トリム港を出ると魚人の群れが襲いかかって来たが、なんとか撃退しユーリ達はノードポリカに向けて順調に航海を続けていた。
船上では波に揺られながらうららかな陽光の下、目的地到着までの時間を思い思いに過ごしていた。
暫くすると晴れ渡った空は光を弱め辺りにはだんだんと靄に包まれていった。
「霧が深くなってきたわよ、なんだか」
「不気味・・・」
ジュディスの横でカロルは呟き不安気な面持ちで海上を見つめる。
しかしそこにはゆらゆらと白が立ち込めているだけで、見る人の心情によって何にでも見えるようだった。
「こういう霧ってのは大体、何かよくないことの前触れだって言うわな」
「や、やめてよ〜」
レイヴンの言葉にカロルは怖がるように情けない声を上げる。
そんなカロルにユーリは呆れ、冗談混じりにからかいだす。
「余計なこと言うと、それが本当になっちまうぜ」
そんなやり取りをしていると、リタが焦ったように眼前を指差す。
「あっ!前、前!」
「これは・・・ぶつかるわね」
「避けるのは距離的に無理かな〜」
焦る事をしないジュディスと
が言い終わったとほぼ同時にフィエルティア号は突如現れた目の前の何かに船体を激突させた。
ーーNo.90 彷徨う幽霊船ーー
ーースガーーーンッーー
「うぉおっと!」
「きゃぁああっ!」
「いやぁあっ!」
「うほほほぉー」
「うわぁああっ!」
「わふぅーーん!」
大きな衝撃が船を揺らし、船内に居たカウフマンは何事かと飛び出して来た。
「何・・・!?古い船ね。
見たことない型だわ・・・」
フィエルティア号がぶつかったそれを見てカウフマンは眉根を寄せる。
外観から相当古い歳月の経過した大きな船舶のようだった。
素人目でもよく沈没せず海に浮かんでいたものだと感心してしまうほどその船はボロボロだった。
「アーセルム号・・・って読むのかしら」
ジュディスが消えかかっている船名らしい文字を読み上げる。
するとそれが合図だったようにアーセルム号から突然足板が降りてきた。
「ひゃっ!」
「人影は見当たらないのに・・・」
「ま、まるで・・・呼んでるみたい」
足板から距離を取るように後退ったリタとカロルの後ろで、エステルが恐る恐ると呟く。
「バ、バカなこと言わないで!フィエルティア号出して!」
そんなエステルに即答で返したリタは操縦士のトクナガを急かす。
急かされたトクナガはフィエルティア号を発進させようと舵を握る。
が、
「駆動魔導器が動きません」
「え?い、いったい、どうなってるのよ」
魔導器に駆け寄ったリタが術式を展開するが、どこにも不調をきたすような所は見つからない。
奇怪すぎる現象にユーリにレイヴン、
は足板が降ろされた廃船を見やる。
「原因は・・・こいつかもな」
「うひひひ。お化けの呪いってか?」
「どう見ても幽霊船だしね。有り得るかも〜」
「入ってみない?面白そうよ。
こういうの好きだわ、私」
ジュディスの楽し気な言葉とは反対にリタは引き攣った声を絞り出す。
「何言ってんの!」
「原因わかんないしな。行くしかないだろ」
ジュディスの言葉に応じるように答えたユーリに今度はカウフマンが焦った声を上げる。
「ちょっと、フィエルティア号を放っていくつもり!?」
「んじゃ、半分が探索に出て残りが見張りでどうだ?」
「良いと思うわ」
妥協案を出したユーリにジュディスも頷き返す。
「じゃ、行くのはオレとジュディ、エステルとカロルでいいか?」
「先遣隊だからね、治癒術使える人が多い方が良いしベストなんじゃない」
人選に
も納得するとユーリはパチンと指を鳴らす。
「んじゃ、決まりだな」
準備が整うとトクナガが先頭のユーリに歩み寄る。
「どうぞ、お気をつけて。
駆動魔導器が直ったら発煙筒で連絡しますね」
赤い煙ですのですぐに分かると思います、と言ったトクナガにユーリは頷いて応じる。
「気をつけてね。お土産は足止めした犯人をふん縛ってきてもらおうかしら」
「おう、任せとけ」
のいたずらな笑みにユーリもにやりと返すと、ジュディス、エステル、カロルと共にアーセルム号へと姿を消した。
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2008.5.2