翌日、港へ向かおうとするユーリ達にリタも同行する事となった。
エアルクレーネの調査の為にエステルの旅に便乗する形になり、リタも加わったユーリ達は港へと歩き出した。


























































ーーNo.88 選択の結果ーー



















































船着き場までもう少しというところで、ユーリ達の進行方向から見知った人物を目に留めたエステルが声を上げる。

「あれ、ヨーデル・・・」
「あ・・・みなさん。またお会いしましたね」

エステルと同じ次期皇帝候補のヨーデルはにこやかに答える。
従者一人だけのヨーデルにユーリは胡乱気な視線を向ける。

「次期皇帝候補殿が、こんなところで何やってんだ?」
「ドンと友好協定締結に関するやり取りを行っています」
「うまくいってます?」

エステルから訊ねられたヨーデルは表情を曇らせる。

「それが・・・順調とはいえません」
「だろうなぁ。ヘラクレスってデカ物のせいで、ユニオンは反帝国ブーム再燃中でしょ」
「はい、その影響で帝国側でも友好協定に疑問の声が上がっています」
「ドンが帝国に提示した条件は対等な立場での協定だったしなぁ」

レイヴンとヨーデルのやりとりを聞いて、エステルは思い出したように に声をかける。

の言ったとおりですね・・・」

はそれに肩を竦めて応える。

「事前にヘラクレスのことを知っていれば止められたのですが・・・」
「次の皇帝候補が、何も知らなかったのかよ」

表情を沈ませたヨーデルにユーリは呆れたように突き返す。

「ええ、今私には騎士団の指揮権限がありません」
「『騎士団は、皇帝にのみその行動を委ね、報告の義務を持つ』です」
「なら、話は簡単だ。皇帝になればいい」

エステルの説明を聞いたユーリはそれで問題解決だろ、とヨーデルに返すがそれにエステルが言葉を濁す。

「・・・それは・・・」
「そうなってないってことは、何か事情がある、ってことでしょ」

事情を知っている風の の答えにヨーデルは隠す事なく頷いた。

「はい。私がそのつもりでも、今は帝位を継承できないんです」
「なんでよ」
「帝位継承には宙の戒典デインノモスという帝国の至宝が必要なのです。
ところが宙の戒典デインノモスは10年前の人魔戦争の頃から行方不明で・・・」

リタにヨーデルがそう答えると、 の後ろにいたレイヴンが無精髭を撫でながら呟く。

「ふーん、次の皇帝が決まらないのはそういう裏事情があったのね」

レイヴンの声を聞きながら は聞き覚えのある単語に記憶を手繰る。

(「宙の戒典デインノモス・・・確か、どこかで・・・」)
「・・・だからラゴウは宙の戒典デインノモスを欲しがってたのか・・・」
「あ!」

の前にいたユーリの僅かな呟きに、目的の記憶を思い出した は思わず声を上げる。

「なに、ユーリ? ?」
「いや・・・」
「ごめんごめん、なんでもな〜い」

カロルの問いかけに互いにはぐらかすように答え、タイミング良くリタがヨーデルに聞き返す。

「それにしても皇帝候補が道ばたへもへも歩いてて良いの?」
「今、ヘリオードに向かう所なんです」
「ここよりダングレストに近いからなぁ。その方がやり取りしやすいわな」
「ええ」

レイヴンにヨーデルが応じると、ヨーデルの後ろに控えていた従者から痺れを切らしたように声がかかる。

「ヨーデル様、そろそろ参りませんと・・・」

それに頷いて答えたヨーデルは、ユーリ達に振り向く。

「すみませんが、ここで失礼します」

ヨーデルを見送り、ユーリ達も止めていた足を進めた。
ただ一人、エステルだけがヨーデルの背中を思い詰めたように見つめており、それに気付いた が声をかける。

「旅を続けてしまった後悔?政務の手伝いをできない後ろめたさ?
それともワガママを通した申し訳ないって気持ちかしら?」
「えっ?あの、どういう・・・」

矢継ぎ早な主語のない の問いかけにエステルは困惑する。
そんなエステルらしい反応に は苦笑して口を開く。

「ヨーデル殿下だったけ?見送ったときさ、結構沈んだ顔してたからどーしたのかな〜って思ったの」

の指摘に視線を落としたエステルは、 に視線を合わせることなく言葉を紡ぐ。

「・・・ヨーデルは凄いです。きちんと皇族として帝国のために政治を執って、今も協定を結ぼうと奔走していて・・・でも、わたしは・・・」
「『自ら歩み寄り何かを得、学ぶために旅を続ける』」

エステルの言葉を遮るように ははっきりと言葉を発する。
それを聞いたエステルは落とした視線を に戻した。

「え?」
「エステルが自分で言ったのよ。
今まで城の中しか知らなかったあなたが、旅をして自分の目で見て感じて触れて、自分で考え出した答えを今行動に移してる。
今は終着地点が見えなくて焦りや不安で大変かもしれないけど、今感じてるその思いとかひっくるめて、無駄になる事はないわ」
・・・」
「自分で選んだ道だから受け入れられる、でしょ?」
「・・・はい」
「ほら、リタ辺りが心配する前に行きましょ」

数歩先にいる から差し出された手を取り、先ほどより晴れやかな気持ちになったエステルは共にユーリ達の後に続いた。

























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2008.5.1