ーーNo.95 遺構の門からの依頼ーー
翌日、ノードポリカで砂漠とエアルクレーネの情報を集める事となった。
ユーリ達が街中へ繰り出すと、ちょうど潮騒とは違う喧騒が耳に届いてきた。
『おめぇが先に手ぇ出したんだろうが!』
『はぁ?何言ってんだ!』
「なんだ?」
「ただのケンカでしょ、ほっとくが吉。
そのうち戦士の殿堂が止めに入るわよ」
ユーリに応じた
だったが、カロルが騒ぎの中心の人物に知った顔を見つけた。
「あれ、あの人・・・」
『お、おふたりとも、や、やめてください。
こ、こんな街中ではみ、みなさんにご迷惑が・・・』
がたいの良い男二人を仲裁しようと、弱腰のラーギィが宥めようとしていた。
が、人の話を聞くようなタイプではないのだろう。
短気を起こした男は、腰の得物に手を伸ばした。
「うるせぇ!外野はすっこんでろ!」
「ひ、ひっ!」
ーーガギィーーーンッ!ーー
「!」
「物騒なもん振り回すなよ」
「なんだ、お前!」
ーーギィーーーンッ!ーー
「なっ!」
「私が悪いのなら後で謝るわ。あなた達が悪いのだと思うけど」
男二人の剣を軽々と止めたユーリとジュディスに、男達は及び腰となる。
結果的に首を突っ込むことになってしまったことに、
は仕方ないと溜め息一つを付くと喧騒の中心に歩み出た。
「ほれほれ、その辺で止めておきなさいな。
まだ続けるようなら戦士の殿堂に人相書き回して出禁にしてもらうか、このまま海に浮かべるわよ?」
「・・・ちっ」
最後の一押しに男達は渋々と散っていった。
ケンカも決着した事で野次馬の波も引いていく。
「いやいや、流石は
。脅し文句も板に付いたもんだ」
「お褒めに預かり嬉しいわ。お礼に海に浮かべてあげましょうか?」
「怖っ!」
「だいじょうぶでしたか?」
「あ、こ、これは、ご、ご親切にどうも。
あ、あなた方は、た、確かカウフマンさんと一緒におられた・・・」
「ギルド、凛々の明星だよ!」
「ちゃっかり宣伝してるし」
「ふふ、いいじゃない」
「あんたは・・・遺構の門のラーギィだっけ?
ケンカ止めたいなら、まずは腕っ節つけな」
「あ、はい。すいません。ど、どうも・・・」
終始恐縮していたラーギィだったが、何かを思いついたらしい顔を向けた。
「あ、あの、皆さんを見込んで、お願いしたい事がありまして・・・」
「遺構の門からのお願いなら放っておけないね」
「ま、内容にもよるな。なんだ?お願いって」
「こ、ここで話すのはちょっと・・・と、闘技場まで、来て下さい。
そ、そこでお話しします」
立ち去ったラーギィを見送ると、レイヴンは唸るように呟いた。
「人に聞かれたくない話か・・・なんかヤバそうだねぇ」
「そうね、レイヴンからの情報並みに危ないかもしれないわね」
からの返しにレイヴンは力なく肩を落とした。
「でも、遺構の門に顔が通れば、ギルドでの名もあがるし・・・」
「欲張るとひとつひとつが疎かになるわよ。
今の私達の仕事は・・・」
「フェロー探しとエステルの護衛だからな」
カロルの言葉にジュディスとユーリが窘める。
暫くの間、考え込んだカロルは納得したように頷き返した。
「そうだね・・・うん、気をつける」
「でも、話を聞いてから、受けるかどうか決めても遅くないのでは?」
「そうだな・・・とりあえず闘技場に行ってみるか。
話だけでも聞きに」
エステルの提案にユーリが頷くと、一行は街に向けて再び闘技場へと歩き出した。
ラーギィから話を聞くため闘技場へ向かうと、人気のないところまで案内された。
そこでラーギィの口から出た頼み事は一行に衝撃を走らせた。
依頼の内容、それはユーリ達凛々の明星に、戦士の殿堂を乗っ取ろうとしている男を打倒して欲しいというものだった。
「いきなり物騒な話ね、それ」
「でも、なんであんたがそれを止めようとしてんの?
