闘技場へと到着したユーリ達は、ベリウスがいるだろう重厚な扉へと進んだ。
「この先は我が主、ベリウスの私室だ。
立入りは控えてもらおう」
しかし、その扉を守るように一人の男がユーリ達の前に立ちはだかった。
左目にかかる眼帯、大きな傷跡を残す屈強な体、ユーリ達を鋭く見返す緋色の瞳。
威圧的な見た目とは裏腹に、礼節にとんだ受け答えは、主の質を映したようだ。
「そのベリウスさんに会いに来たんです」
カロルの言葉に眉根を寄せた眼帯の男はカロルに問う。
「なんだって?お前達は誰だ?」
「ギルド、凛々の明星だよ」
「・・・聞かない名前だな。主との約束はあるのか?」
先ほどよりもシワを深くした男の言葉にカロルはキョトンと目を丸くする。
「え?や、約束?」
「残念ながら、我が主は約束のない者とは会わない」
分かったら立ち去れ、というような雰囲気を放つその男に、話が進まないとばかりに一番後ろに居た
はその男の前に進み出た。
「ナッツさん、こんにちは。ご無沙汰してます」
「貴女は!」
知り合いらしい二人の会話にリタは後ろにいたレイヴンに振り向く。
「ちょっと、どういうわけ?」
「おっさんも知らないって」
「貴女が来たということは、何か仕事ですか?」
「いいえ、今回は私じゃなくて、こっちの・・・」
は後ろにいたレイヴンに視線を向けると、それに気付いたレイヴンが
の隣に進み出る。
「ドン・ホワイトホースの使いで書状を届けにきたんだけど」
レイヴンの言葉を聞いたナッツは姿勢を正した。
「ドン・・・こ、これは失礼。
私はこの街の統領代理を務めているナッツという。
我が主への用向きならば私が承ろう」
「すまないねぇ、一応ベリウスさんに直接渡せってドンから言われてんだ」
「そうか・・・しかしながら、ベリウス様は新月の晩にしか人に会わない。
できれば、次の新月の晩に来てもらいたいのだが・・・」
ナッツの言葉にジュディスは片手を頬にあて記憶を手繰る。
「満月はつい最近だったし、新月はまだまだ先ね」
「出直しますか」
無精髭を撫でながらそう答えたレイヴンにナッツは申し訳なさそうに眉根を下げる。
「わざわざ悪かったな。
ドンの使いの者が訪れた事は連絡しておこう」
「頼むわ」
ナッツはレイヴンに頷いて返し、ユーリ達はその場を後にした。
ーーNo.94 統領ーー
すでに夜を回ってしまったことで、この日はひとまず宿に泊まる事となった。
明日からの行動を相談し終えると、出し抜けにユーリは
に問いかけた。
「知り合いだったんだな」
主語のないその問いかけに、何の事を聞かれているか察した
は肩を竦めた。
「まぁ、レイヴンみたいに仕事で何度か来た事もあるし」
「ならベリウスにも会ったことあるの!?」
それを聞いたカロルが
に期待の籠った視線を送る。
その眩しい視線に幾分、気圧されながら
は言葉を濁しながらも肯定する。
「ま、まぁ、あるけど・・・」
「ホ、ホント!!」
「ほぉ〜、俺様初耳」
「だって今初めて言ったもの」
から返された言葉に、レイヴンはショックを受けたのか胡座をかいたベッドで肩を落とした。
「・・・俺様と
の仲なのに、隠し事なんて・・・」
「一体、どういう仲なのか果てしなく疑問なんだけど?」
「おっさん、うっさい。
話の途中なんだから、黙っていじけてなさいよ」
リタがぴしゃりと言い放つ。
「どんな方なんです?」
「悪いけど、それは言えないわ」
「なんでよ?」
「・・・他言しないって誓いを立ててるからよ」
「それって戦士の殿堂への、か?」
ユーリの言葉に
は明言せず、曖昧に笑みを返すと、身体を預けていた壁から背中を離し扉へと足を向けた。
「私もうくたくた〜。
だから先に休ませてもらうから。じゃ、おやすみなさ〜い」
「え?あ、ちょっと!」
「あー!逃げるな!」
ヒラヒラと後ろ手を振った
は、背後から上がる声に答える事なくそそくさと自分の部屋へと戻った。
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2008.5.7