ユーリが騎士の詰め所に到着すると、暴れるだろう魔導士の怒号が響き発動した魔術で騎士が次々と倒れていた。
「よくもこんなところに閉じ込めたわね!あたしが誰だか知ってんの!責任者出せ!」
そう怒鳴った直後、ユーリの真横を炎が掠めていく。
「うわ・・・リタ、なんでこんなところに・・・」
その魔導士がリタだと分かると、落ち着くまで手を出さない方が賢明とユーリは静観することにした。
「お、おとなしくしろ!今・・・今、呼んでくるから・・・!」
「うるさーいっ!」
宥めた騎士に返された返事は紅の炎の玉で、直撃を受けた騎士は吹き飛ばされ床に伸びてしまった。
全ての騎士がリタ一人に倒された状況にユーリの口から呆れがこぼれる。
「メチャクチャだな」
そう言うと、リタの後ろに回り込み背後から羽交い締めにする。
「は、はなしてよっ!!」
「落ち着け、オレだ、オレ」
「・・・ユーリ?」
ユーリの声に暴れる事をやめたリタはなんでここにいるんだ、とばかりに眉をひそめる。
そんな二人に外から声が届く。
「エステル!待ってなくちゃダメだって!」
「大丈夫ですか!?・・・リタ?」
の制止を聞かず、飛び込んで来たエステルはユーリに捕まえられているリタに目を見開いた。
ーーNo.83 水面下の画策ーー
詰め所から外に出たユーリ達は、リタが騎士に捕まっていた事情を訊ねた。
「リタはどうしてこんなところに?」
「ここの魔導器が気になったから調査の前に見ておこうと思って寄ったの」
エステルに答えるリタにユーリが呆れたとばかりに呟く。
「で、余計なことに首を突っ込んだと。面倒な性格してんな」
「ユーリも似たり寄ったりだと思うけどね」
リタの鋭い視線を宥めるように
がユーリの指摘をする。
話を戻そうとエステルがさらにリタに問いかける。
「一体、何に首を突っ込んだんですか?」
「夜中にこっそりと労働者キャンプに魔導器が運び込まれてたのよ。
その時点でもう怪しいでしょ?」
「それでまさか、こそこそ調べまわってて捕まったってわけか」
ユーリの推論を首を振って否定すると、リタはユーリに向き直った。
「違うわ、忍び込んだのよ」
「・・・で、捕まったんだ」
「だって、怪しい使い方されようとしてる魔導器ほっとけなかったから。
そしたら、街の人が騎士に脅されて無理矢理働かされててさ」
リタからもたらされた情報に一同に衝撃が走った。
「乗り込む前にとんだ情報が飛び込んできたわね」
「じゃあティグルさんもそこで働かされてるんだろうね」
カロルの言葉にユーリは無言で頷く。
「こんなの絶対に許せません」
「それで、お前が見た魔導器ってのは?」
「兵装魔導器だった。
かき集めて戦う準備してるみたいよ」
リタの言葉にカロルの表情が不安に揺れる。
「まさか・・・またダングレストを攻めるつもりなんじゃ!?」
「でも、どうして?友好協定が結ばれるって言うのに・・・」
「分からない?帝国が開発したヘラクレスのおかげで、協定締結は難しくなるのは目に見えてた。
ユニオンがそれに反発して先走ったどこかのギルドの攻撃を警戒して帝国がそういう準備するのも予測できるわ」
エステルにそう答えた
はそう言いながらも胸中には疑問が渦巻いていた。
(「でも、ヘラクレスもある帝国がまた兵装魔導器を用意してるのが腑に落ちない・・・
ユニオンに対する警戒以外にも何かあるって事なの?
それともこれはまた別の・・・」)
困惑を表情に出す事なく考え込む
に、ユーリも口を開く。
「
の言ってる事も納得だけど、キュモールの奴が勝手にやってるかもしれないぜ。
きっとギルドとの約束なんて屁とも思ってないだろうしな」
「ここで話し込むのもいいけど、何か忘れてないかしら?」
話し込む時間が長かったのを思いジュディスが話を打ち切る。
当初の予定を思い出したユーリ達は、計画通り労働者キャンプに向けて進み出した。
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2008.4.22