別のギルドのことだし放っておけばいいじゃない」
ジュディスに続いたリタの言葉にラーギィは反論した。
「パ、戦士の殿堂には、と、闘技場遺跡の調査を、さ、させてもらっていまして・・・
も、もし別の人間が上に立って、こ、この街との縁が切れたら、始祖の隷長に申し訳ないです」
ラーギィから出た言葉に驚いた
は、僅かに目を見開き口を挟む事なくラーギィを油断なく見つめる。
「始祖の隷長ってなに?」
「あ、すみません・・・ご存知ないですか。
この街を作った古い一族で、我がギルドとこの街の渡りをつけてくれたと聞いています」
カロルの問いかけに答えたラーギィに、レイヴンが肝心の乗っ取ろうとする男について問いかける。
「んで、どこの誰なのよ、その物騒なヤツって」
「と、闘技場のチャンピオンです」
放たれた言葉に数呼吸の間、誰も口を開く事が出来なかった。
漸く回復したらしいリタが、訳が分からないとばかりに半眼を向ける。
「はあ?なに、それ?」
「や、奴は大会に参加し、正面から戦士の殿堂に挑んで来たそうです。
そ、そして、大会で勝ち続け、ベリウスに急接近しているのです。
と、とても危険な奴です。ベリウスの近くからは、排除しなければ・・・」
その説明で事態が飲み込めたレイヴンはなるほどな、と納得する。
「そりゃ、戦士の殿堂も、追い出すに追い出せないわ」
「で、早い話が、オレ達に大会に出て、そいつに勝てって話だな」
「え、ええ、きょ、恐縮です」
端的に話をまとめたユーリがそう言うとラーギィは低い腰をさらに低くしたように頭を下げる。
その話にリタは疑わしそうにラーギィへ視線を送る。
「回りくどい・・・そいつの目的って本当に闘技場の乗っ取りなわけ?」
「もも、もちろん。
お、お男の背後には、海凶の爪がいるんです!海凶の爪は、この闘技場を資金源にして、ギ、ギルド制圧を・・・」
「キュモールの野郎辺りが考えそうな話だな・・・
あいつと海凶の爪は繋がってる。さて、ヤブをつついたら何がでるか・・・」
壁に背を預けて沈黙を守って話を聞いていた
は初めて口を開いた。
「ねえ、どーにも話ができすぎてると思わない?
ユニオンと対になる戦士の殿堂が、たかだか一ギルドが裏で企てたからって簡単に潰れるかしら?
それに・・・」
言いかけた
はユーリからラーギィへ視線を移す。
「ラーギィさん、さっき言ったギルド制圧って一体どこから貰った情報なんですか?
五大ギルドの一柱である遺構の門が、根も葉もない噂でそんな不穏当な発言してる訳じゃないですよね?」
「そ、それはもちろん。
こ、これは、憶測ではなく、たた、確かな、じ、事実で・・・」
「どちらにせよ、海凶の爪が関わっているなら止めないと!
帝国とギルドの関係が悪化するばかりです」
さらに問い詰めようとした
だったが、エステルが割り込んだ事でそれ以上の追及を諦めた。
代わりにジュディスが口を開く。
「フェロ―はどうするの?こんなんじゃいつ会える事か」
「で、でも・・・」
「あなた、本当にやりたい事ってなんなの?」
「本当にやりたいこと・・・」
「あ、あの、すみません。難しいでしょうか?」
自分の提案から話が逸れた事で、ラーギィは不安気に問えば話の腰を折ったジュディスが向き乗る。
「難しくはないわ」
「え?」
「やるんでしょう?話を聞いてしまったし」
「う、うん。ギルドとしても放っておけない話、かもしれないし・・・」
カロルの言葉に、話は決まった。
事実であれ罠であれ、ここは乗っかっておくか、と
は誰かの思惑に踊らされているような気持ち悪さを追いやるように息を吐き出した。
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2008.5.8