ユーリ達は駆動魔導器の修理を終えたフィエルティア号へと戻ってきた。
故障の原因は結局、分からずトクナガの話では『突然動き出した』ということらしかった。
奇怪な事に疑問が尽きなかったが、ともかく当初の予定通り一行は予定通りノードポリカに向けて再び出発した。
ーーNo.93 闘技場都市ノードポリカーー
太陽が沈み薄闇に包まれた頃、漸くノードポリカへと入港を果たした。
「ご苦労様、どうもね」
船から下りたカウフマンは無事に到着したことに満足気な笑みを浮かべユーリ達に振り向く。
「ううん。こちらこそ、大助かりだよ」
「そうそう、お互い様ってヤツだ」
それにカロルとユーリが応じると、カウフマンの後ろから気の弱い声がかかる。
「あ、こ、これはカウフマンさん、い、いつも、お、お世話になって、い、います」
「またどこかの遺跡発掘?首領自ら赴くなんて、いつもながら感心するわ」
「い、遺跡発掘は、わ、私の生き甲斐、ですから」
腰が低く、どもるような口調の男にリタは胡乱気な視線を送る。
「あれ、誰・・・?」
「五大ギルドの一角、遺構の門の首領ラーギィよ」
それに
が答えると聞き覚えがあるのか、リタは首を捻る。
「遺構の門?何か覚えある・・・」
「そりゃあ、帝国魔導士の遺跡発掘をお手伝いしてるギルドだし」
「ああ、それで聞いたことあるのか」
レイヴンの言葉に納得したリタだったが、またすぐに眉根を寄せるとそのまま腕を組んで考え込んだ。
「で、では、な、仲間を待たせてお、おりますので、こ、これで」
ラーギィは言葉少なにカウフマンに言い残すと小走りに立ち去って行った。
礼儀正しいその男の印象にエステルは微笑を浮かべる。
「いい人そうですね」
しかしいつもであればそれに応じるリタは、ラーギィが立ち去った方へ視線を向けたまま口を開く。
「ねぇ、前に兵装魔導器を売ってたギルドの話をしてたわよね」
「海凶の爪か?」
ユーリの確認に頷くとリタは視線をこちらへ戻す。
「そこに魔導器の横流ししてんのあいつらじゃない?」
「遺構の門は完全に白よ」
リタの言葉をカウフマンは即座に否定した。
疑念を挟む余地を許さないその口ぶりにユーリは聞き返す。
「何でそう言い切れるんだ?」
「温厚で、まじめに、こつこつと。
それが売りのギルドだからなぁ」
カウフマンに代わりレイヴンが無精髭を撫でながら答える。
その説明は先ほどの実物をそのまま表しているようで、疑いを持つ方が間違いのような錯覚を抱かせる。
「あなたも同意見なのかしら?」
「まぁ・・・私の知る限りで疑われるような事とか後ろ暗い嫌疑がかけられたことがないのは確かね」
ジュディスの問いに
は肩を竦めて返す。
三度考え込んだリタの横で
はラーギィの去った方向を見つめる。
(「そうは言っても・・・私はイマイチ信用できないのよねぇ・・・」)
今まで培った
の直感がその言葉を鵜呑みにする事に抵抗する。
しかし、幸福の市場の首領でもあるカウフマンも絶対の信用を置いている。
(「思い過ごし、なのかしら・・・」)
「じゃ、契約も無事達成されたしもう行くわ。凛々の明星、頑張ってね。
、今度時間のある時にでもゆっくり飲みましょ」
いきなり声をかけられた
は慌てて思考を中断した。
「・・・え、ああ!そうですね。
それまでに美味しいの見繕っておきますよ」
楽しみにしてるわ、と言ったカウフマンに
はヒラヒラと手を振って見送った。
「どこかの魔導士が魔導器横流ししてるとか?笑えないわね」
「リタ?」
独り言を続けるリタに心配になったのかエステルが声をかける。
「え?ああ、うん」
それに漸く顔を上げたリタは考え込む事を止める。
「んじゃ、俺様は仕事を片付けてきますかね」
「手紙、届けるのよね?ベリウスに」
「そそ」
「ボクたちも行ってみようよ」
「そうだな。フェローの事、なんか知ってそうだしな。
挨拶がてら、おっさんをダシに会ってみようぜ」
ユーリの隠しもしない言葉にレイヴンは半眼を向ける。
「だだ漏れで聞こえてるんだが・・・」
「・・・挨拶、ね」
「何、
?なんかあるの?」
「んー、別に?
ほら、ベリウスに会いに行くんでしょ。
闘技場の方に行けば多分会えると思うから行ってみましょ」
カロルの言葉に返事をはぐらかすと
は先ほどラーギィが去って行った方向へと視線を送った。
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2008.5.7