ーーNo.84 新たな依頼人ーー















































結界魔導器シルトブラスティア近くまで歩みを進めたユーリ達は近付いてくる足音に物陰に隠れる。

「隠れて!」

の声で皆が隠れた直後、労働者キャンプに向かうエレベータに向かって二人の男が話しながら近付いて来た。

「おお、マイロード。コゴール砂漠にゴーしなくて本当にダイジョウブですか?」
「ふん、アレクセイの命令になんて耳を貸す必要はないね。
それに代わりは送ってるから問題ないさ。
僕はこの金と武器を使って、すべてを手に入れる」

聞き覚えのある声に は物陰の隙間からその声の主を見る。
の目に映ったのはカルボクラムでも会ったキュモール。
その隣には左目にかかるほどの長い暗菫色の髪、同色の燕尾服、独特の喋り方をする男が立っていた。
ふざけたしゃべりとは裏腹に、狡猾かつ抜け目のない仕事をする男に は気配を殺して油断のない視線を送る。

「その時が来たらミーが率いる海凶リヴァイアサンの爪の仕事、誉めてほしいですよ」
「ああ、分かっているよイエガー」
「ミーが売ったウェポン使って、ユニオンにアタックね!」
「ふん。ユニオンなんて僕の眼中にはないな」

やっぱりユニオンを攻撃するんだ、というカロルの呟きにユーリは口を噤むようにと、口先に指を立てる。

「ドンを侮ってはノンノン。
彼はワンダホーなナイスガイ。それに彼の腹心にはとても腕の立つガーディアンが居るという噂もありますからね」
「あぁ、ユニオンの裏切り者を殺してるって奴か。君でも正体を知らないとはね」
「何しろ相手は吹き去ったウィンドのように痕跡がナッシング。
ミー達も正体を突き止めるのはディフィカルトね」
「ふん、下民のくせに厄介な奴を手駒にしてるものだね」
「それだけドンの人望はユニオンではトップということデス。
それをリメンバーですヨ〜」
「おや、ドンを尊敬しているような口振りだね」
「尊敬はしていマース。
バッド、海凶リヴァイアサンの爪の仕事は別デスヨ」
「ふふ、僕はそんな君のそういうところが好きさ。でも心配ない、僕は騎士団長になる男だよ?
ユニオン監視しろってアレクセイもバカだよね。そのくせ、友好協定だって?」

キュモールがバカにしたように口を開いている横で、イエガーが突然背後のユーリ達が隠れている所を視線を投げる。
気付かれた、そう思った は身を固くし、最悪な状況になっても対応できるよう双剣に手を伸ばす。
しかし、イエガーは口端を上げただけで、何事もなかったようにキュモールと会話を続ける。

「イエー!オフコース!」
「僕ならユニオンなんてさっさと潰しちゃうよ。
君達から買った武器で!僕がユニオンなんかに、つまずくはずがないんだ!」
「フフフ、イエースイエース・・・」

キュモールとイエガーを乗せたリフトが労働者キャンプへと動きだし、会話は聞こえなくなった。
完全に離れたのを見計らうとユーリ達は物陰から抜け出した。
先ほどのイエガーの行動に気付いたようなリタとユーリは腹立たしそうに呟く。

「あのトロロヘアー、こっち見て笑ったわよ」
「明らかにオレ達のこと、気付いてたな」
「でも、イエガーが言ってた噂はボクも聞いたことあるよ」
「あらそうなの?」
「うん。悪いことをしたギルドの人が、いつの間にかいなくなっちゃうんだって。
その後の事も誰も知らないから、噂が本当かは知らないけど・・・」
「そんなことより奴らの後を追いましょ。
あんな男にユニオン攻撃されるなんて癪でしょうがないわ」
「それに強制労働もやめさせないと」

に続くようにエステルも答え、ユーリ達は労働者キャンプへと進んだ。





































労働者キャンプに着いたユーリ達だったが、そこも街中と同じように静まり返っていた。
周りを警戒しながら進んでいると、先に降りていたキュモールとイエガーをジュディスが見つけた。

「あら?さっきの人達よ」
「それに、赤眼の一団も・・・!」
「キュモールが赤眼の連中の新しい依頼人ってことみたいだな」

エステルの言葉に応じるようにユーリも呟く。
テントの陰から伺っているとイエガーが赤眼に何らかの指示を出したようで、赤眼は走り去っていった。
そんなイエガーの行動にぴんと来たのか、カロルが振り返って小声で伝える。

「ねえ、もしかしてあの変な言葉のヤツが赤眼の首領じゃないのかな?」
「あれ?上で聞いた会話で分からなかった?
リタが言ってたあのトロロヘアーが海凶リヴァイアサンの爪の首領、イエガーよ」

がカロルの推論を肯定するのと、何かが倒れたような音は同時だった。
音の方向に目を向けると、キュモールとイエガーの後ろで一人の男が倒れており、カロルは見覚えのある人物に声を上げる。

「あれ!ティグルさん・・・」
『お金ならいくらでもあげる、ほら働け!働けよ!この下民が!!』

呻き声を上げ動く事も出来ないティグルに向かって、キュモールは容赦なく鞭を振るう。
その行動に は目を細めると、立ち上がると膝に力を入れる。
が、それより早くユーリがテントの陰から姿を現した。

「あ、待っーー」

カロルの制止を聞かず、ユーリは手近の石をキュモールめがけて投げ放つ。
きれいな弧を描いたそれは、違わずキュモールの額を直撃する。

「だ、だれ!」

金切り声を上げたキュモールに、ユーリは小石を片手で弄びながら余裕の表情でキュモールを見返す。

「ユーリ・ローウェル!どうしてここに!」

驚きを隠せないキュモールの表情は、ユーリの後ろからエステルが登場したことでさらに歪む。

「ひ、姫様も・・・!」
「あなたのような人に、騎士を名乗る資格はありません!
力で帝国の威信を示すようなやり方は間違っています。
その武器を今すぐ捨てなさい。騙して連れて来た人々もすぐに解放するのです!」

エステルの言葉にキュモールは蔑むように言い捨てる。

「世間知らずの姫様には消えてもらったほうが楽かもね。
理想ばっかり語って胸糞悪いんだよ!」
「呆れて言葉もないわね。
自分の事を棚に上げてよくもまぁそんな事が言えるわ」
「全くだ。騎士団長になろうなんて妄想してるヤツが言うセリフじゃねーんだよ」

そんな会話を交わしていたユーリ達にようやく顔を上げたティグルは驚いたように目を見開く。

「あ、あなた方は・・・」
「もう大丈夫ですよ」

エステルは安心させるようにティグルに向け優しく微笑む。
全く窮地に陥っていないユーリ達にキュモールは苛立たしくイエガーに振り向く。

「イエガー!やっちゃいなよ!」
「イエス、マイロード。
ユー達に恨みはありませんが、これもビジネスでーす」

そう言ったイエガーの後ろに赤眼が控えると、海凶リヴァイアサンの爪の首領共々、一斉に襲いかかって来た。
























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2008.4.25