひれ伏せ、恐れろ、うわはははははっ!!」

しかしザギにそんな攻撃など効いていないのか、哄笑を止める事なくユーリ達へ襲いかかる。
攻撃を集中させても一向に諦める様子を見せないザギに は苛立たしく悪態を吐いた。

「ったく、あったまきた!
吹き荒れよ紅蓮の烈風、灼熱の腕で敵を抱け!バーニングゲイル!!」
「灼熱の軌跡を以て野卑なる蛮行を滅せよ!スパイラルフレア!!」

とリタが立て続けに魔術を放つ。
すると、ザギの左腕の魔導器ブラスティアが光り、放たれた魔術を吸収した。

「なっ!?」

驚きを見せた だったがリタは予想していたように頷いた。

「大丈夫!計算済みよ!」

リタの言葉が合図だったようにザギの左腕はオーバーロードで煙が上がる。
しかしその代わりに異常なほどの明滅と異音を出し始めた。

「むっ・・・・・・ぐわっ!!!
「制御しきれてない!あんな無茶な使い方するから!」

リタは魔導器ブラスティアから厳しい視線を外さない。
ザギは左腕を地に突き立て、どうにかしようとするが魔導器ブラスティアの暴走は止まらない。

魔導器ブラスティア風情がオレに逆らう気か!」

そう言ったザギが左腕を上空へと向ける。
異常なほどエアルを取り込んでいた魔導器ブラスティアから圧縮されたエアルが放たれる。
しかしそれは上空で消えることなく、雨のように闘技場へと降り注いだ。
雨とは違うそれは所構わず爆音に変わり、観客は一気にパニックに陥った。
さらにそれで収まる事なくユーリ達がいる闘技場内に魔物が溢れかえる。

「ま、魔物!?」
「どうしてんなところに!?」
「見世物の為に捕まえてあった魔物だ!多分、今ので魔物を閉じ込めていた結界魔導器シルトブラスティアが壊れたんだ」

カロルとユーリに答えたフレンは、魔物の相手をする事なくそのまま走り去った。

「ぐわああぁぁぁっ!」

フレンが去った直後、暴走したままの左腕を抱えたザギがユーリ達に背を向けて逃げ出した。

「逃がさないわ・・・!」

後を追おうとしたジュディスだったが、溢れた魔物がユーリ達を取り囲む。

「ちっ!魔物の掃除が先だな」

舌打ちしたユーリにならうように皆が武器を構え直した。
































































ーーNo.97 奪われた小箱ーー
























































牙を剥く魔物を片っ端から斬り伏せるユーリ達だったが、魔物は後から後から沸いてくるようだった。

「こりゃ、ちょいとしんどいねえ」
「口じゃなくて、手動かして」

レイヴンの疲れを見せる態度にリタが口早に言い返し、再び魔術の詠唱を開始する。
だが、その詠唱の間にカロルの隣、エステルの手にしていた紅の小箱から光が溢れる。

「な、なに?」

カロルが疑問の声を上げるが、直後に発動したリタの魔術がいつもと段違いの威力で放たれた。

危っ!ちょっと、リ、リタさん!冗談になってないわよ!」
「ちょっと、どういうこと!?」
「どういうって・・・何がよ?」
「この箱のせい・・・?」

エステルが手元の小箱に視線を向けたその時、黒い影がエステルから小箱を奪い去った。
小箱を抱えて走り去るその後ろ姿は、ユーリ達にチャンピオンを倒して欲しいと依頼した遺構の門ルーインズゲートのラーギィだった。

「あいつ!」

リタが後を追おうとしたが魔物に阻まれ、代わりにジュディスとラピードが追跡を開始した。
ユーリ達が闘技場内で魔物を倒しているとフレンが司会席から部隊に指示を飛ばす。

『騎士団に告ぐ!ソディアは小隊を指揮し、散った魔物の討伐に当たれ!』
「客を避難させるのが先だろ」
「フレンなら分かってるわよ」

魔物を斬り伏せ、背中合わせになりなが苦言をこぼすユーリに が苦笑しながら応じる。

『残りは私と、観客の護衛だ!魔物は一匹たりとも逃すな!』
「ほらね」
「みたいだな。
ちゃんと隊長らしさも板についてんじゃねえか。オレ達は行くぞ!」

突破口を開けた事でユーリは他のメンバーに声をかける。

「ジュディスと犬っころが先に行ったわよ」
「ああ」

ユーリがリタに応じると、闘技場の外へと駆出して行った。















































「街の外に逃げられたわ」
「・・・逃げ足の速い野郎だ」

宿屋の前でジュディスと合流すると、ユーリは悪態をつく。

「まだラピードが追ってるわ」
「ラピードが追いついてくれてればいいんだが」

ジュディスの言葉に顎に手を当ててユーリは呟く。
そんなユーリに表情を曇らせたカロルが口を開く。

「それにしても、どうなってるの?なんでラーギィさんが」
「どうやら、嵌められたっぽい?」

レイヴンの疑問系にユーリは溜め息をついて答える。

「らしいな。フレンの任務を妨害する為にオレ達をけしかけたんだろ」
「任務・・・?」

首を捻ったエステルにユーリが答える。

「お姫様を連れ返しにって事じゃなさそうだぜ。
それなら闘技場の大会に出たりしないからな」
「それにしても隊長自ら戦うなんて、よっぽど重要みたいね。
でも、闘技場で勝ち続けるなんて、一体どんな任務な訳?」
「さぁな。ラーギィの思惑を邪魔するものだったってのは間違いなさそうだ」

腕を組んで考え込む にユーリもそこまでは聞けなかったと応じる。

「でもあの温厚そうなラーギィさんが・・・」
「箱奪ってった時のあいつは温厚なんてものじゃなかったわよ」

俯いたカロルにリタはそう言い返し、 同様に考え込んだ。

「奪われた箱、最初からあれが目的なら、こっちをけしかけた訳は何となく分かる。
・・・けど私達がノードポリカに来るって事まで計画に入れてないとできない。
計画的って言うには穴がありすぎるわ。
もしかしたら、フレンの任務を探るためとかも含めて私達を・・・?」
澄明の刻晶クリアシエルって一体、何だったんでしょう?」
「分かってるのはあたしの魔術があのはこのせいで暴走したって事ぐらいかしら。
あんな風に武醒魔導器ブラスティアが制御できなかったのなんて初めて・・・」
「その初めてで私は危うく焼死する危機だった訳ね」

考え事を打ち切り、 が軽口で応じればリタから突き刺さるような視線。
それを笑って受け流した は、気を取り直すようにラピードを追うため皆を促して街の外へと向かった。























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2008.5.12