ーーNo.86 優先すべきはーー















































労働者キャンプを後にしたユーリ達だったが、結局キュモールらの姿を見つけることは出来なかった。

「・・・見当たりません」
「結局、逃しちゃったみたいね」

エステルの言葉を引き継ぐようにリタも呟く。
完全に足が止まると、カロルはキョロキョロと辺りを見回した。

「ここはどのあたりなんだろう?」
「・・・トルビキア大陸の中央部の森ね。トリム港はここから東になると思うわ」

ジュディスがそう答えると、 は地図を思い描き口を開く。

「ここまで来ると距離的にトリム港が近いわね」
「ならヘリオードに戻るよりこのまま港に行った方が良さそうだな」

ついでだったキュモールの件を諦め、当初の予定を進めるというユーリの言葉にエステルは驚きの視線を向ける。

「え?キュモールはどうするんです!?
放っておくんですか?」

その言葉にユーリは口を開きかけるが、それより早くジュディスが言葉を紡ぐ。

「フェローに会うというのがあなたの旅の目的だと思っていたけど」
「あ・・・そ、それは・・・」
「あなたの駄々っ子に付き合うギルドだったかしら?凛々の明星ブレイブヴェスペリアは?」

ジュディスの突き刺さるストレートな正論にエステルは閉口し、絞り出すように口を開いた。

「・・・ご、ごめんなさい。わたし、そんなつもりじゃ・・・」
「ま、落ち着けってこった。
それにフレンが来たろ。あいつに任せときゃ、間違いないさ」

その場を収めるようにユーリが声を上げると、状況が分からないリタが困惑の声を上げる。

「ちょっと、フェローってなに?凛々の明星ブレイブヴェスペリア?説明して」
「そうそう、説明してほしいわ」

リタに続いた声がユーリ達の背後から響く。
この場に居ないはずの人物の登場に、一同は嫌々ながら視線を向けるとレイヴンがひょこひょこ歩いてくるところだった。

「ちょ、ちょっと、何なのよあんた!?」
「なんだよ。天才魔導士少女。
もう忘れちゃったの〜?レイヴン様だよ」

からかうように答えるレイヴンに射殺さんばかりの視線を向け、腰に両手を当てたリタが睨み返す。

「何よあんた」
「だ、だから、レイヴン・・・様。
・・・・んとに、怖いガキんちょだよ・・・」

リタからの鋭い視線から逃げるように背を向け、小声で呟くレイヴンにユーリが面倒そうに問いかける。

「んで?何してんだよ」
「お前さん達が元気すぎるから の手伝いって名目で、おっさん、こんなとこまで来るハメになっちまったのよ」
「どういうこと?」
「ま、トリム港の宿でも行ってとりあえず落ち着こうや。
そこでちゃんと話すからさ。おっさん腹減って・・・」

カロルにそう答えたレイヴンは自身の腹をさする。

「それは分かったけど、いつまでそうしているつもりよ?」

腕を組んだままの は肩に回されているレイヴンのもう片腕を視線で示す。
やっとまともに構ってもらえたレイヴンは嬉しそうに答える。

「またまた〜、 も嫌じゃないくせに。
お?もしかしてみんなの前で照れーーぐほっ!!

レイヴンの言葉は からの容赦ない肘鉄によって遮られた。
苦悶の声を上げ悶えるレイヴンにカロルは少年に似つかわしくない、愁いを帯びたため息をこぼす。

「レイヴンはあの天を射る矢アルトスクの幹部なのに・・・」
「カロル、天を射る矢アルトスクで尊敬するのはドンだけにしときなさいね」
「はあ、バカっぽい・・・」

悶えるレイヴンを気にすることなく、 は先頭にいるユーリに声をかけた。

「行きましょユーリ。
誰かさんのおかげで貴重な時間を無駄にしちゃったわ」
「いつまでもここに居てもしゃあねぇしな。
とりあえず、トリム港、だな」
「では、トリム港へ。それでいいわね」

ジュディスの言葉にエステルは頷き返した。

「はい、構いません。
ごめんなさい、わがまま言って・・・」
「じゃあ、しゅっぱーつ!」

カロルの元気なかけ声を合図に、誰もレイヴンを気にしないままトリム港へ向けて歩き出した。























Back
2008.4.26